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今、建築家にできること。1 Posted on 2016/10/21 坂 茂 建築家 パリ

今、建築家にできること。1

8月24日、イタリア中部でマグニチュード6.2の地震が発生し、250人が死亡した。2009年には近くの町ラクイラでも309人の死者を出す地震が発生している。ラクイラ地震後には、地元のオーケストラや音楽大学のために250席の仮設(現実的には恒久的に使用)音楽ホールを建設したので、土地勘があり、当時協働した地元建築家やエンジニアから今回も協力の依頼があった。

たまたま目にした日本の新聞で、アマトリーチェ周辺には羊牧場が多いが、ほとんどの羊牧場が地震で倒壊し、寒さに弱い羊は、小屋なしには冬を越せなく、やむをえず冬が来る前に羊を売らなければならない、という地元農家の話を知った。そこで冬までに紙の建築(私が開発した紙管を構造材とする構法)で羊小屋を建設する活動を考えた。(紙ではやぎの小屋は作れないが・・・。)

今、建築家にできること。1

10月8日、イタリア人スタッフ・アレサンドロ と以前ラクイラの音楽ホール建設で協働したラクイラ大学のベネディッティ先生と、構造エンジニア・アムローゾ氏と現地に入った。アマトリーチェの市街は完全に破壊され、警察により封鎖されていた。まずは、アポが取れていたピロッジ市長と面談し、私の20年以上の災害支援活動の成果を冊子をお見せしながら説明し、地元の農家のための羊小屋の提案をした。

すると市長は、「羊小屋として国からコンテナを支給することになったので、それよりはもっとパブリックな復興支援をしてほしい。」と言われた。

そのひとつとして、アマトリーチェはパスタのアマトリチャーナを始めとしてハム、チーズの食材で有名で、地震の後日本のレストランオーナーの団体から支援金寄付の申し出があるので、それを使って小さな震災メモリアル記念館を設計してほしいと言われた。この市長は積極的な方で、来週首相がアマトリーチェを訪問するので、その時この計画を説明し、首相からローマの日本大使にも頼んで両国の親善プロジェクトにしたい。更に驚いたことに、市長は市長としての仕事のかたわら、地元プロサッカー2部リーグのコーチもやっているので、イタリアで活躍するサッカー選手にも支援を頼んだらどうか、と提案された。

今、建築家にできること。1

これからこの町との関係が始まりそうである。

Posted by 坂 茂

坂 茂

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Shigeru Ban
建築家。1957年東京生まれ。84年クーパー・ユニオン建築学部(ニューヨーク)を卒業。82-83年、磯崎新アトリエに勤務。85年、坂茂建築設計を設立。95年から国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)コンサルタント、同時に災害支援活動団体 ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク (VAN)設立。主な作品に「カーテンウォールの家」、「ハノーバー国際博覧会日本館」、「ニコラス・G・ハイエック・センター」、「ポンピドー・センター・メス」などがある。これまでに、フランス建築アカデミー ゴールドメダル(2004)、アーノルド・W・ブルーナー記念賞建築部門世界建築賞(2005)、日本建築学会賞作品部門(2009)、ミュンヘン工科大学 名誉博士号(2009)、フランス国家功労勲章オフィシエ(2010)、オーギュスト・ペレ賞(2011)、芸術選奨文化部科学大臣賞(2012)、フランス芸術文化勲章コマンドゥール(2014)、プリツカー建築賞(2014)、JIA日本建築大賞(2015)など数々の賞を受賞。2001年から2008年まで、慶応義塾大学環境情報学部教授。ハーバード大学GSD客員教授、コーネル大学客員教授(2010)を務め2011年10月より京都造形芸術大学教授、2015年9月より慶応義塾大学環境情報学部特別招聘教授に着任。