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人生は後始末「子育てと自分育て」 Posted on 2018/04/22 辻 仁成 作家 パリ

 
離婚の時に小学5年生だった息子君、来年、9月で高校生になります。
胸元くらいの背丈だった息子がこの数年で小生の身長を越えました。
彼にとってどのような歳月だったのでしょう。
いったい、どのような人間に育っているのでしょう。
周囲の人たちはとっても優しい子だと言います。
友だちが多く、みんなに慕われており、しょっちゅう彼の友人たちがうちに遊びにやってきます。
その輪の中心に息子がいることは間違いありません。

しかし、彼にはつねにどこか普通の子供のような無邪気さがありません。
急速に大人にならなければならなかったからかもしれない。
父と子の二人暮らし、他に心を許せる人間が周囲にいなかったせいもあるでしょう。
多分、強い子になるために必死に成長を遂げようとした形跡があります。
子供らしい心をどこかで一旦隠してしまったのかもしれない。
この辺のところは専門家じゃないからわかりませんが、家庭環境の影響はあるでしょう。
自分の置かれた現状を理解するために戦ったこの数年だったはずです。
 

人生は後始末「子育てと自分育て」

 
先日、学校の課題図書を買ってほしいというので取り寄せましたら親の離婚についての小説でした。(「ある夜、ぼくは両親と別れた。un soir, j’ai divorce de mes parents 」Rachel Hausfater著)
「あまり、書物の影響を受けるなよ」と伝えてからその本を手渡しました。
「課題図書だから、仕方ないじゃん」と彼は言いました。
フランスは離婚率が日本よりも高いので同じ境遇の子供たちがたくさんいます。
なので、こういう本を学校は推奨し、本人はもちろん、周囲の子たちへも離婚という環境への理解を深めさせようという狙いがあるのでしょう。
本の中身について彼はあまり多くを語りませんでしたが、いろいろと心を整理することができた、でも、前向きになれた、と申しておりました。
小生も読むつもりです。

親である小生もそういう息子と寄り添ってやってきましたが、異国での仕事と子育ての両立は、まあ一言であえて告げるなら簡単ではありませんでした。
そろそろ、疲れが出る頃だな、と思っていた矢先のこと。
不意に軽度の突発性難聴になってしまったのです。
とにかく普通に立てません。
立つとふらふらして、頭の中がぐわんぐわん揺れ、まるで船酔いのような状態。
家事が全くできない。やる気が出ない。呼吸が苦しい・・・。
家事をやらなきゃと考えるとこの症状が酷くなるのです。
軽度だったので、ステロイド剤を飲んですぐに完治しました。
精神的な不安や悩みが原因の一員だろうと医師は言いました。
離婚直後の胃潰瘍といい、見た目にはのほほんとしているようですが、中身はそうはいかないものです。
これから息子は大学受験へと向かう。小生は間違いなく年老いていく。
能天気な小生ですが、肉体からの黄色信号、これを無視することはできません。

人生はどこか、だましだまし進まないとならない時があるようです。
まさに小生にとって今がその時期。
生き急ぐよりも、慌てない小さな歩みの積み重ねが大事なのかもしれません。
 

人生は後始末「子育てと自分育て」

 
今、小生には3つの大きな仕事上の実現が迫っています。
この人生における一大事業の根幹に「ルネッサンス」という言葉を配置しました。
再び生まれて新しい自分を再生させるというプロジェクト。
過去にしがみつくのではなく、それを捨てて、未来へ向けて一から生まれ直すという道。
人間、夢を持ち続けるということは大事ですね。
そして、現実をおろそかにしないということも大事。
小生が受けた軽度の突発性難聴は子育てと自分育ての狭間にいる58才の自分のささやかな抵抗のシグナル、あるいは自分から自分への警告だったのかもしれません。
用心しながら両者の実現へ向けて再び歩き始めたいと思います。
休み休み進んでいく、だましだまし前進する、のがベストでしょう。
何せ、何もやらないで生きることのできない人間なものですから・・・。(笑)

今日は土曜日なので息子と一緒に公園でキャッチボールをやることにします。
快晴なので、いい心と肉体の解放になることでしょう。
平衡感覚を取り戻せた小生はこうやって元気で動けることに大きな感動を覚えています。
普段は歩くことなど当たり前と思っていますが、いざ思うように歩けなくなった時、当たり前が当たり前じゃなくなって、世界の価値観がひっくり返ります。
当たり前の日常を生きられることに不平を言うのはやめなければなりません。
その上で、少しずつ夢を実現させていくのがよろしいでしょう。
 

人生は後始末「子育てと自分育て」

 
今日の後始末。

「自分の心と折り合う」