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フランスの少年3人組。欧州音楽事情1 Posted on 2016/10/28 河井 留美 音楽プロデューサー パリ

フランスの少年3人組。欧州音楽事情1

この夏3人の16歳のフランス人の少年を親から預かり日本で2週間のバカンスを過ごした。子供の頃からよく知っているこの3人組はパリ6区出身のかなり個性派ぞろいで、今では珍しい全寮制のリセの生徒達。3人は所謂「マンガ」「アニメ」系日本マニアではない。いやな言い方をすればアッパークラスのパリの少年達である。

彼らは部屋に入るとまずこれがなくては始まらない的な感じで音楽をかけ始める。そこは今も昔も同じだなーと思いながら「うるさい!」と叫ぶが「ouioui」と調子のよい返事の後、暫くするとまた爆音。ここはフランス人の子供達、怒ってばかりではらちがあかないので、アペリティフついでに彼らと今の音楽について話してみることにした。メジャーな音楽シーンには全く興味を示さない。

フランスの少年3人組。欧州音楽事情1

何所の国も同じように少年達には圧倒的に人気があるHIPHOP全般が好みらしい。私がフランスに渡った1993年頃、フランスではまさに第一次HIPHOPブームでパリ郊外出身のMCソラーとNTM、マルセイユ出身のIAMの3組が人気を博していた。彼らは一様に社会への不満を辛辣な歌詞で表現し、その人気は社会現象にまでなった。当時の私にはその歌詞の意味を全て理解することは不可能だったが、サッカーに続いての社会的弱者の表現方法であることは十分理解できた。

16歳の少年達に今一番いけているアーティストについて尋ねてみると、驚いたことにKeith Ape、Jay all Day、Loota、 Okasian、 KOHHなどの日本と韓国のこれまたHIPHOPアーティストの名前が出た。他にもあるでしょ。フランスとかドイツとか! 

彼ら曰く「去年はヒットチャートにも入った1995のメンバーNekfeuのOn verra(今にわかるよ)なんかは今のフランスの僕ら世代のあきらめや行き詰まった心情をよく表していると思うし、前はストリート色が濃くて行き場のない怒りを表現していたけど今はかなりスタイリッシュになった。Georgioも聴くけど、日韓アーティストの英語、日本語、韓国語での混沌としてる表現方法が僕らには最高にCOOLなんだよね」と彼らは言う。
国境を越えている感がたまらないとのこと。ヨーロッパでドイツ人とフランス人が音楽でコラボするなんて考えにくいけど、アジアは進んでいるらしい。興味深い意見ではないだろうか? 

90年代は社会に政治にと怒りを爆発させていた若者達だか、今の若者の間には不安に似た気持ちが蔓延しており、がっつり入るフランス語の歌詞より、他言語歌詞に未来を見ているようにも感じた。
音楽に付随してストリートダンスカルチャーもかなり浸透している。2002年から毎年パリで開催されるストリートダンスの世界大会Juste Debout(http://event.juste-debout.com/en/)も大盛況。ダンスとHIPHOPは間違いなく若者の表現方法として重要な位置を占めていると言えると思う。

彼らとのHIPHOP三昧のバカンスは何とも刺激的で忘れられない夏になった。

 
●MCソラー(MC Solaar、1969年3月5日 – )は、セネガルのダカール出身で、フランスで活動するフランス語のラッパーである。本名はクロード・ンバラリ(Claude M’Barali)。

●NTM、またはシュープレムNTM (フランス語:Suprême NTM)はフランスのヒップホップ・グループ。1989年にパリの郊外、セーヌ=サン=ドニ県で結成された。

Posted by 河井 留美

河井 留美

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Rumi Kawai
音楽プロデューサー。1990年代よりフランス音楽に携わり、クレモンティーヌ、カーラ・ブルーニ、シルヴィ・ヴァルタンなどを日本に紹介する。最近では日本のアーティストのヨーロッパ公演のコーディネートも多数。