PANORAMA STORIES

庭にトリュフが!? そうだ、トリュフをつくろう。 Posted on 2018/04/18 ムーケ・夕城 トリュフ栽培士 フランス・ドルドーニュ

2004年8月、フランス北部の街、リール。北フランス出身の夫との間に2人目の赤ちゃんを懐妊していた私は、気分が塞ぐメタリックな空の下、臨月で旅をすることもできず悶々と出産を待つ日々を送っていました。
悪天候が代名詞のようなその街で、暦の上では夏真っ只中のある午後、私たち夫婦は湿気と寒さに耐え切れずとうとう暖房のスウィッチをオン。それと同時に、「南に住みたい!」スウィッチも入ってしまいました。

その翌年、ただただ太陽と青い空を求めて南西部にあるドルドーニュ県ペリゴール地方へ。夫婦が理想としていた「環境」を見つけ、2年後の2006年6月、無事南への移住を終えることができました。
 

庭にトリュフが!? そうだ、トリュフをつくろう。

引越しから数日経った日のこと。突然庭から聞こえた騒音に驚き外に出てみると、隣人で鴨農家を営むジョン・ルイ氏が、トラクターで荒れ果てた我が家の庭の草を刈っているところでした。いぶかしげに近寄ってみると、焼けた肌とちょっぴり伸びた髭のジョン・ルイは、爽快な笑みを浮かべてこう言ったのです。

『ここはこうして助け合っていく土地なんだ』

その言葉に感動した私たちはすっかり意気投合。ジョン・ルイが我が家を訪れては以前の家主の話、ドルドーニュの習慣、フォアグラの作り方などを教えてくれました。


冬のある日、ピンと張り詰めた空気の中、ジョン・ルイと庭を散歩していると、ジョン・ルイが不意に『あるんだよ』と、木の枝を拾いあげたかと思うと地面をゴリゴリ掘り始めたのです。地べたに張り付き周りを飛び交うハエの動向を観察し、土を手に取り、むせてはしまわないかというくらい鼻に土を押し付けて匂いを嗅いでいます。鼻孔に土を残したままの笑顔はかなり印象的でした。そう、そこには、「トリュフ」が潜んでいたのです。
 

庭にトリュフが!? そうだ、トリュフをつくろう。

トリュフバエでトリュフの在り処を知ることができることを知ったのも、豚や犬の力を借りずにトリュフを見つけることが出来る人を見たのも、この時が初めてでした。
太陽を求めて南下したら、自然、クリーンな空、人情深い地元の人との出会いがあり、おまけに「トリュフ」が足元に隠れていた……。
その頃の私には、”トリュフは世界三大珍味のひとつである”こと、”石のような様相だけどキノコである”というレベルの知識しかありませんでした。
しかし、トリュフと触れ合ううちに”トリュフは栽培できる”ということ、”現在、自生と栽培の割合は2:8である”こと。さらには、”栽培を続けていかないとトリュフが消滅の危機にあること”などを知りました。(白トリュフは人工栽培研究が各地で進んでいるものの目下自生のみ。そのため黒トリュフの3倍の値がついています)

私たちが暮らすペリゴール地方で採れるのは「黒トリュフ」のみ。黒トリュフと一言で言ってもトリュフの種類は多様で、ヨーロッパ綜覧には32種類のトリュフが記載されています。その中でも市場に出回るのは約10種類のみ。
ペリゴール地方では4種類の黒トリュフが見つけられます。冬トリュフには「メラノスポローム」通称ペリゴール・トリュフと呼ばれる黒トリュフの王様と、その弟分の「ブリュマル」。夏トリュフには「アエスティバム」、そして、秋に「アンシナトム(通称ブルゴーニュ・トリュフ)」が採れます。
 

庭にトリュフが!? そうだ、トリュフをつくろう。

庭にトリュフが!? そうだ、トリュフをつくろう。

”トリュフが栽培できる”と知ってから問答すること数年。せっかく購入した土地を何か有効活用したい、という想いも重なり「そうだ。トリュフをつくろう!」という、生まれてこのかた想像もつかなかったようなことを決心してしまいました。
それからというもの、どうしたらトリュフ園を作れるのか情報集めの日々。そこで、トリュフ栽培に一番重要なことは「土地の分析」であるということを学びました。

フランスのトリュフ産地には必ずトリュフ栽培協会が設置されています。トリュフ栽培の振興を図っており栽培に向いている土地か否かを調べてくださる方が常在しているのです。私たちもそこにお願いし、土地分析家でありご自身も栽培家であるマリーさんが我が家に来てくださりました。

どんなハイテクな機械を使って分析するのかと思い描いていましたが、マリーさんは「鎌と塩酸」を持って登場。鎌で大地を5cm程掘り起こしたかと思うと塩酸を2、3滴ポトッポトッ。あ〜、こんなケミカルなものを大地に? という思いを飲み込みながら見守りました。すると、泡がブクブクブクッと立ちはじめたのです。これは石灰質に反応して起こる現象なのだそう。この泡が出た瞬間、マリーさんからゴーサインが! PH値とは、酸性とアルカリ性の度合いを0から14までの数値で表したもので、PH7で中性、それ以下であれば酸性、それ以上であればアルカリ性。トリュフにはPH8ぐらいが適しています。地続きでも場所によってはこの泡がでないところもあり、『ここにはトリュフはできないから果樹でも植えてください』とあっさり。
 

庭にトリュフが!? そうだ、トリュフをつくろう。

ゴーサインの出た約4ヘクタールの土地を自らクボタに乗り耕しました。
トリュフ栽培に向いた土地とは、石灰質で痩せた土地。石がゴロゴロ混ざって水はけが良く、太陽の光を受け、生物活動の活発に行なわれている地。ミミズなどが活発に動き回ってくれれば土の通気性を促すので大助かり。トリュフは親水性というより好湿性で、過度の水はトリュフを腐らせてしまうのですね。そんなわけで我が家のような、30cm掘ったら細かいひびの入った岩に当たってしまう水はけのよい岩山の上の土地なんていうのが好都合なのだそうです。

こんな風に私とトリュフは出会いました。栽培できる環境が整っていたとはいえ、高価なトリュフ、そう簡単に栽培できるわけではありません。
ここから私とトリュフの長い長い物語が始まるのでした。
 

庭にトリュフが!? そうだ、トリュフをつくろう。

庭にトリュフが!? そうだ、トリュフをつくろう。

 
 

Posted by ムーケ・夕城

ムーケ・夕城

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Yuki Mouquet
トリュフ栽培士
トリュフ園所有。トリュフ栽培協会会員。Best of Perigord主催。土やガラスを使った創作活動も行う。パートナーはフランス人ミュージシャン、ディープ・フォーレストのエリック・ムーケ。自宅スタジオにやってくる音楽関係者のレセプションも担当。2児の母。