PANORAMA STORIES

南ドイツの愛し方 Posted on 2017/03/01 溝口 シュテルツ 真帆 編集者、エッセイスト ドイツ・ミュンヘン

南ドイツの愛し方

「しかしドイツかあ」と思いました。

続けて「でもってミュンヘンかあ」とも。

白状すれば約4年前、ドイツ人の夫から彼の故郷であるミュンヘンへの移住を持ちかけられたときに、首を縦に振りながらも最初に心に浮かんだことです。

東京で、愛する家族や友人、編集者としてのやりがいある仕事に囲まれ、忙しくも楽しい毎日を過ごしていたけれど、どこかで「新しい土地に身を置いて、きりきり挑戦と苦労がしたい。それをするには早ければ早いほどいい」というような渇望と焦りを感じていました。
それに、夫の仕事と学業(なんと、再び大学へも通いたいと言い出したのです。30代も後半にして!)、私たちの未来のためには、海外へ渡ることはよい選択だと思えました。

しかし、ドイツです。
 

南ドイツの愛し方

これまで旅行でなら、それなりに色々な国、都市を見てきました。
都市ならやっぱりニューヨークやパリに刺激を受けたし、イスタンブールやニューデリー、リオデジャネイロ、バルセロナなんかも面白い。
都市部から離れてということであれば、ケニアやスリランカ、日本なら四国や沖縄の自然が大好き。
新しい暮らしを始めるなら、できればそのうちのどこかで――漠然とそんな風に考えていました。

さてドイツはというと、それまでにケルンとベルリンを訪れてはいましたが、街も人も「なんとなく灰色でまっすぐ」な印象で、どこかピンとこない。さらにミュンヘンに抱いていたイメージと言えば、映画で観た、凄惨なミュンヘンオリンピック事件と反ナチ運動の「白いバラ」くらいで、正直言ってポジティブなものではなかったのです。
 

南ドイツの愛し方

人口はちょうど東京の10分の1。ベルリン、ハンブルクに次ぐそのドイツ第3の都市で、しかもあんな難しそうな言葉をゼロから学んで――そう思うと、新生活への期待がいくぶんか目減りしたのは事実です。

そんな中途半端な心持ちでミュンヘンに移り住み、そしていま、早くも3年が経とうとしています。

3年の間に、少しずつ親しい友人もでき、まだまだ不完全ながらもなんとか仕事でもドイツ語を使うようになりました。現在妊娠5ヶ月で、夏には家族がひとり増える予定です。

ここでの暮らしは穏やかで、季節とともにあります。厳しい寒さに耐えながら春の訪れを待ちわびて、夏には美しい庭園を散歩して湖で裸になって(本当に一糸まとわず!)泳ぐ。霧の朝が来ればもう秋。オクトーバーフェストの賑わいに心躍らせて、そしてクリスマス市ではかじかんだ手をグリューワインで温めながら、親しい人たちとのおしゃべりを楽しむ。
 

南ドイツの愛し方

東京では、毎日違う人と会って、違うものを食べて、違うものを着て、胃の痛くなるような仕事をしながら刺激こそが人生! なんて息巻いていたのに、ミュンヘンのこの静けさと、それを楽しんでいる自分は、どうしたことかと思うのです。

新しいものより古いもの、着飾ることより学ぶこと、働くことより休むことが大事――そんなドイツ人たちの姿を見ていると、これまでの自分の価値観がはっきりと変わっていくのを感じています。
 

南ドイツの愛し方

一昨年より去年。去年より今年。いつしか、私はこの街を愛し始めています。

そんな私のミュンヘン、そして南ドイツ暮らしのメモを、少しずつお届けしたいと思っています。
お付き合いいただけたらとてもうれしいです。
 

Posted by 溝口 シュテルツ 真帆

溝口 シュテルツ 真帆

▷記事一覧

Maho Mizoguchi Stelz
編集者、エッセイスト。2014年よりミュンヘン在住。自著に『ドイツ夫は牛丼屋の夢を見る』(講談社)。アンソロジー『うっとり、チョコレート』(河出書房新社)が好評発売中。巡礼路を歩く旅がライフワークで、『Huffington Post』『YOUNG GERMANY』にサンティアゴ巡礼記連載中。日独間の翻訳出版エージェント業にも携わる。