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滞仏日記「健康bioブーム」 Posted on 2019/01/24 辻 仁成 作家 パリ

 
某月某日、週末は市場に買い物に行くが、ウイークデイはBIO(有機食材専門)スーパーに行くことが多い。ほぼ週4から5の割合で顔を出しているので間違いなく常連である。ちょっと前まで東京で有機食材専門店を探すのは結構至難の業で、日本滞在中は新宿にあるお店まで何度か足を運ばなければならなかった。ここ最近はフランスのBIOスーパーが都内に展開しはじめたので比較的便利になった。でも、パリのBIOスーパーの数は驚くほどに多い。一つの地区に必ず一つは見つけることが出来るし、普通のスーパーの中にBIOコーナーもあれば、BIOを謳う野菜などが普通の野菜と混ざって売られている。フランスではBIOは定着している。ちなみにBIOと書いて、ビオと読む。

僕がとくに最近ハマっているのが豆腐だ。通常のスーパーではほとんどお見掛けしない豆腐も、ビオショップに行けば冷蔵ケースの半分ほどが豆腐で埋まっている。しかもその種類の豊富さに驚かされる。豆腐の概念をここまで破壊されると面白くなる。僕のお気に入りはFilets de Tohu a L’ail des Ours つまり野性のニンニク豆腐の揚げたやつ。軽くオーブンとかフライパンで温めて食べるのだけど、意外な美味さで、癖になる。ニンニクと揚げ豆腐って確かにありだな、と唸ってしまった。もっと上の凄いやつは、Tohu Pizza。ピザ味の豆腐であった。買うのに相当勇気が必要だったが、これが味はピザなんだけど、触感が揚げ豆腐なので、邪道中の邪道。昔、柔道部だった僕がカラー柔道着を着たフランス人を見て、なんだこいつら馬鹿にしてんのか、と思ったあの感じに近かった。でも、食べてみたらイタリアン! ファラフェルとか魚介の揚げ物ケーキなど中東の揚げ物に近いテイストで悪くないというか買うべきかもしれない。子供は喜んでピザ豆腐を食べている。BIOだし、これ食わせる方が本物のピザより断然身体にはいいのかもしれない、と思っていたら、息子がぽつんと、いける、と小さな声で呟いた。ほら。
 

滞仏日記「健康bioブーム」

 
さらに、普通の豆腐ももちろん、絹ごしから木綿まで、ちょっとイメージは異なるけど種類豊富で、まあ、まあ、美味しい。けれども、進化した豆腐の方が圧倒的に数は多い。豆腐ハンバーグ、コロッケ系はかなり充実している。これらも各種の味があり、もう豆腐というのは名ばかり。ソーセージやウインナーも豊富で、魚介のソーセージが存在しているのだから、あってもいいけど、それをさらに燻製にしていたりして、終わりが見えない。まだ怖くて出が出せないのが、「豆腐よう」のようなもの。「完全に腐った豆腐をハーブで包んだもの」という名前のものまである。発酵食品なのだろうが、タイトルに二の足を踏んでおり、さすがにいまだ手が出せずにいる。怖いもの食べたさにはほどがある。(誰が食べてるんだろう?)得体のしれないハーブで包まれているので豆腐が何色かわからないし、その緑の部分も腐葉土のようで超不気味だ。でも、辻家は近所にいくつものBIO系のお店があって助かっている。日本食材そのものは少ないけれど、味噌にしてもゴマ油にしても彼らが開発したものは健康を意識しているだけに、安全で、まあ、まあまあ、美味しい。しかも値段は普通の食材と変わらないのだから、辻家のBIO運動は続く。
 

滞仏日記「健康bioブーム」

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