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コロラトゥーラ(ソプラノ歌手)として歩む、音楽の故郷 ウィーン Posted on 2017/05/19 田中 彩子 ソプラノ歌手 ウィーン

ウィーンに住んで早くも15年。
3歳からピアノを習っていた私は、食事をするのと同じような感覚で毎日ピアノを弾き、当たり前のように「将来はピアニストになる」ことを目指していました。
だけど、高校生になり、人より手が小さいこと、そして自分の才能に限界があることを感じだし、17歳の時にプロを目指すのは諦めました。

それでも、物心がつく前からそばにあった音楽から離れることができなかった……。
悩んだときに薦められたのが、声楽家への道でした。
そしてその半年後、まだろくに歌ってもいないまま、当時の歌の先生に薦められ研修旅行に行くことになったのです。その行き先こそが、ウィーンでした。
 

コロラトゥーラ(ソプラノ歌手)として歩む、音楽の故郷 ウィーン

モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト……歴史的に偉大な作曲家たちが集まった街。
そして今でも世界中から「我こそは」と、トップを目指す選りすぐりの音楽家が集まる街。
ウィーンで認められ、成功するということは、音楽家にとってなによりも名誉なことです。

でも、ウィーンの街へ降り立った瞬間、そういった理屈無しに私は衝撃を受けました。
目から見る景色、肌で感じる風、街の匂いや舌で味わう水や空気まで、私の五感全てが「ここが、今までピアノで弾いてた音楽の生まれ故郷だよ!」と言っているように感じたのを今でも覚えています。
まるでいままでバラバラだったパズルのピースが、すべてはまって絵が完成したような、不思議な納得感でした。
 

コロラトゥーラ(ソプラノ歌手)として歩む、音楽の故郷 ウィーン

その時に歌のレッスンを受けた宮廷オペラ歌手との出会いが、私の人生を大きく変えました。
長らくヨーロッパのオペラ界でプリマドンナだったブルガリア人の彼女は、とてもやさしくて、温かくて、パワー溢れる美しい女性でした。
当時、私はもちろんドイツ語なんてできませんでしたが、身振り手振りでする彼女とのレッスンはとにかく楽しくてわくわくするものでした。
そして最初のレッスンの後すぐに
「本気でプロになりたいのなら、今すぐウィーンに来たほうがいい。貴方にはその可能性がある」
とお誘いを受けたのです。
私は「それならば」と、悩みもせずすぐに留学を決意しました。
研修旅行から帰って3ヶ月後、18歳、単身ウィーンへ留学しました。

それから4年後、22歳の時に、最年少でオペラ歌劇場でソリストデビューをしました。
今年はソプラノ歌手になって11年目になります。
 

コロラトゥーラ(ソプラノ歌手)として歩む、音楽の故郷 ウィーン

ウィーンは人も街の流れもとてものんびりです。
言葉も、ウィーン訛りのドイツ語は(ドイツのドイツ語に比べ)とてもやわらか。
古きよき伝統と誇りが今でも残る街と人の性格は、少し京都に似ているように感じます。
「Schau ma mal 様子みてみよう~」というのはウィーン人の口癖で、ふんわり白黒はっきりさせないのも、とてもウィーン風。

こぢんまりとしたウィーンの街中を歩けば、いたるところにウィーンに関係した沢山の作曲家たちの面影がそのまま残っています。シューベルトが指揮をした教会、マーラーが好きだったタルトがあるカフェや、ヨハン・シュトラウスが”美しき青きドナウ”を作曲した家。
その横を馬車が走っている風景を見ると、彼らと同じ時間にタイムスリップしたような気持ちになります。
ウィーン独特の空気感がそうさせるのでしょう。
 

コロラトゥーラ(ソプラノ歌手)として歩む、音楽の故郷 ウィーン

緑の中を散歩したい、と思ったらすぐに市内から路面電車で30分ほど走ると、ワルツとワインで有名な”ウィーンの森”へ行くことができます。
小川が流れワイン畑の広がる静かな小道を散歩するのは私の趣味のひとつ。
200年前のこの同じ森を、かの有名なベートーヴェンやブラームスが考えごとをしながら散歩をしたり、作曲したりしていたのです。
 

コロラトゥーラ(ソプラノ歌手)として歩む、音楽の故郷 ウィーン

コロラトゥーラ(ソプラノ歌手)として歩む、音楽の故郷 ウィーン

彼らはたしかにここに存在したのだ、などと思いを馳せながら同じ道を散歩することができるのは、ウィーンならではの贅沢。音楽家にとっては神に近い存在の偉大なる作曲家たちも、笑ったり泣いたりしながら実際に生きていた「人」だったんだ。
そんなことを改めて感じることで、音楽室に飾ってあった真面目な顔した作曲家たちの違った一面が見えてくるようです。

そんな音楽の宝箱のような街ウィーンでの暮らしを、ゆるやかにお伝えできたらと思います。
 

コロラトゥーラ(ソプラノ歌手)として歩む、音楽の故郷 ウィーン

Posted by 田中 彩子

田中 彩子

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Ayako Tanaka
ソプラノ歌手。京都府出身。10代から単身ウィーンにて声楽を学ぶ。22歳でスイス・ベルン歌劇場で日本人初、且つ最年少での歌劇場ソリストデビューをして以来、コンツェルトハウス(ウィーン)、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団(ロンドン)、ナショナルシンフォニー交響楽団(ブエノス・アイレス)等コンサート・ソリストとして欧州を拠点に活動中。
毎日放送『情熱大陸』出演。デビューアルバム『華麗なるコロラトゥーラ』(エイベックス・クラシックス)、フォトエッセイ『Coloratura』(小学館)発売中。