THE INTERVIEWS

ザ・インタビュー Chim↑Pom エリイが見る世界 Posted on 2017/08/12 辻 仁成 作家 パリ

 
日本現代アートの世界で異彩を放つChim↑Pom (卯城竜太・林靖高・エリイ・岡田将孝・稲岡求・水野俊紀が、2005年に東京で結成したアーティスト集団)。
若い世代に圧倒的な存在感を提示する彼らは現代アートにおけるパンクロックだ。日本よりも、海外での期待や評価の高い彼らと、10年近い交流がある私は、ここに来て、ますます彼らのメッセージと熱量が日本のアート界のみならず我々の未来に対しても重要であることに確信してきた。

このアート集団の紅一点エリイの、その天然キャラの裏側に隠された骨太の意思をこの対談から読み取ってもらいたい。日本にも、面白い連中がまだこんなにいるのだ、と気づかされる。
 

ザ・インタビュー Chim↑Pom エリイが見る世界

 
 エリイってカリスマ性がすごくあるじゃない。だから、勘違いしちゃって、映画「Paris Tokyo 
Paysage」にワンシーン超簡単な役で出てもらったことあったよね? でも、撮影になると、30回くらいNGの連続(笑)。ごめんね。カメラ向けると君、ブロック入っちゃってさ、お芝居まったくダメだった(笑)。

エリイ カメラの前に立つと魂が取られる気がするんだよ。



辻 普段はすごいチャーミングなのに、カメラ向けると別人になる。絶対、映画俳優に向かないタイプだね(笑

)。

エリイ カメラはね、Chim↑Pomのアート作品の撮影の時のみ素が出せて他では一度も出せたことない。メンバーにも、「私の良さがメディアだと全然伝わんない」とか、「超もったいないね、本当のエリイを知らない人がいるなんて」って言われる。



辻 それって、人から見られてるっていう、なんか緊張感が出てしまうのかな? バリアーができちゃうみたいにさ。



エリイ たぶん。知らない人たちに向けてだから、そうなるんじゃないかな。



辻 知ってる人だったら心開けるのに、ってことかな。人見知りなんだね。すごい硬い感じになってた。でも、あれはあれで面白かったよ。



エリイ 私は○○○です。ええ。とか言って(笑
)。

 でも、役者じゃないし、モデルでもない、アーティストだからそれは全然関係ないけどね。エリイと初めて会ったのは、青山だったかな。知り合いの紹介で、ふいに大人の集まりに顔出して、「どうも~」って軽さで(笑)。「なんだこの小娘」って思ったのが第一印象でした(笑)。しかし、今やChim↑Pomはすごい勢い。世界各国で大活躍しているよね、この前はギリシャだったかな。



エリイ いやあ、そんなことないですよ。そう、前回はギリシャ。アテネに行ってました。1回下見で「アバンドンホテル(廃墟ホテル)」を探しに行ったの。そこから何軒か回って、一旦日本に帰ってからまたアテネに行って2週間制作してからオープン。でも、私、オープニングとプレスツアー寝坊しちゃって(笑
)。どうも、作品の展示がすむと満足しちゃうふしがある。もちろんプレスツアーでちゃんと交流して発表するのが今後に繋がるっていうのもわかってるんだけどね。その後、夫がやってきて、2週間くらいヴァカンスして帰ってきました。



 とにかく、僕の中ではChim↑Pomとエリイは常に海外にアクセスするアーティスト集団、世界の隅々 に日本の現代アートを届けてるって印象なんだけど。



エリイ うーん、日本だとね、あんまり仕事ないんだよね。ほら、名前が名前だしさ。変な人たちだと思われてて。危ない! みたいな。まず、企業からは絶対オファーこないし。



