THE INTERVIEWS

パリでフローリストをやるための鉄則。谷口敦史流野心の貫き方 Posted on 2018/04/06 辻 仁成 作家 パリ

芦屋、青山、パリに花屋「アイロニー」をオープンさせた谷口氏は、そこに至るまでさまざまな人の縁に恵まれたと言います。外国人が花屋の激戦地、パリで花屋を続けるということは簡単なことではないでしょう。しかし、谷口氏は自分のクリエーションを信じ、それを貫くことに徹底した。そして、徐々に彼のクリエーションを評価してくれる人たちが集まることになっていったのです。パリへの挑戦は、世界への挑戦となりました。
 

パリでフローリストをやるための鉄則。谷口敦史流野心の貫き方

 
 パリにお店をオープンさせ、実際はどうでしたか?

谷口 敦史さん(以下、敬称略) やっぱりフランスは日本とはスタンスが違うというか、言葉も話せないような僕の花を気に入ってくれる人がいる。それが5つ星のホテルのオーナーであったりもして。僕のクリエーションを気に入ってくれて「アツシが好きな花を生けていいよ」と言って仕事をさせてくれたり、一人のアーティストとして接してくれるところは、とてもフランスらしいと思います。僕も苦労してパリにお店を開けているわけですし、こっちでわざわざ自分のテイストでない仕事はしたくないので、そういうお仕事は断るようにしてきました。それでもやって行けるように他のところで頑張ればいいやと思って。

 今は、ひと月のうち、20日間はパリで、10日間は日本という生活をされているそうですが。日本でのブランドブティックの装花などは今、誰がやってるんですか?

谷口 僕がデザインをして、スタッフが再現しています。

 ご家族はどちらに住まれているんですか?

谷口 家族は芦屋に住んでいます。妻と8歳の息子がいます。

 8歳というと、東京のお店をオープンさせた時に生まれたのですね。大変でしたね。

谷口 そうなんです。東京でお店を出した時はさすがに妻から大ブーイングでした(笑)。でも、パリにお店を出すと言った時は「賛成も反対もしません。何を言っても無駄なのはわかってるから」と言われてしまいました(笑)。 
 

パリでフローリストをやるための鉄則。谷口敦史流野心の貫き方

パリでフローリストをやるための鉄則。谷口敦史流野心の貫き方

 
 今、パリ店が出来て3年目ですが、パリ店単体ではどうなんですか?

谷口 パリ店だけでいうと、赤字ですね。

 パリでのビジネスは本当に大変ですね。こちらにお店を出す時は日本人から借りようと思っていたパリの物件が借りれなくなって、せっかく銀行からお金も借りたし、どうにかしてやりたいと思っている時に、こちらにいたフランス人の友人の方々が力を貸してくれたそうですが。

谷口 ある女性フローリストの方が僕の花を気に入ってくれて、その友人の男性、ジェロームが僕を応援してくれました。ジェロームの家系というのは、日本ととても関わりが深かったんです。真珠のミキモト創始者である御木本幸吉氏が初めて養殖真珠を成功させたのですが、その養殖真珠をヨーロッパに輸出するという時に、受け入れ先となったのがジェロームのお祖父さんだったんです。御木本幸吉氏とジェロームのお祖父さんが養殖真珠の等級を決めたらしく、それは現在でも使われているという話を聞きました。

 ジェロームさんというのは日本の文化にすごく興味があるのですね。彼もその関係の仕事をされているんですか?

谷口 なんかね、仕事はしてないんですよ(笑)。彼もアーティストのような方で。もともとバッグのブランドを立ち上げて、それがすごく成功して、パリのフォーブール・サントノレにブティックがあったり、日本でもセレクトショップで置かれたりしていたのですが、今はそれを手放して、世界中に家を6軒くらい持っているのでそこを転々としながら悠々自適に暮らしています。
 

パリでフローリストをやるための鉄則。谷口敦史流野心の貫き方

 
 谷口さんは南仏・サントロペのマダムに気に入られて、そこでも仕事をされているそうですね。

谷口 サントロペのマダムではなくて、パリ店の近くに住んでいるイタリア系貴族のプリンセスです。その方はジェロームとは全然関係ないのですが、お店の前をたまたま通りかかって、僕のウィンドーを見てくれて、夏にイベントがあるんだけどできますか? というお話をもらいました。

 芦屋に住んでいたカルティエの方と同じじゃないですか。人間を引き寄せる力があるんですね。

谷口 僕は、知り合いから仕事を頼まれたりすると、ほぼ、9割はうまくいかないんですよ。だから知り合いから「お金持ちの人がいて、そこの仕事やるとうまくいくよ」とか言われるのには全く興味がなくて。自分の花を見てもらって、気に入った人が買ってくれるというのが一番満足度も高くなるので、僕はそちらの縁を信用するし、大切にしています。

 そのプリンセスは、何をされている方なのですか?

