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人生は後始末「モン・サン・ミッシェル、撮影秘話」 Posted on 2018/06/09 辻 仁成 作家 パリ

 
息子が言い出しっぺの2Gチャンネル、はじめてひと月が経ちました。
先日、またまた息子の一言によってモン・サン・ミッシェルで撮影をすることに決まったのですが、直前に彼が気管支炎になり、結局、小生は一人で出かけることに。
ちなみに一番最初の動画「Ne me quitte pas」の撮影は友人のOカメラマンさん、M助手さん、息子君を含め四人で撮影をしました。
なんだかんだわからないことだらけで、撮影は撮り直しもあり二日間に及び、アップロードするまでにさらに一週間以上の時間を要しました。
 

人生は後始末「モン・サン・ミッシェル、撮影秘話」

 
しかし、今回は一人。カメラマンも集音も演奏もすべて一人でやらないとなりません。
しかも、モン・サン・ミッシェルで。これはなかなか勇気のいることですね。
そもそもモン・サン・ミッシェルまで車で往復10時間もかかります。
早朝に出て昼前には現場に到着、駐車場に車をとめ、機材をキャスター付きのキャリーバックに詰めて、ギターを背負い、観光客らの間をとことこ歩きました。
でも、なぜか楽しくてしょうがない。
凄い映像を撮ってみんなを喜ばせたいと思うと足が軽くなります。るんるん。
ユーチューバーの気持ちがよくわかる昨今です。
 

人生は後始末「モン・サン・ミッシェル、撮影秘話」

 
カメラは映画「PARIS TOKYO PAYSAGE」で活躍したキャノン5D。集音はROHDEのガンマイクとZOOMのハンディレコーダーを使いました。
海沿いは風が凄いのでZOOMには手作りフードをかぶせて防風対策も完璧。
だいたいの撮影画角を決めたらセッティングし、モデルがいないので、とりあえず 撮影→確認→テスト、を繰り返します。
結構大変ですが、しかし、もっと大変なことがありました。
それは観光客。

モン・サン・ミッシェルへと向かう中洲道の真ん中ほどを最初の撮影ポイントに決めました。
遠くにモン・サン・ミッシェルが見える、なかなかのポイントです。
カメラを設置し、歌い始めると、観光客の皆さん、声を聞きつけ、あれよあれよという間に人だかり。
そりゃ、そうですよね。黒マント着て土手で熱唱する日本人がいるんですから。笑。
次々、人が溜まっていく、これがやりにくい。
いちいち、拍手に答える父ちゃん。
でも、ここは無視して歌い続けないとなりません。
通りがかった韓国人の女性たちがやはりYouTubeをやっているとかで、ちょっと手伝ってくれました。
即席のアシスタントの出現に、アンニョンハセヨ。
誰とでもすぐに仲良くなる能力の高さが小生の自慢です。
孤軍奮闘の撮影風景を記録してくれました。
 

人生は後始末「モン・サン・ミッシェル、撮影秘話」

 
3テイクほどそこで撮影してから、再びキャリーバックに機材を詰め込んで移動。
すると、いつもは海が広がっているのに、モン・サン・ミッシェル周辺に水が無い!!!
驚き、海辺にいる警備おじさんに訊ねると、この時期、一週間ほど潮が引いて陸地になるのだとか、オーマイガッド! 
思わず、モン・サン・ミッシェルの守護神、聖ミッシェルに手を合わせてしまいました。
 

人生は後始末「モン・サン・ミッシェル、撮影秘話」

 
モン・サン・ミッシェルから干潟を歩き、200メートルくらい沖合? の誰もいない海底? だった干潟を撮影ポイントに決めました。
物凄い眺めです。周囲には誰もいないのに、正面にど~んとモン・サン・ミッシェルが聳えています。
ここで歌っていいの? マジですか、聖ミッシェル様!
ここまで来た甲斐があったというものです。
機材を設置しながら、その手が震えています。
武者震いというやつです。
 

人生は後始末「モン・サン・ミッシェル、撮影秘話」

 
テストを繰り返し、なんとなくピントを合わせます。
太陽が真上にあり、ギラギラと照り付けてきます。
物凄い風が吹きすさんでいて、髪の毛はもう手に負えない状態。
でも、そんなのはどうでもいい!
今、この瞬間には感動しかありません。
カメラの録画ボタンを押し、撮影状態を確認してから録音機材のボタンを押し、それからギターを抱えてカメラの前に座りました。
ドキドキしていると、不意にどこからか鐘の音が、え、マジかよ!
振り返ると、モン・サン・ミッシェルの時を告げる鐘でした。
この瞬間を逃してはいけない。
カメラは回っています。
「聖ミッシェル、力をください、いつもライブで歌詞を間違えてファンの方々に呆れられているんです。でも、今日は間違えるわけにはいきません」とお願いをしてから歌い始めました。
歌いだすと不思議なことにピタッと風が止んだのです。
真空のような、火星の沙漠に立ったような……。
もう自分の力ではないと思うとどこからか物凄いエネルギーが沸き起こって来たのです。
 

二番に入ったあたりから再び強い風が吹き抜けていきます。でも、もうどうでもいい。風の音も味です。風もこの歌の一部にしてしまえばいんです。 歌い終わると、暫く動けませんでした。
小生をこのような場所に誰が呼んでくれたというのでしょう。
息子がユーチューバーになりなよ、と言ったのはひと月半前。
思い付きではじめて気が付いたら四本目の動画です。
なぜ歌をはじめたのか、なぜ頑張るのか、なぜ自分は今ここにいるのか、と自問しました。
目の前のカメラと目が合いました。
そうだ、その答えはこの動画の中にあるのだと思い、思わず地平線に向かって、カット、と叫んでいたのです。
その時のテイクがこれになります。
 


 
家に帰り、息子と動画を見てもう一度びっくり。
撮影前は誰一人いなかった干潟。なのに、間奏になるとどこから現れたのか、小生の背後を大勢の人たちが過りはじめたのですから……。
どこからやって来たんだろう、誰もいなかったんだよ、と息子に言いました。
エキストラみたいだね、と息子が言いました。
間奏の終わりの方で、一人の男性が遠くから走ってくる犬に両手を広げて笑顔を向けているのわかりますか?
背中ですが、たぶん、笑顔のはずです。
それがまるで映画のワンシーンのようで感動してしまうのです。
この動画には見えざる多くの聖ミッシェルの力が及んでいる気がしてなりません。
動画を見てくださった皆さまによいことがおきますように。
 

人生は後始末「モン・サン・ミッシェル、撮影秘話」

 
今日の後始末。

「モン・サン・ミッシェルにて、人間は瞬間瞬間の中で生かされているのだと気づかされました」