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人生は後始末「好奇心とは醜い欠点である」 Posted on 2018/03/29 辻 仁成 作家 パリ

 
在仏歴16年にもなってしまいました。
フランスで暮らすことなど想像もしておりませんでしたから、人間の運命というものはまことに不思議なものです。
この地で生まれた息子はフランスの大学へ進学したいと明言しております。
彼が社会人になるまであと10年は小生なんとか頑張らないとならないわけです。
なんなんでしょうね、このフランスとのご縁……(苦笑)。

しかし、ここフランスで暮らしたことで小生はいろいろなことを学ぶことになります。
とくに自由と個人主義について。
集団の中で和を持ってよしとする日本と徹底した個人主義にこだわるフランス。
この二国を経験出来たことは作家にとって何よりの勉強となりました。
小生は言葉を生業にしてますからね、フランス人が使う言葉からまずは多くを学びました。
 

La curiosité est un vilain défaut. という言葉があります。
「好奇心とは醜い欠点である」とでも訳すのでしょうか。
こっちで、人の噂ばかりしていると、この言葉がポンとかえってきます。
ここで使う la curiosité(好奇心)はあまり良い意味ではなく、どちらかというと、他人のあれこれを詮索する野次馬根性というような意味での「好奇心」。

フランス人だって好奇心旺盛だし、噂話も好きなんですが、最後はいつもMais, cela ne nous regarde pas. 「ま、私たちがとやかく言うことではないわな」と結ぶんです。
3人組の漫才師が噂好きの人たちを揶揄った有名なコントでも繰り返されるこのフレーズ。
フランス人の噂話にはつきもので、どっちかというと自嘲気味に使います。
どこか、大阪の「知らんけど」に似ています。知ってるやん!!(笑)。

一般的に他人のプライベートに首をつっこむことはフランスではタブー。
何もしらない外国人が、フランス人に立ち入った質問をしたりすると、Occupe-toi de tes affaires! 「自分の世話をしてろ!」と一蹴されてしまいます。
日本語で言う「余計なお世話」ですね。あるじゃないですか、日本にも素敵な言葉が!
 

ある日、息子の小学校にお母さんが二人いる男の子が転校してきました。
男女の夫婦ではなく、女同士で家庭を作ったということですね。詳しくは知りませんよ。
興味を示したクラスメイトたちが「どうして君にはお母さんが二人なの?」と質問攻めにしたのです。
子供ですからね、その辺は純粋に疑問を持って聞いたわけです。
すると担任の先生がその子に代わって、こう言い放ちました。
Parce que c’est comme ça! 「なぜなら、そういうことだからよ!」
そして、その質問はそれで終わり。
子供たちはみんな「ほー」と納得し、それ以来、誰もその転校生に同じ質問をぶつけることはなったのだとか……。
「そういうことなんだから、そういうことだよ!」
と締めくくる息子に、なんでなんで? それでおしまい? と訊き返したら、
「Occupe-toi de tes affaires!」
と言われてしまいましたよ(笑)。やれやれ、小生が一番噂好きな日本人じゃ! 

昔、ミッテラン元大統領が記者から「大統領、あなたには愛人がいるそうですが?」と質問され、即座に「Et alors? (だから? どったの?)」と返したのは有名な話ですね。
これ、渡辺淳一さんが小説にしてました。
マクロン現大統領だって、25歳年上妻、略奪愛などと騒がれましたけど、事実を隠すこともなければ、彼の大統領としての評価に影響を及ぼすことも一切ありませんでした。
ワイドショーがマクロン夫人の元夫を追いかけて騒ぐこともほとんどなかった。
下世話な週刊誌も存在しますが、その内容が表舞台で議論されたりはしません。
あ、そもそも、ワイドショーというものが存在しない(笑)。
小生がフランス人だったら、もう少し楽な人生を歩いていたかもしれないですね。ね? あはは。

あ、思いだした。
アメリカのクリントン元大統領がモニカ・ルインスキーさんと「不適切な関係」をお持ちになって弾劾裁判にかけられましたが、その時、友人のフランス人が面白いことを抜かしました。
「アメリカ人ってのはあんなに優秀な大統領をあの程度のことで裁判にかけちゃうんだから、愚かな連中だ。フランスならまず国益を優先するから、不倫で裁判になんてならないさ」
日本人の小生、ひっくりかえって大笑いをしたのを覚えております。
この辺がフランス人の底力なのかな~、と。
いや、これはフランス人の見解であって、小生は、不倫は絶対いかん、と思っております。
当事者同士が納得しているものごとや関係を、他者が「好奇心」でかき回すことはフランス人にとって最も「醜い」こと、なのだそうです。
最初の言葉、「好奇心とは醜い欠点である」に行きつくわけです。
勉強になりますね。
 

フランスでは、人がプライベートをあれこれ詮索され、その事実をカメラの前で謝罪させられたり、細かく経緯を説明するなど、もっての外と映るみたいです。

「あの、ホテルの部屋で映画を観てただけです。ほんとです」
いくら芸人さんでも、なんでここまで釈明しないとならないのでしょうね。それ聞いて、他人がどうしたいわけ?
夫婦の問題じゃないの? あるいは愛人とご夫婦の問題でしょ? 

もちろんフランス人だって噂はしますよ。結構、こそこそっとカフェで耳打ちしていたりはします。
しかし、ゴシップ話をしても、それは、あくまでその人の人生だからね、という前提での話で、市民裁判などは起こりませんし、誰も人をつるし上げることはしません。
他人が立ち入ることじゃない、というのがフランス人の断固たる姿勢なんです。
それがこの国一流の大人の感覚だと思います。
うちのライターの佐伯幸太郎に聞かせてやりたいですな。あのゲス野郎(笑)。
 

人生は後始末「好奇心とは醜い欠点である」

 
今日の後始末。

「人は人それぞれ、ぼくはぼくぼくらしく、まわる地球で」