PANORAMA STORIES

35 カンパ〜イ!私の踊り子人生 Posted on 2019/02/08 エロチカ・バンブー バーレスクダンサー ベルリン

今年の仕事始めはポーランドのクラクフへ。天文学者、コペルニクスが大学生活を満喫した町。美しく静かな町はアウシュビッツの悲しい歴史も背負う。カソリック の教会がいたるところにあり、ローマ法王2世の写真や、道を歩けば袈裟に身を包んだ修道士にちょくちょく出会う。

出演先のバーはまさしくローマ法王2世の寄宿舎の近く。小さなステージのあるオシャレなバー、マーシーブラウン。ゲイのオーナーのお店らしく小綺麗で程よくきらびやか。働いている男達もとてもオシャレでカッコいい。細身の品のいいスーツを着こなす若い男性が私のスーツケースを運んでくれた。その彼のお母さんも敬虔なクリスチャンだという。

「母さんは僕がこの店で働くことにいい顔をしないんだ。だってほら、バーレスクイベントあるし、オーナーはゲイだし。やれやれって感じ」 息子がこのお店で働いていることに苦虫を潰しているらしい。彼はそれでもこのお店が大好きなんだと言っていた。

「あらやだ、ショーを見てもいないのに嫌うなんて悲しいわ! 今度一緒に飲みましょうって伝えてね」 彼のお母さんは私より2歳も年下。この町でのバーレスクは実は結構チャレンジでもあるのかもね。やっている本人はそんなこと微塵も考えてやしないけど。
 

35 カンパ〜イ!私の踊り子人生

プラハから二人、ベルリンから二人ダンサーが現地集合した。 気の合う女子たち。といっても私はとうに女子ではないけてれど、私をリスペクトしてくれて、その上冗談も気軽に言い合える。このうち一人はまだ大学生でもある! 私も大学在学中から始めたんだっけなあ。彼女のように艶っぽくはなかったけど。
 

35 カンパ〜イ!私の踊り子人生

10代から本当にどれくらいの都市をまわり、どれくらいの人たちと出会っただろう。地方都市でひとりぼっちのクリスマスを迎えたり、大晦日におめでとうのハグを大勢でしあったり、失恋した時は昼は泣きはらし、夜は酔いどれ紳士達の声援で助けられ、つかの間の笑顔でグリッターが目尻からこぼれ落ちるという若かりし頃。
泣こうが笑おうがいつも寄り添って、一番近くにいて励ましてくれたのは誰だろう。ドイツの歴史ある豪華絢爛な大劇場から、ハリウッドやラスベガスの派手なステージ、日本の消えてしまったキャバレー、札幌の郊外にあるサナトリウムの家に帰れない重度の患者さんたちのためのクリスマスパーティ、田舎のカウンター席しかない焼き鳥屋さんでのショー。そしてヤクザ屋さんの新年会から、高松宮殿下の前でのショーなど、自分でも時々驚いてしまう私のショービズ人生。Oh La La!
 

35 カンパ〜イ!私の踊り子人生

2019年。今年の9月でバーレスク芸歴35年を迎える。迎えてしまう! このうち休んだのは生涯で6ヶ月だけ。私の体の中に二つの心臓があった時でさえ、私はベガスのステージの上だった。
「今から激しく体を揺らすからママのコード(へその緒)にしっかり掴まってるのよ!」とステージでお腹に話しかけたのは昨日のことのよう。
 

35 カンパ〜イ!私の踊り子人生

<妊娠七ヶ月のとき>

 
誰か褒めてくれないかしら! この踊り子バカ人生を(笑)。
人前で何かするのが苦手だった私がまだ踊っている。裸に近い格好の姿をさらして。ラビアンローズ!

10代の頃から、いつかショーを引退する日がくるという想像が全くつかなかった。遠い将来のことは想像もつかないから面白い。その間、まわりからは沢山の言葉が聞こえてきた。
「この仕事は30過ぎたら終わり」、「女の幸せは結婚。早く結婚して引退しなさい」・・・・・・。「キャバレーのショーでもストリップ劇場のように全部を見せないとやっていけない!」とか、「おっぱいは大きくないとダメ」とか「セックスしないと色気が出ない!」とか とか とか!
ご忠告だけで一冊本ができてしまいそう。全く響かない私に、ご忠告する人はシャンパンの泡のように消えていった。勝手にしやがれ! って。そのワクワクしない下品なご忠告は全て役立たず。空気なんか読んでる暇はないの。
 

35 カンパ〜イ!私の踊り子人生

荒俣宏先生から頂いたお言葉、

『アマノイズメから続くバーレスクは出雲阿国、貞奴とうけつがれ、21世紀はエロチカバンブーさんが冷めた世界をあっためてくださいね、懐かしい日本の混浴風呂のように』

このお言葉を胸に秘め、今年は初心にちょっとだけ戻って、もっともっと自分の心に馬鹿正直に、そして暖かい世の中を作るため少しでも貢献できるよう、踊っていこうと思う。だっていつかは終わりが来るから。
 

35 カンパ〜イ!私の踊り子人生

2019年がグリッターまみれになるよう、キラキラ輝く逞しい踊り子達と、楽屋でシャンパンを乾杯したのだった。
励まし続けてくれて一番近くにいた、時に孤独でチャーミングな私自身へ感謝を込めて。
 

35 カンパ〜イ!私の踊り子人生

20歳の頃のエロチカ・バンブー
©楢木逸郎写真集 ”The Dancers”より

Posted by エロチカ・バンブー

エロチカ・バンブー

▷記事一覧

Erochica Bamboo
バーレスクダンサー。日本の各都市のクラブやキャバレーでショー活動した後、2003年にラスベガスにある世界で唯一のバーレスクミュージアム、Burlesque Hall of Fameで開かれるバーレスクの祭典で最優秀賞を獲得。それを機にLAに拠点を移す。2011年よりベルリンへ移りヨーロッパ、北欧で活動中。ドイツのキャバレー音楽ショー”Let’s Burlesque”のメンバーとしてドイツ各地をツアー中。