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パリでタイユールとして生きていくこと 3 <ヨーロッパでタイユールを学ぶ若者に伝えたいこと> Posted on 2017/01/04 鈴木 健次郎 タイユール(テイラー) パリ

パリでタイユールとして生きていくこと 3 <ヨーロッパでタイユールを学ぶ若者に伝えたいこと>

私たちのアトリエでは、私を含め現在4人の職人と日本からの研修生1人、合計5人で日々スーツを仕立てています。

スタッフとは日々いろいろなことを話します。針の持ち方から指ぬきの使い方、布の持ち方など、服作りをしていく上での技術のことなど・・・。

フランスのテーラー職人はお喋り好きな人がほとんどですので、通常パリのアトリエではサッカーの話や、くだらない冗談を言い合い、笑いながら仕事をしています。日本の会社ではお喋りしながら仕事をするなんてきっと許されないことかもしれませんが、パリのテーラーでは全く違います。楽しく、笑いながら、だけど手はどこまでも早く、正確に。これが基本です。

私たちのアトリエでも同じです。日本から来た若者にとって、10分ごとに『もっと早く正確に』と言われ続けることは初めてのようで、その上冗談を言いながら手を動かす・・・というのはかなり難しいようです。

パリでタイユールとして生きていくこと 3 <ヨーロッパでタイユールを学ぶ若者に伝えたいこと>

そもそも日本で学んできた彼らは『良いものを作るのなら時間がかかってもいい』というように教わってきています。確かに、まだ見習いの彼らが老舗テーラーや服飾専門学校で基礎を身につける場合、第一に「作り方」を覚える必要があります。
ベテランの職人や学校の先生は皆のペースを見ながら授業を進めていくと思いますので、それほど「スピード」を意識することはないでしょう。

ただ、ヨーロッパのテーラーでは違うのです。仮に初心者であっても、見習いであっても、スピードは命。いくら良い仕事をするからといって手が遅い職人は決して評価されません。
ヨーロッパでは ” VITE ET BIEN ”(早く良い仕事を)が基本の考え方です。ですから、スピードを身につけることがテーラーにとって最優先事項となるわけです。

パリでタイユールとして生きていくこと 3 <ヨーロッパでタイユールを学ぶ若者に伝えたいこと>

そして、技術。
技術がなければ服は作れません。お客様の体型にそった洋服を仕立てるには、技術があってこそです。
私もそれが間違っているとは思いません。ただ、技術は持っていて当たり前のことでもあります。

日本からくる研修生たちと話していると、大半の若者が将来独立したいと願っています。
私たちがパリで自身のテーラーを立ち上げたように、日本、もしくは外国で独立したいと願って学びに来ています。
そして彼らは、皆「技術さえ身につければ」と考えているようです。

しかし、技術を身につけたからといって、皆が独立できるのではないのだと私は思っています。
私はそれを”表現力”や”世界観”という言葉で表します。
それはつまり、作り手一人一人が何を表現したいのかという美意識の結晶。
お客様に自分のお店を選んでもらうということは決して簡単なことではありません。
お客様から『あなたじゃなきゃダメなんだよね』と支持されるには、自分にしかないものがないといけません。

「自分は一体何が作れるのか」「どんな世界をお客様に伝えていけるのか」
これらを持つことが全てではないでしょうか。

パリでタイユールとして生きていくこと 3 <ヨーロッパでタイユールを学ぶ若者に伝えたいこと>

私は技術を教えるのと同じくらい感覚的なことを大切に教えています。
技術は向上心をもって努力していれば自然と身につくものです。しかし、感覚的な部分は日々敏感に意識をしていかなければ伸びていきません。

それは些細なことでも構わないのです。
快晴の日に空を見上げた時だったり、季節が移り変わった時の木々の色の変化であったり。
私たちが日々をこなす中で『ああ、綺麗だなあ』と感じる瞬間に遭遇しているはずです。
大切なのは「自分がきれいと感じるものを見つけ、意識すること」なのです。

そうして自分と向き合うことで「自分は一体何を作りたいのだろう」「どんな世界が作れるのだろう」という事に繋げていけるのだと思います。

パリでタイユールとして生きていくこと 3 <ヨーロッパでタイユールを学ぶ若者に伝えたいこと>

Photography by Kenjiro Suzuki

Posted by 鈴木 健次郎

鈴木 健次郎

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Kenjiro Suzuki
タイユール(テイラー)。1976年東京生まれ。メンズファッション専門学校を卒業後、モデリスト、クチュリエとして働く。2003年に渡仏。ストラスブールの語学学校に半年間通った後、パリのモデリスト養成学校 Acad_.A_Nimie Internationale de Coupe de Parisにて学ぶ。フランス政府認定モデリスト技術者レベル4を取得。ARNYS, Pierre DEGANG , LANVIN , CAMPS De Luca にて仕立て技術を習得。2007年よりフランスを代表する名店 Francesco SMALTO にて型紙を統括するカッターとして働く。 2009年よりパリのテーラーとしては日本人初のチーフカッターに就任。2013年に独立しパリ8区で “KENJIRO SUZUKI SUR MESURE PARIS” を営む。