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ドナウ川詩情 Posted on 2018/05/19 辻 仁成 作家 パリ

 
どの都市にも必ず一つ大きな川が横切っている。
大河の流れるところに人が集まり都というものが誕生する。
ドナウ川ほどの大河ともなれば上流から下流までいくつもの都市が居並ぶ。
ドナウはいわば欧州の動脈といえる。
そしてブタペストはその心臓であろう。
その流れは東欧の重たい歴史を穏やかに忘却させている。
その流れは人々や文明を繋ぐ道でもあった。
 

ドナウ川詩情

 
ブタペストはドナウを挟んでブタ地区とペスト地区とにわかれる。
私たちが滞在したのはペスト地区であった。
はじめての街では必ずまず川を目指して歩くことにしている。
川岸に着くまでの間にその都市のおおよそのことがわかる。
人間も、歴史も、文化も、いろいろなことが見えてくる。
川面を見下ろし、そこに照り返す光りに心を開く。
 

ドナウ川詩情

 
ブタペストの歴史はドナウ川の両岸にそのすべてが凝縮されている。
私たち父子は一番最初に辿り着いた船着き場の一番手前の船に迷うことなく乗船した。
「レジェンダ」という名前の遊覧船であった。
 

ドナウ川詩情

ドナウ川詩情

 
少しの間、私たちと一緒に遊覧船でドナウを観光してみようじゃないか。

いざ、出発!
 

 


 
 
ブタ地区の丘の上に聳え立つブタ宮殿。
戦争、侵略により何度も破壊、拡張されてきたこの宮殿は、ハンガリーの、その複雑な歴史とともにプダペストの街と人々を見守ってきた。
 

ドナウ川詩情

 
ネオ・ゴシック建築の美しいハンガリー国会議事堂はラヨシュコシュート広場にある。
ハンガリーで最大の建物であり、ブダペストでは一番高い建物である。
 

ドナウ川詩情

 
ゲッレールトの丘の麓にかかる自由橋。
4つの柱にはハンガリーの建国神話に登場する伝説の鳥”トゥルル”が装飾されている。
 

 



 
ドナウ川は世界中のどの大河よりも穏やかだが、それだけに重たい歴史を背負って来た。
その重たさをこの流れが気の遠くなるような年月をかけて少しずつ少しずつゆすいでは流してきた。

私たち父子は多くの言葉を必要としなかった
ゆったりと流れる時間の中、船が元の船着き場に戻るまでの間、輝く光りの彼方を見つめていた。
私たちにとって旅とはそういうものだ。
どこかで記憶が静かに繋がるような尊い移動なのである。
 

ドナウ川詩情