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子供の世話にはならない! 自立を好むフランスのお年寄り、親と子のあり方。 Posted on 2018/03/31 マント フミ子 修復家 パリ

フランス人と結婚し、子供を持った私ですが、あらゆる場面でフランス人と日本人の「親と子のあり方の違い」について考えさせられてきました。
日本では、親は子供を育て、親が年老いたら、今度は子供が親の面倒をみる。それが当たり前の構図。確かに、立派に育ててもらったのだからその恩を返す、という理にかなった構図です。しかし、フランス人の親はというと、親は死ぬまで親、死ぬまでできる限り子供に迷惑をかけない、与え続けることが親の役目だと考えている人が多いのです。(法律では、子が親の世話をする義務があります)
 

子供の世話にはならない! 自立を好むフランスのお年寄り、親と子のあり方。

ある夜、一人でパリの自宅にいた夫は、隣のアパルトマンに住む義母に電話をしました。だけど、いくら鳴らしても義母は電話に出ない。胸騒ぎがした夫は義母を訪ねました。アパルトマンに入り、義母を呼んでも返事がない。あちこち探した夫は、最後に入ったキッチンで血を流し倒れている意識のない母親を見つけました。慌てて救急車を呼び、その夜は救急病院で一夜を明かす事になります。どうやら、腰の悪い義母はキッチンでこけてしまい、頭を打って気を失ってしまったようです。家が近かったからすぐに発見できたものの、もし、この夜、倒れた義母を見つけることができなかったら__と思うと、ぞっとします。

幸い命に別状はなく、翌日には意識を取り戻しましたが、80歳を超える義母に与えたショックは大きく、その後、痴呆のような症状が出てしまいました。このまま痴呆の症状が続くとなれば、入院、もしくは専門の施設に居続けなければならない…… 20年前に義父を亡くしてから、ずっと一人でしっかり生きてきた義母が大好きな自宅に帰られなくなるのかと思うと、とても心が痛みました。
担当医師からの「今は旅に出てしまっているが、時間がかかってもたいていの場合はまた戻って来る」という言葉を信じ、夫兄弟が交代で義母の入院生活をサポートしました。それから3週間、家族の想いが届いたのか、お医者様のおっしゃった通り、少しずつ義母は元の義母へと戻ってきてくれました。
一旦、頭が元に戻り、体にも異常がないとなると、たとえ足腰がおぼつかなくとも病院はなるべく早い退院を勧めます。もちろん、ベッド不足が大きな理由ですが、たいていのフランスのお年寄りは自宅に戻ることを希望しているというのも事実です。

しかし、足腰も弱く、また一人暮らしをして事故を招くわけにはいきません。そこで、社会保障のAPAと呼ばれる個別自立手当のお世話になり、自宅に介護士を雇うシステムを利用することになりました。個別自立手当は要介護のランク分けや収入によって自己負担率も変わってきますが、年金生活のお年寄りにとって、補助があるとないのでは大違い。夫と義姉は義母と相性の良い人を探すため何人かと面接をし、その中から一人を選び、今の義母にどんなサポートが必要かを話し合いました。

介護士のフロールさんは毎朝義母の家に来てくれます。そして、昼食、夕食の準備をし、掃除や洗濯、お散歩の付き添いや買い物、お風呂まで、義母が一人ではこなせない身の回りの世話をして帰宅します。
体調が不安定な義母の元には毎日看護師さんも来てくれ、血圧を測ったり、体の様子を聞いて帰ります(社会保障がサポート)。おかげで、義母はまた自宅で生活ができるようになりました。
 

子供の世話にはならない! 自立を好むフランスのお年寄り、親と子のあり方。

もちろん、夫や義姉、孫が交代で義母の様子を見にいきますが、実際、それぞれの家庭を持つ子供たちがフロールと同じように義母の面倒をみるのは不可能です。家族間での揉め事にも発展しかねませんし、いわゆる、「長男の嫁」という考え方もフランスには存在しません。
子が自分の家族を犠牲にし、親は子に気を使う、というような親と子の悪循環を生み出すこともなく、みんなが今までの生活を続けることができるのは理想と言えるでしょう。

最近では、フランスでも「異世代ホームシェア」なるものが広がってきているようです。スペインで始まった制度ですが、フランスでは2003年の猛暑でお年寄りがたくさん犠牲になってしまったことがきっかけで、2004年よりこの制度への取り組みが始まりました。簡単にいうと、医療行為の必要でない一人暮らしのお年寄りの家に若者(18歳から30歳まで)が下宿するというもの。「LE PARI SOLIDAIRE ル パリソリデール」というボランティア団体の取り組みで、登録費(15ユーロ)と年会費(250ユーロ/350ユーロ)がかかり、もちろん厳しい審査もありますが、家賃を一部負担するものと家賃無料の2つの契約形態があり、毎日お年寄りと夕食を共にし、夜も家にいるのが条件の契約を選ぶと、家賃が無料になります。どちらも日中は自由。まだまだ一般的とは言えませんが、2004年からパリやパリ近郊を合わせ、3500件以上の同居が実現しているようです。パリのように家賃が高く、地方や外国からたくさん学生が集まる街にはとても合理的な制度ではないでしょうか。

お年寄りに一番良くないのは「孤独」を感じること。自分が一番落ち着ける場所で、一人でこなすのが困難になってきた家事を誰かがサポートしてくれたり、話し相手になってくれるのは、本人や家族に取って、物理的に、精神的にとても心強いことです。日本もフランスも、高齢者問題への課題は山積みですが、このようなサポート形態の選択肢が増え、親と子がずっと良い関係でいられるカタチを見つけられたら幸せですね。
 

子供の世話にはならない! 自立を好むフランスのお年寄り、親と子のあり方。

 
 

Posted by マント フミ子

マント フミ子

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Mante Fumiko
修復家。岡山県出身。在仏26年。フランスに暮らしはじめ、アンティークの素晴らしさに気づく。元オークション会社勤務。現在はパリとパリ郊外の自宅にて家具やアンティーク品の修復をしている。