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人生は後始末 「第一印象は嘘をつく」 Posted on 2017/01/11 辻 仁成 作家 パリ

「第一印象は嘘をつく」

これは小生のとある小説の冒頭です。
人間というのは不思議な生き物でしてね、出会ったころは嫌なやつだなと思っていても、その人がのちに命の恩人になったり、生涯ともに生きることになったり、この逆もあるわけでして、まさに第一印象というものはあてになりません。

ところが第一印象でものごとが決まる、決めることもよくある話でして、後々、いろいろと綻び始めます。
人間というものは見極めるのが難しいですな。あの笑顔に騙されたみたいなことはよくあります。
かくいう小生も、息子によく窘められます。
「パパはすぐに人を信じる。そして、裏切られるね」って。
ま、それも勉強です。

一期一会といいますからね、ご縁を悪い方に思いたくない。
そのせいで、出会いにはなんらか縁があるのだろうと、いいほうに考えがちなんですな。
ところが縁というものにはいいものもあればそうじゃないものもある。
当然です。縁は表裏一体ですよ。

人生には、縁もあれば、しがらみもありますね。
しがらみとは元々、水流を堰き止めるために川の中に杭を打ち並べ、そこに木枝や竹などを結びつけたもののこと。
転じて、引き留めまとわりつくもの。邪魔をするものです。
あいつとは変なしがらみがあってね、と言いますね。
ご縁だと思っていたものがしがらみに変化することもしばしば。

しかし、そのしがらみの縁でさえ、意味はあるんです。
良縁だけの人間なんかいませんぞ。
良縁であるかどうかを悟るために、人生の流れが幾度と堰き止められてきたはずです。
小生はそういう川を渡った果敢な人生を誇りに思っています。

「右岸」「左岸」という小説を作家の江國香織さんと書きました。
小生たちはもちろん良縁です。たぶんきっと。
「右岸」「左岸」を書き始める前に、一本の川を書こうと二人で話し合って決めました。
小生が右岸を受け持ち、彼女が左岸を受け持ちました。
その真ん中に一本の川が見えてくるという壮大なしかけです。
書き終わると、確かに二人の間に一本の大河が流れておりました。
これがご縁の川です。

江國さんとはいわゆる恋とかしたことがありませんね。なぜでしょうね。あんなに素敵な方なのに。
そういうもので終えたくなかったのかもしれない。
だから、つかず離れず、長きに渡り小説を書くことができたのでしょう。

彼女とは一生に一度の出会いですね。ええ、一期一会です。
きっと小生の葬式か、彼女の葬式で残った方が、静かに微笑みを携えていることでしょう。

残りの人生でもう一度くらい何か一緒に書いてみたいなぁ。
あと、20年後くらいに・・・。

できれば良縁の話を。
 

人生は後始末 「第一印象は嘘をつく」

今日の後始末 

「息子がそこら中に脱ぎ散らかした服を腰を労わりながら拾い集める父なり」