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フランスで密かなブーム! “穀物のキャビア” Posted on 2018/10/18 町田 陽子 シャンブルドット経営 南仏・プロヴァンス

フランスで密かなブーム!  “穀物のキャビア”

プロヴァンスといえばラベンダーばかりがスポットライトを浴びる主役だけれど、今年は地味な脇役に光が当たった。ラベンダーと同じくらい古くからこの地に存在する、渋い名脇役。いままでは知る人ぞ知る役者だったが、今年はどのレストランに行っても、星付きレストランのメニューにも、その名が堂々とタイプされていた。

プチ・テポートル。スペルはpetit épeautre。つまり、小さなépeautreである。
エポートルといわれてもピンとくる人は少ないかもしれないけれど、スペルト小麦といえばどうだろう。最近、日本でも健康食品として知名度が上がっていると聞いた。その小麦の小型版だ。

ラベンダーの季節にプロヴァンス高地に行くと、目がさめるような黄緑色の畑が広がっている。ラベンダーとのコントラストが鮮やかで印象的。
しかし、ただの麦と思うなかれ。1万年前には収穫されていたという穀物で、ここプロヴァンスでも9千年前から遺伝子的に変化せず現代にいたるという正真正銘の古代麦なのだ。
 

フランスで密かなブーム!  “穀物のキャビア”

夏は暑く、冬は寒く、乾燥した地中海性気候でやせた土地を好む点では、ラベンダーと同じ。風の音だけが聞こえる大地の真ん中で目を閉じ、野生のラベンダーとこの麦が風に吹かれていた古代に思いを馳せる。

それにしても、なぜこの古代麦が今になってフランスで流行したのだろう。

スペルト小麦と同じイネ科植物の仲間だが、栄養価はさらに高く、「穀物のキャビア」の異名をもつ。フランス人はなにかにつけてキャビアに例えたがる。プロヴァンス料理の一つに「ナスのキャビア」というものがあるが、これは焼きナスの中身とニンニク、オリーブオイルを混ぜたペーストで、皮肉以外の何物でもない。
 

フランスで密かなブーム!  “穀物のキャビア”

行きつけの生産者のマルシェで売られている
プチ・テポートルとその粉(左から2、3番目)

 
話がそれたが、この古代麦はプロテインが豊富で、繊維も多く、逆にグルテンはわずか7%と低いため、グルテンフリーの一大ブームは落ち着いたとはいえ、ダイエット好きなフランス人の間で注目されているというわけだ。その上、アレルギーを発症させにくいともいわれる。
今年はプチ・テポートルのビスケット、シリアル、パスタなどの新製品も続々登場。近い将来、必ずや新しいもの好きな日本にもお目見えすることだろう。

プロヴァンス人にいわせれば、タネを蒔きさえすればあとは放っておいても勝手に育つ手のかからない穀物とのことなので、もしかしたら日本でも育てられるかもしれない。
 

フランスで密かなブーム!  “穀物のキャビア”

食べ方は、米の代わりにリゾットにしたり、ひいた粉でパンやお菓子を作ったり。ほのかにクルミの風味がある。私の贔屓の近所のパン屋、ピエールさんは週2回、このパンを薪で焼く。小麦やライ麦のパンとはまったくちがう食感。グルテンが少ないので、ふわっと驚くほど軽い。

わが家では、クスクスの代わりにこの古代麦を使ってタブレを作り、ターブルドット(夕食)のアミューズ・ブシュ(付け出し)にも登場する。
茹でたプチ・テポートルを冷やして水を切り、みじん切りにしたキュウリ、トマト、ラディッシュ、ミントやコリアンダー、クルミ、クコの実などと、オリーブオイル・マスタード・ビネガー・塩で作るドレッシングで和えてできあがり。アルデンテの茹で加減と、水をしっかり切るのがポイント。
私は雑炊のようにして食べることもある。お米がわりと考えればさまざまなアイディアがわいてくるので、一度にたくさん茹でて、あれやこれやと活用している。
 

フランスで密かなブーム!  “穀物のキャビア”

忘れ去られていた野菜が見直されたり、たとえばトマトも昔の品種が人気を博し、プロアマ問わず、貴重なタネの交換会なども行われているそうだ。

古いものが新しい。
ぐるりと一巡して、食の世界が原点へ回帰する過程なのかな。
 
 

Posted by 町田 陽子

町田 陽子

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Yoko MACHIDA
シャンブルドット(フランス版B&B)ヴィラ・モンローズ Villa Montrose を営みながら、執筆・コーディネイト・講演を行う。毎年3月開催の阪急百貨店本店「フランスフェア」のコーディネイトもパートナーのダヴィッドと担当している。