辻 まあ、危ない…よね(笑

)。

エリイ そんなことないけどなあ。



辻 たしかに、企業からの仕事依頼は来ないかもしれないね。実は、僕も企業の人たちに君たちとの仕事を提案したことがあるんだよ。「僕はChim↑Pomと仲いいんですよ」って大きい声で言ったら、企業のお偉いさんたちが全員「シーーッン」てなった。「あの、すいません、何て言われました?」って聞き直すから「Chim↑Pomです」ってもう1回言ったんだけど、彼らはその段階で100%駄目だった(笑)。



エリイ そうそう。たまに企業務めの燃えたぎるすごい若い子が企画書出してくれて、通りました。とか言うんだけど、その後、絶対に落ちる。プランを一緒に考えようかとか、こういうの出したいんですけどって言っても、絶対に通らない。



 そうなんだ。Chim↑Pomっていう名前だけど、最初、僕もエリイに「なんでそんな名前にしたの?」って聞いたよね? そしたら、「恥ずかしくて普通の人が言えないじゃないですか。女の人がチンポムって言ったらその瞬間にみんなクスクスってなる。それが面白くてつけた」みたいなこと言ったよね。



エリイ あとね、日本の響きっぽいってのもある。響きがジャパニーズポップっぽいじゃん。「Chim↑Pom」ってたぶん、日本にしかないの。スペイン語っぽいけど、真ん中に↑もついてるし、”ジャパニーズ”だと思うの。私はめっちゃ最初にそれを考えた。



辻 ↑はあれはどういう意味なの?



エリイ 道路の交通標識とか、空港とか、駅とか見た時に、矢印がめっちゃあるじゃん。その矢印を見た時に、ChimとPomが無いなって思う日がいつかやってくる。っていう。そう思ってつけた。↑を見たら、もうChim↑Pom。あとアゲ! アゲっぱなし! やっぱ一度の人生、完璧にアゲて行きたいじゃん。



 全然、理解できないんですけど(笑)。なるほど、そういう狙いで、そういう感覚でね。僕が出会った頃も今も、常に新しいチャレンジをしているよね。全部は見て無いけど、ギリシャのアテネもそうだし、常に、世界各国で活動してる。どういうところで取り上げられたりするの? 例えば、ギリシャはどこから話が来たの?


 

ザ・インタビュー Chim↑Pom エリイが見る世界

© Chim↑Pom

 
エリイ ギリシャは、まず « Don’t Follow the Wind
 »っていう展覧会をやっていて、それは福島の帰還困難区域内での展覧会で、今もやり続けているんだけど。帰還困難区域内に何個か日本や海外の作家の作品を置かせてもらってるの。Chim↑Pomが発起人で他に日本と海外のキュレーターを立てていて。アメリカ人と日本人とイタリア出身でニューヨークで活動している夫婦。その人たちと話し合ってアーティストを一緒に選んで、会議して、作品を設置してる。ただ、帰還困難区域が解かれる時までその作品を見ることができないの。もちろん、地元に帰れる人はたまたま見れたりするかもしれないけど。




辻 このプロジェクトの発想が本当に君たちらしいね。金儲けだけ考えているアートの人たちに君たちの取り組みの深さをちょっとでも学んでもらいたいな。ところで、帰還困難区域って、設置する時は入っていいわけ?



エリイ 設置する時は地元の人の協力や、市の協力があって。



辻 それはすごい。地元の協力ってのが素晴らしい。


エリイ そう。すっごくいい街の人たちで、いっぱい話し合って、うまくいかないこともあるけど、超協力してくれる人もいるし。感動的だなと思ったのは、市の役人の人たちが、「こうやってこの場所を使ってもらうことによって、100年、200年後の資料に残って、この街が存ったんだっていう証明になる。そうなったらいいな」って言ってくれたこと。だって、消滅しちゃう可能性もあるからね。たぶん、震災前に市のおじさんたちはそういうことは考えてもみなかったことだと思う。普通に生活してたら100年後や200年後のことなんてあまり考える機会ないのかな。震災を経たからこそ、物事を自分のこととして見れるし、そういう考えができるようになったと思うんだよね。日本人ってみんな、絵を見るのも好きだし、マスコットとか超好きだし、面白いことも好きだし、本当は潜在的に美に対する鋭い感覚を持ってると思うんだけど、やっぱり島国だからか、みんなが一緒じゃなきゃ嫌だってとこがあって。そういう意味では、現代アートは今の時代には向いて無かったのかなって思う。今まではね。去年は歌舞伎町で展覧会やったんだけど、その時は歌舞伎町の振興組合のおじさんたちに協力してもらって、これから取り壊されるっていうビルを丸ごと使って展覧会をさせてもらったの。大成功だったんだけど。