谷口 イタリア系のフランス人なんですけど、イタリアで2番目くらいに有名な貴族の家系の方らしいです。その人が南仏で年2回チャリティーイベント『BAL DE L’ETE』という王族や貴族の集う舞踏会をしていて、その20周年記念に、普段は南仏、モナコやサントロペだけで行っていたものをパリで開催しようということになって、パリで花屋を探している時に「アイロニー」を見つけてくれたんです。

 9割は信用できないけど、残りの1割の信用できる人たちが集まってきてくれたのですね。

谷口 ただ、チャリティーの仕事なのでそこまで大きな仕事というわけではなくて。はじめ聞いた時にはすごくネームバリューはあるし、こういう仕事をパリで受けるのは日本ですごくいいPRになるだろうなと思ったのですけど、予算的に厳しく最低限のものしかできないと気づいた。かといって持ち出しでする力もなかったし、どうしようかと悩みました。その時に、日本で応援してくれる花屋さんたちにそういう仕事を経験してもらえるよう研修という形でお金を募って、そのお金で賄うことを思いつきました。パリでお花のレッスンをしているので、日本のフローリストさんたちがたくさん勉強しに来るんですね。その人たちに、店でレッスンをするのではなく、イベントの仕事を現場で体験してもらえる良い機会にもなると思って。10人くらいの生徒さんが参加してくれることになりました。
 

パリでフローリストをやるための鉄則。谷口敦史流野心の貫き方

 
 では、パリでは小売とホテルやレストランの装花、それに加え、日本からのレッスンや研修の受け入れもやってらっしゃるのですね。

谷口 そうです。日本からというより世界中からレッスンにきてくれますね。ブラジルやニューヨークなどからも。SNSを通していろんな方がコンタクトを取ってきてくれます。

 お話を聞いてると、谷口さんは昔からSNSをうまく活用していますね。

谷口 花屋というのは本来、地域に合わせてする仕事なんです。そこに住んでいる人たちの希望に添うビジネスなので、僕みたいに自分の好きな花や好きなテイストだけでやっているとその地域だけでは限られた人にしか受けないんですよ。そこをクリアするためには外に発信していかないといけないということがわかったので、写真を撮ってホームページにアップするようになりました。そうしていると、掲示板ができて、それがブログに変わって、ミクシィが出きて、Facebookに変わり……それをうまく活用してきました。花屋の中ではすごくSNSを使っている方だと思います。店舗があるのは芦屋、青山、パリという、どこも最高の立地なのですが、一軒一軒は小さいですし、だからと言ってたくさん売れるというわけでもないので。

 パリのお店には日本以外の国からも生徒さんが来るようになって。長くいらっしゃる方ばかりなのですか? どれくらいの方が来られるのですか?

谷口 そうですね。1回きりのブーケレッスンに来られる方がほとんどで、3日とか5日のコースを受講される方もいます。年間で100人くらいですかね。週に2、3人の生徒さんが来られるという感じです。ありがたいことです。
 

パリでフローリストをやるための鉄則。谷口敦史流野心の貫き方

パリでフローリストをやるための鉄則。谷口敦史流野心の貫き方

 
 では、パリに店を出して変わったことというのは何ですか? これから「アイロニー」をどう展開していこうと思ってらっしゃいますか? 

谷口 認知度もアップして、「アイロニー」というブランドとして徐々に仕事を選べるようになってきたかなと思います。先ほどブラジルやニューヨークから学びに来てくれる生徒さんがいるという話をしましたが、花の写真を載せているインスタグラムの影響がすごく大きいんです。なぜ、僕には花の仕事が向いてると思ったのかというのも、レストランでバイトしたり、中高の時にバンドを経験したりしてきて、自分には目から入る情報、視覚が一番優れているというか、はっきりと判断できるし、合っているなと思ったからなんです。SNSを通して、すでにプロの人たちが目を向けてくれ、来てくれる。日本にいた頃はそういうのはなかったので、パリにお店があるということで人が注目してくれるようになったと思います。マーケットがパリに広がったというより、世界に広がったという印象を持っていますね。

 パリは谷口さんにとってステージのような場所ですね。芦屋と青山は店舗だけど、パリは自分がアーティストとして出るためのステージ。舞台なんですね。やっぱり俳優なんですね!(笑)

谷口 あはは(笑)。そうなんですかね。

 もう、役者をやろうとは思わないですか? お花というステージができてしまったから。

谷口 そうですね。でも、何かの形で映画には携わりたいなと思っています。僕の夢の一つです。

 いいですね。いつかお花の映画を撮らせてください!
 

パリでフローリストをやるための鉄則。谷口敦史流野心の貫き方

posted by 辻 仁成