PANORAMA STORIES

ロンドンと京都で出会った「本の贈り物」 Posted on 2017/12/28 清水 玲奈 執筆家・翻訳家 ロンドン

12月のある日、2歳の娘が「もうすぐクリスマスだね」と言うので、「クリスマスにサンタクロースさんに何をお願いする?」と聞いたところ、しばらく考えて「ほんのおくりものをおねがいする」と答えました。
ふだんから本だけはたくさん与えているつもりの私は、「本なんていっぱい持っているのに」とびっくり。

「読めば読むほど、もっと読みたくなるのが本」というのは大人も子どもも同じのようです。
 

ロンドンと京都で出会った「本の贈り物」

それから数日後、ロンドンの西にある子ども向け本屋さん「アリゲーターズ・マウス(The Alligator’s Mouth)」に行きました。「ワニの口と同じように、本の世界に入り込んだらもう出てこられなくなる」というメッセージの込められた愉快な店名のお店です。

この日はちょうど、娘が大好きな絵本作家、アクセル・シェフラーさんのサイン会がありました。「グラファロ(シェフラーさんの代表作に登場するおちゃめな怪物)の絵を描いた作家さんに会えるよ」と言うと娘も大喜び。
お店に着いて、まずは娘が邦訳で親しんでいる絵本『グラファロのおじょうちゃん』の原書をお店で買い、それを本屋さんオリジナルのブックトートに入れて持たせました。興奮して走り回る娘をなだめつつ、数十組の親子たちに混ざって店頭に行列します。
 

ロンドンと京都で出会った「本の贈り物」

ロンドンと京都で出会った「本の贈り物」

娘の順番が来ると、アクセルさんは、中表紙に娘の名前と日付を書いたあと、ご自身のサインをする前に「何の絵を描きましょうか? グラファロでも、動物でもいいですよ」とおっしゃいます。そこで、娘が好きなリスの絵をリクエストすると、アクセルさんはうなずき、雪景色の森で木の実を食べるリスをすらすらと描いてくれました。人生初のサイン本は、娘にとって特別な「ほんのおくりもの」。

子どもたちも一人前の読者として扱い、年齢に関係なく絵本や児童書の楽しみを堪能させてくれるこの「ワニの口書店」については、ウェブサイト「Dotplace」で連載中の「英国書店探訪」でレポートしています。
 

ロンドンと京都で出会った「本の贈り物」

ロンドンと京都で出会った「本の贈り物」

その後、娘を連れて一時帰国した私は先週、京都でロンドンの書店についてのトークをさせていただきました。
会場は12月28日のオープンを前にした名画座「出町座」。そこに併設された本屋さん「サヴァ・ブックス」は、「英国書店探訪」の編集者でもある宮迫憲彦さんがお仲間とともに手掛けているお店です。
伝統に安住することなく新しい文化を生み出す力がある京都には、魅力的な本屋さんが次々と誕生していて、本にまつわるイベントも盛んに行われています。その状況は、近年のロンドンと共通するものがあります。

夜7時半になると、京都で一番新しい本屋さんを応援したいという熱心な読書家や、他の書店の店長さん・店員さん、それにイギリス好きの方々で、小さな映画館はほぼ満員。閉演後まで、本屋さんの楽しみをめぐる会話は尽きませんでした。私の文章に感動していつも読み返していると言ってくださる書店経営者の方もいらして、こうした出会いも「本の贈り物」だなと実感したひとときでした。
 

ロンドンと京都で出会った「本の贈り物」

翌日、娘とともに、秋の紅葉で有名な東福寺にお参りに行きました。観光客もまばらなお寺の山には、色あせた落ち葉が、古びたじゅうたんのようにぎっしりと敷き詰められています。絵本にちなんで「フレディがいっぱいだね」と娘は夢中で落ち葉を拾います。

境内では、苔を傷めないように、枝からはらはらと散り続ける枯葉を丹念に竹ぼうきで掃いている人たちがいました。日向ぼっこをしながら、終わりのないその作業を眺めていると、インタビューをしてはその言葉を集めて文章を書き、あるいは、娘にねだられるままに何百回と同じ絵本を読み聞かせている自分の日常と重なります。
 

ロンドンと京都で出会った「本の贈り物」

ロンドンと京都で出会った「本の贈り物」

落ち葉はやがて土に還り、春には新緑が芽吹きます。私が書き、話す「言葉」という「葉」もまた、何かの形で、読者の方々、そして娘の栄養になりますように。

辻仁成編集長から届いた「言葉の力を信じて」というクリスマスメッセージを読み返しつつ、そんなことを思う穏やかな年の瀬でした。
 

ロンドンと京都で出会った「本の贈り物」

 
 

Posted by 清水 玲奈

清水 玲奈

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Reina Shimizu
執筆家・翻訳家。東京大学大学院総合文化研究科修了(表象文化論)。著書に『世界の美しい本屋さん』など。ウェブサイトDOTPLACEで「英国書店探訪」を連載中。