辻 それも、無くなってしまうものに対して今、アクションを起こすっていうことなんだね。



エリイ うん、もう無くなった。


 一般的にいう「芸術」ってのはさ、例えば、ピカソの絵が何百年残りますっていう感じだったりする。だけど、Chim↑Pomの芸術って、全部その瞬間に消え失せ、壊れるよね。どれも残らない。



エリイ 全部ではないけどね。売るものがあまりない。本当に困る(笑)
。でも中途半端に売れそうで手ごろな物体を作って自分を消費したくない。納得出来ればいいんだけどね。心にハマったり、これやりたい! って言う前向きな気持が何よりも大切。



辻 貧しい芸術家集団だよね。メンバー6人もいてね。どうすんの? でも、僕はかっこいいと思ったんだよ。なぜかというと、残らないものに対して一生懸命それを伝えようと芸術活動してるっていうこと自体リスペクトする。「これが芸術だな」って思った。全部が豪華な額縁に入った絵画みたいになっても仕方ないし。新しい概念の芸術が必要だった。


 

ザ・インタビュー Chim↑Pom エリイが見る世界

ザ・インタビュー Chim↑Pom エリイが見る世界

 
エリイ そう、その « Don’t Follow the Wind
 »という展覧会を日本でやってて、そのサテライト展としていろんな国に呼んでもらって、後でも話すけどChim↑Pom独自の作品でもともと震災後に作った作品も世界中で展示されてて、それでお互いの作品が高まり合ってるのかな。その一環でアテネがあったわけ。アテネも経済危機とか難民がすごく多かったりして、帰りたいけど帰れない難民の人たちが占拠してるところへ行ってその人たちにも会ったんだけど。アテネで私が見つけた何個かのホテルは、もう2010年10月でカレンダーが止まってて、部屋にも朝食会場にもお皿や食べかけのものが並べられたまま、新聞もその日のまま。その、2010年10月に何かがあって、倒産してそのまま出て行ったんだよね。



 それがアバンドンホテル。フランス語でアバンドンって意味わかる?



エリイ え、どんな意味?



 「Abandoner(アバンドネ)」という動詞があって、物ごとを諦めるとか、放棄することを意味するの。




エリイ アバンドネ、へー、面白いね。英語に似てるんだね。打ち捨てられたってことね。



辻 そこでは何をやったの?



エリイ そのホテルを丸ごと使って、 « Don’t Follow the Wind 
»のアーティストたちの作品を一つ一つの部屋に設置していくの。Chim↑Pomは 番号が311の部屋を使ったんだけど、鍵が開かない。ドアも。ホテルの部屋のインターホンを押すと、それが福島の帰還困難区域内のお家に繋がるの。それで、その家で鳴ったインターホンが、アテネの311の部屋へ帰ってくる。そのシステムを作るのが超大変だったんだけど、それはもちろん、専門の人に協力してもらって。



