PANORAMA STORIES

ベルリン、アンダーグラウンド Posted on 2018/12/30 エロチカ・バンブー バーレスクダンサー ベルリン

ベルリン、ベルリン。
どこの都会とも似ていない街ベルリンも、最近はショッピングモールができたり、おしゃれなアパートが建てられ家賃が高騰し、ファッショナブルな人たちも増えてきた。その変化に「くそったれ!」と嘆くベルリナー達。それでもアーティストにとってはどこの街よりも未だに住みやすい。だから自由な空気に吸い寄せられ世界中からこの街を目指し住み着く芸術家が多い。毎日必ず楽器を担いだ人や、画材店の大きな袋を持つ人、独自の不思議なファションをした人を見かける。パリ、東京、ロンドン、NY、、私から見たら、まだまだ洗練されたおしゃれな大都会とは正反対の街だけど。

ベルリンはドイツの首都だけれど、ベルリンはドイツではないと皆声をそろえて言う。確かにショーのツアーで回るドイツの街は威厳があり麗しくそして美しい。このグラフィティだらけの街とは大違い。
 

ベルリン、アンダーグラウンド

私が住んでいるのは旧西ベルリンのノイケルン。もともとは移民が多く住むゲトーでここ数年前まではあまり人が近寄らない寂れたエリアだった。そこへ目をつけた芸術家たちが多く越してきて、今はとても人気のエリアとなった。至る所にアーティストのスタジオが点在し、ファンキーでボヘミアン風の出で立ちをした個性あふれる人々が多く住む。日本でいうならどんな街って聞かれるけど、ごめんね、ノイケルンはノイケルンなの。
たぶん、住んでみないとこの街の魅力には気づかない。

おしゃれなエリアは日本の雑誌などでよく紹介されるけれど、ディープベルリンを語る人が少ないのはなぜ? 人々があまり興味を示さないから?
 

ベルリン、アンダーグラウンド

ベルリン、アンダーグラウンド

昨夜はノイケルンにある音楽のライブスペース付きバーへ行ってきた。とにかく汚い! 美しく汚い! そこで友人が朝方1時からライブをするというので、ノイケルンとは正反対のお洒落エリア、ミッテの品行方正なパーティから抜け出しそこへ向かった。そのミッテのパーティでたまたま知り合った、この街の地理感覚もまだ掴んでない、稚内からベルリンに来たばかりのタトゥーアーティストY君もついてきた。Y君は”可能性”を見つけに稚内から南ドイツ経由でこの街に来てまだ間もない。でもすでにベルリンの魅力に惹かれているという。いつか妻子を呼び寄せたいと。
 

ベルリン、アンダーグラウンド

ベルリンの夜は暗い。街灯がぽつりぽつりのボディング通り。薄明かりの先にトルコのケバブ屋がひとつ。暖かい灯りを放つ夜カフェ一件。Y君と人気のない道を四方山話しをしながら目的地を目指す。でも目当ての店が見当たらない。いつものように、どうにか見つけられるわと住所もテキトーにうる覚え、店の名前も頭文字の『L』しか覚えてこなかった。でもね、どうにかなる。

YくんのGPSで見つけたそこは、看板は当然ない。シャッターが少し下がっていて、汚れた大きな窓ガラスにはステッカーが沢山貼られている。そこから鈍い明かりが漏れていた。ドアを開ると、静まり返った通りと一辺してバーは人で溢れている。入り口には可愛らしい女の子。

「Tいる? もう彼の出番は終わった?」

「彼ならそこにいるわよ。ゲストリストね。入って」

気が向いて寄っただけだから当然ゲストリストに名前はないけど、まあ、入ってよ、と二人をさらっと入れてくれた。
 

ベルリン、アンダーグラウンド

年代も性別も言葉も様々な人たちが楽しそうにカウチに座って笑っていたり、ハグしていたり。ここもまたベルリン特有のデザインに統一性のない拾い集めたようなセカンドハンドのカウチや椅子 が置かれているけれど、それらには妙にしっくりお尻が収まる。バーカウンターの上の壁には異端児アーティストが作ったようなガラクタや人形で一面びっしり埋まっている。ライブスペースとは重たいプラスティックのカーテンで仕切られていて、その上には巨大なおじさんの顔が天井からバーを眺めている。壁一面にはサイケデリックな映像が流れ、今は80sなのか60sなのかはたまた平成の終わりなのか__。時代を忘れてしまうような、宇宙の一角の横丁。てんでバラバラという統一感を出していた。

”地元のアーティストからはホームと慕われ、奇妙な人々の集まる心地よいバー。最高に楽しい。ヨーロッパ最悪のトイレ。⭐ ⭐ ⭐ ⭐ ⭐” by Googleレビュー
 

ベルリン、アンダーグラウンド

バンド「宇宙玉ねぎ特急列車」は3人。日本人はTだけである。なんと真夜中に爆音でノイズ、それにロックとパンクと日本語のような、そうじゃないような、でたらめで不思議な言葉。ゆらゆらと踊る人たち。シャープなドラムに体が自然と動く。エコーのかかった日本語のような響きを持つ声も楽器のよう。リズム感のあるノイズの中に身を委ねると、体が浮いているような不思議な感覚になる。この説明のつかない音楽は、こんなに楽しいのに説明がしにくいので、なかなか売り込みが難しいとT。それでもやりたい時にライブができるのはベルリンだから。赤毛の女がアンコールと叫ぶ。
 

ベルリン、アンダーグラウンド

ベルリン、アンダーグラウンド

朝3時半。人々はまだ踊り足りないし、飲み足りないよう。おしゃべりが過ぎた私はドアを開け一人 店を出た。
やはり通りは人っ子ひとりいない暗い道。暖かい光を 放つカフェはまだ開いていて本を読んでいる人も見える。地下鉄の階段を降りると渋いブルースハープの音色がプラットホームにこだまする。真夜中のミュージシャンが奏でるメロディは目を閉じるとオレンジの乾いた荒野へ誘ってくれる。

幸せな土曜日にさようなら、新しい日曜の朝おはよう。そしておやすみなさい。
あ! 土地勘のないY君を置き去りにしてきちゃった 。まあ、どうにかなる。
 

ベルリン、アンダーグラウンド

 
 

Posted by エロチカ・バンブー

エロチカ・バンブー

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Erochica Bamboo
バーレスクダンサー。日本の各都市のクラブやキャバレーでショー活動した後、2003年にラスベガスにある世界で唯一のバーレスクミュージアム、Burlesque Hall of Fameで開かれるバーレスクの祭典で最優秀賞を獲得。それを機にLAに拠点を移す。2011年よりベルリンへ移りヨーロッパ、北欧で活動中。ドイツのキャバレー音楽ショー”Let’s Burlesque”のメンバーとしてドイツ各地をツアー中。