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「創刊のご挨拶」 辻 仁成 Posted on 2016/10/21 辻 仁成 作家 パリ

「おもしろきこともなき世をおもしろく すみなすものは心なりけり」この句の後半については諸説あるが、これは高杉晋作の辞世の句と言われている。この世を面白くさせるのも、面白みのない世界にするのも、自分の心の持ちようひとつ、という意味であろう。早いもので、日本を飛び出し、パリで暮らし始めて15年ほどの歳月が流れた。わが人生の4分の1の長さである。四苦八苦しながら永住ビザを取得し、パリ市民となり、やっと今、見えてきたものがある。フランスと日本の距離は1万キロ、時差にすると7、8時間。

私はこの10年、東京とパリを何十往復もした。同じように海外で生きる日本人たちと集まり、意見を交換することも多い。この世界で今、何が起こっているのか。起ころうとしているのか・・・。テロのニュースひとつとっても日本に伝わっている情報には何かが足りない。複雑に絡み合う長い歴史や複雑な政治問題や民族や宗教の絡みに絡んだ糸を読み解く必要がある。19世紀中頃、大勢の日本人が万博に参加するためパリに渡った。その結果、ジャポニズム運動が起こった。1870年代、日本文化、ことに日本のデザインは西洋の芸術家たちに計り知れない影響を及ぼした。いまだその影響力は大きい。高杉晋作のような連中だったのじゃないか、と想像するのは愉快である。

「創刊のご挨拶」 辻 仁成

さて、意匠という言葉がある。英語に置き換えるならば、DESIGNということになるだろうか。ものの外観を美しくするため、その形、色、模様、配置について、さまざまな人間的工夫を凝らすことを意匠と呼ぶ、あるいはその装飾的な考案。私たちは神の意匠の中で生き、想像し、思考し、苦楽を経験し、死んでいく。日々、私たちが使うこのデザインという言葉の中に潜む、もっと大きな本来の意味の意匠を求め、人間が人間らしく生きるために、その生きることをデザインしようとする発信プラットホームを日本の外側で仲間たちと建設することになった。おもしろきこともなき世をおもしろく、させたくて・・・。

日本人は世界に出なくなったと言われて久しい。とくに若い人たちは世界に興味がなくなったのか、海外で学ぼうとする日本人留学生の数もめっきり減った。それでも日本を離れ、海を渡り、世界各地で奮闘する日本人は大勢いる。世界各地でその立場は違えど、根を生やし、その国の人たちや文化と向き合っている日本人の目を通し、まさにこれからの日本の「生きる」を目撃していきたい。

デザインというキーワードを使うが、このデザインという言葉は「人間の喜びを形作るもの」という幅広いイメージを内在している。人間が作ったものがデザインだとするならば、その反意語は自然であろう。そして神が作ったデザインが自然なのである。私たち人類はその真ん中で生きている。よいデザインには必ず意味深い物語がある。
ただのデザインではなく、そこに物語を含んだ、冒険のデザイン、生き方のデザイン、愛のデザイン、日々のデザインなど・・・。デザイン+ストーリーズ。「生きるをデザインする」ための新しいマガジンがこのデザインストーリーズということになる。

「創刊のご挨拶」 辻 仁成

©Takeshi Miyamoto

ただのデザインの紹介雑誌ならばいくらでもあるだろう。
ここでは人間の意匠を通し、読者に生きることへの新たな提案、可能性、発見、なにより冒険の物語を提示する。具体的には、建築、インテリア、ファッション、工業デザインを含むデザイン全般、芸術、エンターテインメント、映画、文学、食、トラベル、創作、あるいは、ありとあらゆるライフスタイルに及ぶまで、人間が生きる上で必要な意匠環境に関わるすべてのものごとがその守備範囲となる。人間がデザインしたさまざまな物語を通じ、豊かに生きるためのヒントをこの中から探し取っていただきたい。世界中の都市から、その街で生きる執筆者の目を通して、躍動するまさに今のこの世界の息吹を切り取っていきたい。

人間には物語が必要である。クールなデザインに物語が付加されるとき、そこには潤いや豊かさが溢れ出す。素晴らしいデザインには奥深い物語が眠っている。デザインと物語とは相通じ、相乗効果をもたらす。物語のない素晴らしいデザインなど存在しないだろう。
人間とは何か、という根本命題が意匠の中にはある。
人生を果敢に挑戦し続ける人々が、その人生の冒険の中で手に入れた感覚、英知、経験、哲学、愛、未来をここでは好んで取り上げていきたい。そこには生き続けることの生々しい真実があり、完成されない未来地図がある。これは内側を向いた参考書ではなく、ありふれた情報誌でもない。今を生きる人間のための生きた電子の書物なのである。

おもしろきことをもっと発見し、世の中をさらに豊かにさせようではないか。

編集長 辻 仁成

Hitonari Tsuji