 中の展示物はないんだ。



エリイ 無い。ピンポンだけ。



 その説明は書いたんだね? やっぱり。



エリイ そこには書いてないけど、チラシみたいなのに書いてあったり、シンポジウムやったりはした。他にも震災で一家がばらばらになってしまった福島の女の子にも来てもらって、アテネの若者とアテネに流れ着いた難民の人と3人でそのホテルの締め切った食堂でそれぞれの国の食べ物を持ち寄ってもらって食べながら会話して、最後に3人で決めた言葉を埃がかぶったテーブルに指でかいてもらって。日本はほんとに極東でヨーロッパからすごく遠いし、日本の場所がどこか知らない人もたくさん。でも地球上で一緒に生きてるわけで、向こうのことを知りたいし、こちらのことも伝えたい。話を戻すけど、ギリシャの人たちには伝わった。日本だとそこに書いてないとわかんないと思うけど、向こうの人たちはそういう展覧会に慣れてるじゃない。だから、そういうのを「読み取る力」ってのがある。アテネの人たちの読み取る力、すごくて。さすが哲学者とギリシャ神話を生んだ国だよね。オリンピックもそうだし英語のもとになる文字もそう。何と現代アート発祥の地ともいわれてる。私、アテネの街中で飲んでて、可愛い女の子と友達になったの。今でもずっと毎日メールしてるんだけど、超ポエティックなの。メールとかも、「私たちは同じ地球にいるのに全然違う惑星にいるみたいだね」とか来るし。



 英語でやり取りしてるの? エリイ、英語喋れるの?



エリイ 喋れない。喋れないけど毎晩飲んでたし、何もわかってないと思うんだけど(笑

)。

 エリイは感覚でわかっちゃうんだろうな。わかる(笑)。



エリイ いや、わかんないと思うけどね。でもさ、言葉もわかんないのに毎晩付き合ってもらってさ。優しいよね、地球の人って。

 エリイにとって、福島での出来事、311ってもちろん悲しくて辛い出来事だけど、アーティストとしてそこからいろんなものを拾っては、常に発信することになったよね。気合い100連発(※)とか。



※気合い100連発・・・被災地で瓦礫撤去をする若者たちとChim↑Pomのメンバーが円陣を組んで思い思いに100の言葉を叫び、その模様を映像として収録した作品。



エリイ うん、なったよね。気合い100連発も世界中で結構展示されてて、MOMAのPS1とかでも展覧会された。でも、私は311前に戻りたいけどね。個人の感想としては。

 今度の個展は?



エリイ 今やってる「道は拓ける」( 〜8月27日(日)*毎週水曜日休み
 営業時間:14:00〜20:00 道の通行は24時間解放)は7月29日がオープニングで、超いいオープニングだった。超いい空間になって、言葉では言い表しがたいけど。あれは何でやったかというと、去年、歌舞伎町でやった展覧会に置いた作品を、ビルを解体するときに全部一緒に壊してもらったの。作品ごと。その破片を解体が終わった後に集めて、今回、高円寺で再構築して使ったの。それで、渋谷のパルコもちょうど取り壊しだから、パルコの搬送用のドアを使ったりとか、パルコの甲板のPとCもそうだし。



辻 結構広い会場なの?



エリイ いや、狭い。戦前戦後あたりからあると言われててバラックみたいな感じで、もともと地下は宗教施設だったり、ちょっといわく付きの場所だった。その建物内、プライベートな空間の中に道路を作ったわけ。それは24時間解放されていて、プライベートがパブリックになるっていう。


 その道の部分はいつでも見れるの?



エリイ 見れるし、通れる。

 どんどん失われていく「今」という瞬間というものを、どうしてもそこに留めることができないから「芸術」が生まれたんだと思う。絵画とか彫刻っていうね。それが今までの芸術の手法だったと思うんだけど、Chim↑Pomっていうのは、それが失われる前というか、後というか、その一瞬にアクセスしようとするような、今までの芸術と逆行するような形のやり方をしてるよね。気合100連発にしても、アテネのイベント(※)にしても、帰還困難区域の芸術にしても、何かそれがすごくChim↑Pomらしいっていう感じがする。
 
 
※アテネのイベント・・・開かないホテルの部屋のドアの呼び鈴を鳴らすと、それが福島の帰還困難区域の家のベルを鳴らす。そこが同期していて、同じ音がアテネのホテルで響き渡るというアート。

 

ザ・インタビュー Chim↑Pom エリイが見る世界

© Chim↑Pom

 

「次回、明日、後編へ続く」

 
 

posted by 辻 仁成