PANORAMA STORIES

地中海人は、永遠の命をもつオリーブとともに生きる Posted on 2021/09/06 町田 陽子 シャンブルドット経営 南仏・プロヴァンス

この季節の楽しみの一つは散歩。
ラベンダー畑を眺め、香りを感じ、オリーブの緑が美しい木々の間を散策する。
秋のプロヴァンスは恵みの宝庫。爽やかな風に吹かれ、野山を歩き発見する喜びに溢れている。

プロヴァンス地方はオリーブの産地としても有名だ。あちこちにオリーブ畑があり、オリーブ狩りを体験できる農場もある。収穫されたオリーブの実は、さまざまな商品に加工され、この時期のマルシェを訪ねるのも楽しい。
店先に並んだ商品を眺めながら、いろいろな形のオリーブオイルを楽しむことができる。
見て、歩いて、味わって、プロヴァンスを訪れる機会があれば、ぜひ、マルシェ巡りもオススメである。

プロヴァンスの秋は大忙し。9月、ブドウの収穫とともにオリーブの収穫も始まる。食用のグリーンオリーブは9月に手摘みで、オイル用の実は10月中旬から11月にかけて。

地中海人は、永遠の命をもつオリーブとともに生きる



オリーブの木は、年に一度、実をつける。5月に白い小花をつけ、6月中頃に姿をあらわした実は、9月にふっくらとふくらみ緑に色づく。オリーブの花を受粉させるのはミツバチではなく、風。プロヴァンスでは、ミストラルという強風がその役目を果たす。
アルプスから地中海に吹き抜け、立っているのもやっとというほどの勢いで吹き荒れるこの風は、季節に関係なく、ある日突然むっくり立ち上がり、1、3、5日……、奇数日吹き続ける。
ずっと外にいると頭が痛くなるほど強烈な風なのだが、そのミストラルの通り道であるローヌの谷にあるサン・レミ・ド・プロヴァンスやレ・ボーのあたりがもっとも有名なオリーブ産地である。その昔は王様の洗礼の儀式に用いられていたと地元っ子が自慢する、由緒正しきオリーブオイル。
同じEU内でも国によって法律が異なり、フランスでは搾りかすを再利用してオイルを作ることは禁じられている。栽培されている本数も少ないので生産量は世界10位以内にも入らないが、品質はナンバーワンだと皆、胸をはる。
 

地中海人は、永遠の命をもつオリーブとともに生きる



オリーブの実には緑のオリーブと黒のオリーブの2種類がある。と思っている人が多い。まちがってはいないが、正しくもない。そもそも、すべてのオリーブの実は最初は緑色で、成熟とともに濃い紫色に変化していくのだ。ブドウと同じく、さまざまな品種があるのも意外と知られていない。世界中で栽培されている品種は500以上とも1000以上ともいわれるが、種によって、力強いもの、繊細なもの、喉がヒリっとするものなど個性がある。それに加えて、同じ品種でも収穫時期によって風味は変わる。緑の実からはフレッシュな、成熟期の実からは角の取れたまろやかな味わいのオイルができる。人間と同じだ。
機会があったらぜひいろんな種類を試してみてほしい。えー、こんなに違うの、と驚くはず。我が家のシェフは、数種類をつねに手元に置いていないと落ち着かない。
 

地中海人は、永遠の命をもつオリーブとともに生きる



フランスの観光地のなかでも美しい古代の建造物として名高いポン・デュ・ガールをご存知だろうか。2000年ほど前にローマ人が作った巨大な水道橋である。ユネスコ世界遺産に登録され、5ユーロ札にも印刷されている、あの橋だ。
橋のふもとに、幹の太さ5メートル以上のオリーブの巨木があるのだが、樹齢1000年以上という。1988年にスペインから贈られたものだそうだ。青々とした葉をつけ、まだまだ壮齢といわんばかりの立ち姿には惚れ惚れする。

じつは1956年の冬、異常気象でひどい霜の被害が出、プロヴァンスのオリーブは3分の1しか生き残れなかった、といわれた。しかし、死んではいなかった。土の上の部分は死んでも、根っこは生きていたのである。オリーブの生命力は半端ない。マルセイユ・タロットでも 「不滅」「不死」のシンボルだと教わった。永遠の命をもつ植物の油が体に悪いはずがなく、ギリシアでもプロヴァンスでも朝スプーン1杯のオリーブオイル健康法を実践している人は多い。
 



地中海人は、永遠の命をもつオリーブとともに生きる

ところで、日本にオリーブの木が伝わったのは明治の頃だとか。今年の早春、岡山県瀬戸内市牛窓町のオリーブ園に寄らせてもらう機会があった。第2次世界大戦中に「栄養があり、薬用にもなり、灯火にもなり、自然も守るオリーブを育てよう」と、創業者がこの地にオリーブ畑を作ったそうだ。その意思が受け継がれ、穏やかな瀬戸内海に面した畑に、2000本ものオリーブがのびのびと育っていた。エキストラバージンオイル「うしまど」のフレッシュなおいしさとともに、地中海生まれのオリーブが日本の地にしっかり根付いていることに感激した。いつもプロヴァンスのオリーブオイル自慢ばかりしている私だが、いまではフランス人に “日本の地中海” のオリーブオイル自慢をしている。
 

地中海人は、永遠の命をもつオリーブとともに生きる



フランスの一人当たりのオリーブオイル年間消費量はわずか0,5リットルだが、南仏だけで調査してみたら、イタリアやスペインと同様に10リットルくらいはゆうに消費しているはずだ。ここでは料理にバターは使わない。石灰岩ばかりで草が少なく、夏が暑いこの地にはもともと牛がいないので、必然的にバターもクリームも手に入らなかったのだ。アルザスの友人宅に行った時、キッチンにオリーブオイルがなくて驚いたが、オリーブの木がない彼の地では、昔から料理にはバターと相場が決まっている。

「俺たちはフランス人である前に、地中海人」とはダヴィッドの口癖。

声が大きいのも、タコが好きなのも、エピキュリアンなのも、それはきっと、地中海人だから。

南仏にはアーモンドも多く、野に自生する木の下には、実がたくさん落ちている。散歩しながら、実を集めては石で割って食べ歩くのが私たちの秋の習慣、なんて言っているが、プロヴァンスに来るまで、アーモンドの実がこんな姿をしているとは知らなかった私である。
 

地中海人は、永遠の命をもつオリーブとともに生きる

自分流×帝京大学
地球カレッジ
新世代賞作品募集



Posted by 町田 陽子

町田 陽子

▷記事一覧

Yoko MACHIDA
シャンブルドット(フランス版B&B)ヴィラ・モンローズ Villa Montrose を営みながら執筆を行う。ショップサイトvillamontrose.shopではフランスの古き良きもの、安心・安全な環境にやさしいものを提案・販売している。阪急百貨店の「フランスフェア」のコーディネイトをパートナーのダヴィッドと担当。著書に『ゆでたまごを作れなくても幸せなフランス人』『南フランスの休日プロヴァンスへ』