PANORAMA STORIES

遠く離れた土地から日本食を見つめ直す Posted on 2017/09/01 佐谷戸 美和 料理研究家 ベルギー・ワロン地方

もともと夏らしい夏をあまり感じないベルギーなのですが、8月を過ぎてからはぐんと気温も下がり、朝晩冷え込む毎日です。”ベルギーらしい” という表現がぴったりの、にわか雨と曇りと晴れの不安定な天気。

この国でこんな日は、一日で四季が体験出来ると言われています
 

遠く離れた土地から日本食を見つめ直す

このような不安定な天候は実は味噌仕込みには向きません。もう少し夏は夏らしくあってほしいと思ってしまいます。夏の暑さが味噌作りには熟成を進めるうえで欠かせないのです。
しかし、本来、発酵食品はその土地の自然や四季にあわせて育む物です。夏が短いのであれば、それはそれでここの土地らしい味噌が出来上がるのかもしれません。我が家の味噌をはじめとした発酵食品達は、通常の熟成期間より少し長めに眠ってもらっています。

味噌はいつも米麹・麦麹・豆麹等を醸す所から仕込んでいますが、雑菌の増殖しやすい気温の高い時期を避けて行うため、気温が上昇する夏場はお休みです。
 

遠く離れた土地から日本食を見つめ直す

夏場に出来ることと言ったら、夏の陽射しを利用して野菜や梅干しに使う杏やプラムを天日に干すことや、梅干を漬けた際に上がった梅酢で紅生姜の仕込みをしたり、機械での温度管理可能なヨーグルトや発酵バター等の乳酸菌発酵食品作り、収穫した紫蘇の加工、豆腐や油揚げの仕込み、冬場に仕込んだ味噌、醤油の手入れ等々……。
それでも作業は結構ありますね。
 

遠く離れた土地から日本食を見つめ直す

発酵・加工食品作りをする際は、食材の旬、天候や気温に従った昔ながらの自然に寄り添った日本食材作りを心がけています。先ほどもお好み焼きソースを1kg程鍋でグツグツと仕込みましたが、旬の野菜はエネルギーに満ちていて香り豊か、食べる前から心も満たされます。
ざっと今月行ったことを記しましたが、年間を通すと作業はこの×12では済みません。冬場は大忙しです!

本来この作業1つ1つは専門のプロがやっていることなんですよね。そして、昔の人々もきっとこんな風に作っていたのでしょうか?
匠の仕事は出来ずとも、レシピを参考に研究し奮闘して仕込みをしていると、自然や生き物に、そしてたくさんの人々に、いただきます、ごちそうさまでした、と只々感謝の気持ちが溢れてきます。
 

遠く離れた土地から日本食を見つめ直す

ベルギー南部には、移住し9年目になるのですが、かれこれこんな生活を続けて5年が過ぎました。
今はだいぶ日本食材が手に入るようになりましたが、移住当時は全くと言っていいほど見つからず、まるで日本食難民のようでした。

米、味噌、醤油、味醂、出汁… 日本に居た時にはあたりまえ過ぎて、如何に自分にとって大事なものだったかなんて考えたことも無かったです。日本にいればどこでも手に入りますし、日本食を食べることが困難になるなんて夢にも思いませんでしたから……。
 

遠く離れた土地から日本食を見つめ直す

そして、妊娠をきっかけに子供を日本食で育てたい、と思い始めることへと繋がるのです。子供が成長するのと一緒に私の日本食材作りも共に成長し、『無いものは作ればいい』と、環境が与えてくれた機会を受け入れ、ポジティブな喜びに変化していきました。
今年の味噌は子供も一緒に作ってくれたんですよ!
私達が普段食べている物が、どのようにして作られていくのか? を幼いころから毎日の食を通して伝えていけたら嬉しいです。
 

遠く離れた土地から日本食を見つめ直す

海外に移住した私にとって日本食とは___

ここで生きると決めた私の家族の心と身体を守るもの。

今後の子供の成長の糧になるよう願いを込めて、丹精込めて作っていきたいと思います。
 
 

Posted by 佐谷戸 美和

佐谷戸 美和

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Miwa Sayato
神奈川県出身。横浜のビール専門店のバーテンダーを経て2009年にベルギービールの修行の為渡白。同年ベルギーワロン地方に移住。2012年妊娠をきっかけに日本食を作る為の日本の伝統的な発酵・加工・保存食品を作り始め、現地人向け日本食料理教室や、ケータリング、ブログ『海外で和食』にて、日本食作りに悩む在外邦人への発酵・加工食品作り方のアドバイスをしています。