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父子旅「アイスランドの首都、レイキャビック」 Posted on 2017/09/04 辻 仁成 作家 パリ

 
アイスランドの玄関、ケフラビック空港から首都レイキャビックまで車で順調にいけば45分。アイスランドの全人口33万人の3分の1ほど(11万人)が首都レイキャビックで暮らしています。
街並みは低層で、近代的、デザインも北欧に負けないほどに美しく、道はよく整備されており、はじめて訪れた国なのに運転もとってもスムーズでした。
 

父子旅「アイスランドの首都、レイキャビック」

 
今回はホテルではなく、アパートメントホテルを予約していたので、まずはチェックインすることに。
実はアイスランドは物価が驚くほどに高いのです。空港でサンドイッチを買ったら1500クローネ、だいたい1500円。日本の物価感覚の2倍から3倍以上という印象です。
ホテルに泊まりたかったけれど、高級ホテルだと東京の倍はします。アパートメントホテルで一番ランクの低い部屋を探し、借りましたが、それでも一泊4万円を超えます。この物価の高さはスイス並みですね。
33万人の島国だから、と高をくくっていましたが大間違い。我々は買い物も食事も慎重に吟味しながらのけちけち旅をすることになりました。贅沢は敵だ­! 
 

父子旅「アイスランドの首都、レイキャビック」

 
私たちが借りたアパートメントホテルはロビーもありません。予約をすると最初のドアの暗証番号が送られてきます。その番号で中に入ると、壁に「チェックインとチェックアウト用の鍵」と大きく書かれており、封筒に入った鍵が置かれているだけ。チェックアウトの時にドロップボックスに鍵を入れたら、おしまい。
人に会う必要もありません。
あまりに簡単なチェックインなので拍子抜けしましたが、逆を言えば気を遣う必要がないのでとっても気軽でした。
 

父子旅「アイスランドの首都、レイキャビック」

 
で、部屋はといえば、屋根裏部屋でどこか隠れ家みたい。息子くんは大喜びです。まず、巣作りをします。どこで寝るか、ベッド選びからはじまり、キッチンの機能などを調べ、Wi-Fiをチェックします。それから水とか食料とかを買いに近所のスーパーへ買い物に行きます。
グーグルマップがあるので、「スーパー」と打てばどこにどういうスーパーがあるのかすぐにわかるのです。便利な時代になったものです。

近くにBONUSというチェーンスーパーがあることがわかりました。スーパーをチェックするとその国の庶民度がだいたいわかります。キャベツがキロ250円くらい、冷凍のエビが250gで800円。フランスと同じくらいですね。外食は夜だけにして、昼は自炊をすることにします。レストランはいまどき、世界のどこに行っても味は大差ありません。外食よりも自炊を選ぶのは物価が高いからだけではありません。地元の珍しい食材やスパイスを選び、自分で料理して食べたいのです。これは旅の醍醐味と言えます。
もちろん、情報を集めて美味しそうな店で食べることもしますが、13歳の息子、あまり高級店に行くのを好みません。堅苦しい場所を子供は嫌うので、できるだけ自炊をすることにしました。
 

父子旅「アイスランドの首都、レイキャビック」

 
「アイスランドで食べるならシーフードかラム肉だよ」とフランス人の友人に聞いていたので、最初の夜はちょっと贅沢をすることになりました。
ちょうど、同じタイミングでデザインストーリーズのカメラマン、宮本たけし君がレイキャビックにいることが判明。彼と合流し、その情報から、地元の人に人気の高級レストラン「グリルマーケット」に行くことになりました。
サーモンとラム肉と牛肉のグリルを注文。それにワインを1本、息子くんは水。さすがにアイスランドのラム肉はとっても美味しかったのですが、牛とサーモンは正直、日本で食べる方が美味しいかな、と思いました。あと、付け合わせの野菜が今一つ。
実はアイスランド、火山島ですから、植物があまり育ちません。周辺国からの輸入に頼っているようです。物価が高い理由も納得。

「やっぱ、パパが作ったほうが美味しいね」と息子が結論づけてくれました。家計を預かる父としてはありがたい意見でした。
 

父子旅「アイスランドの首都、レイキャビック」

 
人口33万人のアイスランド、その首都レイキャビックは都市といえるのかどうかわからないぎりぎりの規模です。
一番華やかな目抜き通りは1キロ程度でしょうね。とっても短い繁華街です。ここにレストランやブティックや土産物店が並んでいます。
どこか軽井沢とか避暑地の目抜き通りという感じ、とても一国の首都の繁華街ではありません。

建物がとってもかわいらしく、まるでおもちゃの世界。色彩感覚もコペンハーゲンあたりに精通する北欧チック。
まだ荒らされていない感じが新鮮です。
 

父子旅「アイスランドの首都、レイキャビック」

父子旅「アイスランドの首都、レイキャビック」

 
「村のような首都」という表現が適切かどうかわかりませんが、住人はみんな顔見知りで和気あいあいと家族的な関係を維持しています。彼らからすると狭すぎる世界なので生きにくいに違いありません。でも、今は観光客で溢れかえり、アイスランドは欧州でも指折りのお金持ち国ですね。
豊かな人たちだな、という印象を持ちました。そして、みんなかなり知的です。

レイキャビックはどこもかしこもアートが溢れており、街全体がミュージアムのような感じ。それもとってもかわいらしい絵画のような。人々は優しく、控えめで、知性があり、何より犯罪率が限りなく低いのです。滞在している間、お巡りさんを見かけたのは一度きりでした。
夏は夜が短いのですが、その短い夏を過ぎると長い冬が待っているようです。だから、夏は誰もが開放的になっています。
 

父子旅「アイスランドの首都、レイキャビック」

父子旅「アイスランドの首都、レイキャビック」

 
宮本カメラマンに勧められるまま、ぼくら父子はレイキャビック市民プールに泳ぎに行きました。いえ、正確には温泉に浸かりに行ったのです。宿の水道をひねると、硫黄の匂いがする水が出てきます。火山島だから、市内に4つある市民プールはどこも温泉みたいな役割を果たしています。
入場料は900IKR、(約900円)4つの温度の異なる大きなジャグジーがあり、サウナもあります。巨大なウオータースライダーもあり、市民プールというレベルではありません。子供から年配の人まで大勢の市民でにぎわっていました。
 

父子旅「アイスランドの首都、レイキャビック」

 
そういえば、ビョークもアイスランド出身なんです。
レイキャビックは音楽のあふれる街でもあります。アイスランド出身のミュージシャンたちはビョークのような独特のセンスを持った人たちが多いようです。中心地にあるMENGIと呼ばれるライブハウスで地元の有名な歌手、オロフ・アルナルドさんのライブに行きました。歌いまわしも、演奏も、アレンジも、すべてが妖精のようにかわいらしく、しかも神秘的で、力づくの欧米のポピュラー音楽とは一線を画していました。

風土がビョークやオロフさんのような歌手を生み出すのでしょう。アート、音楽、建築、どれをとっても独創的で、目と耳と心に焼き付いて離れることのない新鮮さをもった街、それがレイキャビックでした。
訪れる価値のある本当に素晴らしい世界です。夏に行くことを私たちはお勧めします。
 

父子旅「アイスランドの首都、レイキャビック」