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人生は後始末「主演の貌。松岡充について」 Posted on 2017/04/02 辻 仁成 作家 パリ

映画を作る時、だれを主役にするか?
監督もプロデューサーもまずこの命題に悩みます。
これまで、いろいろな映画俳優さんと仕事をしてきました。
豊川悦司さんが最初の長編映画の主役でした。
空気のような不思議な人でいつもにやにや笑っていました。
大沢たかおさんは精悍でまじめな青年でした。今や押しも押されぬ大スターですね。
井川遥さんはデビュー作を2本やらせてもらいましたが、この方も今や大女優。
小生だけぽつんと置いてけぼり(笑)。
俳優には顔(貌)というものがあります。その顔が役柄にあっている人を選ぶわけです。

豊川さんの役は不治の病を患った人、大沢さんが切れやすい青年。
井川さんは銭湯の娘で、武田真治さんはホトケと呼ばれたのろまな若者。
みなさん、とってもいい味を出してくださいました。
まさに主演の顔、顔、顔です。
そうそう、アントニオ猪木さんは老レスラー役で主演でした。そのまんまですね(笑)。
渋かったなぁ。あまりに渋かった。
そして、新作「TOKYOデシベル」の主役は松岡充さんになります。
 

人生は後始末「主演の貌。松岡充について」

この人が演じる荒田宙也は東京の音の地図を作る研究者。
冷静で知的で物静かな男です。え? 全然違う?
ええ、松岡さんは大阪育ち、元気でバリバリ明るいお兄さん(笑)。
でも、それはロックスターとしての表の顔で、裏側は別人? さあ、どうでしょう。 
完成した映画を観た方々が「あんな松岡充はじめて」と口を揃えます。
ええ、今まで誰も見たことのない松岡充がそこには存在しています。
サービス精神旺盛な松岡さんを別人に変えるのは楽しい仕事でした。どんな役作りをしたんでしょうね・・・
彼は撮影中もその合間もずっと音の測定をしていました。
役者がだんだん主役の顔に近づいていく時、映画監督は喜びます。
明るい松岡さんが無口になっていき、力が抜けて、涼しい目で遠くを見つめだし、低い声でセリフを呟く時、映画の中にもう一人の人間が立ち上がっていくのです。
撮影3日目ぐらいから、もう別人!
新たな人間が生まれる瞬間を味わうことができる、醍醐味です。
これだけはさすがに小説で経験することができません。
 

人生は後始末「主演の貌。松岡充について」

東京と会話をする宙也の存在感がこの作品の中で柱となります。
高層ビルの上で宙也はマイクを東京に突き付け続けます。
地下水路の中で宙也は収音し、繁華街の中で耳を澄ませます。
彼の耳を通して、観客は東京の声を聴くという仕組み。
もしかすると一番セリフが少ない役柄かもしれない。でも、やりがいのある役だと思いますよ。
 

人生は後始末「主演の貌。松岡充について」

小生の最初の仕事は音楽でした。
ミュージシャンでしたから、いつか音の映画を作ってみたかった。
不協和音という言葉がヒントになり、この作品が生まれたのです。
調和のとれたハーモニーであれば問題ないですが、人が集まればどうしても不協和音が生じます。
小生はそういう歪んだ人間関係を描くことでこの世界を人間の深い心の底を見極めてみたかった。
荒田宙也はそこに耳を傾け続ける音の地図の案内人です。そして彼自身が歪んだ世界の中心で生きています。
 

人生は後始末「主演の貌。松岡充について」

「松岡さん、もっともっと力を抜いて、演技をしないでください」小生は松岡さんに言い続けました。
「え? 演技しないんですか?」(笑)。
大変だったと思いますよ。力を入れたいところで抜けと言われる。
人間はどこまで力を抜くことができるんでしょうね?
はたして、松岡充は荒田宙也になりきったのです。松岡さんのファンはびっくりすることでしょう。
「ええ? これ、充君じゃない!」とね。それこそ、小生の喜びです。
その通り、この映画の中の松岡充はSOPHIAの松岡充じゃない。
映画「TOKYOデシベル」の登場人物、荒田宙也なのです。
でも、きっと誰もがドキっとすると思いますよ。実はこのことに気が付いていないのは、本人だけなのです。

(笑)。
 

人生は後始末「主演の貌。松岡充について」

今日の後始末。

「映画の後始末は公開です。公開し終わるまでが映画です。みなさん、応援してください」


「TOKYOデシベル」5/20(土)より、

ユナイテッドシネマ豊洲(東京)
ユナイテッドシネマ札幌(北海道)
ユナイテッドシネマ豊橋18(愛知)
シネプレックス枚方(大阪)
ユナイテッドシネマキャナルシティ13(福岡)

にて上映。