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音楽は国境を越える! あるクラリネット奏者の一大決心。 Posted on 2018/05/23 辻 仁成 作家 パリ

 
プログレッシブ・ロックは太くはないが息の長い血脈を持ち、ヴァンパイヤのように脈々と現代まで生き延びている。パリで活躍するクラリネット奏者の筒井香織氏はその末裔のひとりであろう。
東京ではアニメゲーム系の作家でありながら、パリではコンセルヴァトワールの仕事までこなしている。時代や場所とともに進化を続けるプログレッシブなミュージシャンの素顔に迫る、ザ・インタビュー。
 

音楽は国境を越える! あるクラリネット奏者の一大決心。

 
 どうしてフランスに来られたのですか?

筒井香織さん(以下、「筒井」敬称略) 子供の頃からクラリネットを吹き始めて、作曲の勉強をしないままプロフェッショルになってしまって、一度ちゃんと勉強をしたいなと思ってました。フランスには2年だけの予定で来たのですが、あまりに居心地が良く、もう6年になります。たくさん友達もできて、コラボレーションさせて頂いたりするうちにすっかり長くなりました。

 フランスでは何をされているのですか?

筒井 主に学業ですね。音楽教授資格を取ろうとしていて、あと1年くらいで終わります。フランスの休日は日本のスタジオから注文を受けて音楽を作る仕事をさせて頂いてます。ゲーム・アニメ系が多いですね。どちらかというと私はオーケストラとかアコースティック部門です。こちらのミュージシャンに演奏をお願いして、スタジオで録って、私がミックスをして日本に送る、という手順です。コンピューターやプログラムが大好きで。打ち込みオタクなんです(笑)。 

 フランスとも仕事はされているのですか?

筒井 はい。現代音楽というジャンルになるのですけど、コンセルヴァトワールからの依頼を受けて、まだ世の中にないような曲をクリエーションしています。あとは、こちらの音の会社の方々とコラボレーションさせて頂いたりしています。最近おもしろかったのは、トンネルの中で即興演奏をするというものでした。パリ芸術祭、ニュイブランシュの前夜祭イベントの一つをやらせていただいたのですが、コンサートのようにお客様に構えて来てもらうのではなくて、たまたま道を通った方がお客様になるという。

 おもしろいですね。演奏する楽器はクラリネットのみですか?

筒井 そうですね。あとは、リコーダーや自分で作った日本楽器のような音の出る竹の楽器ですね。トンネルの企画でも演奏しました。デタラメな音が出るのですが、感覚で演奏しています。
 


<トンネルでのライブ>

 
 どういう音楽活動を目指していますか?

筒井 一言でいうのは難しいのですが、音楽そのものというよりイマジネーションというか、何か世界観のようなものを総合芸術で表現したいと思っています。例えば、今やっている電子音楽や現代音楽はいろいろなテクノロジーを駆使しているというか、3D音源で客席に立体音楽を届ける仕事を何度かさせていただいているのですが、それに加えてビジュアリゼーション。映像と演奏家をプロデュースして、リサイタルやコンサートを実現させたいなと思っています。来月、コンセルヴァトワールが主催で、5組のミュージシャンと一緒にパリ郊外でリサイタルをさせてもらうのですが、その時には自分が子供の頃から見続けている夢の世界を表現するつもりです。

 アコースティック・アストゥーリアス聴きましたがすごく良かったです。僕がやっていた音楽もプログレバンドということですが、70年代のプログレとは随分違うイメージですね。

筒井 シンフォニックという感じですかね。9月に日本でアコースティック・アストゥーリアスのライブを行うのですが、ありがたいことにチケット発売後すぐに夜の部がソールドアウトになって、昼の部もすることになりました。感激しました。頑張らないとって。

 男性2人、女性2人のユニットなのですね?

筒井 そうです。大山さんプロデュースで、ピアノ川越くん、ギターたけしくん、ヴァイオリンがテイちゃん、私がクラリネットです。
 

音楽は国境を越える! あるクラリネット奏者の一大決心。

 
 最後に、この先もずっとパリにいるおつもりですか?

筒井 できれば日本とフランス、両国を行き来しながら、両国の人たちのコラボレーションを繋げられるような、その橋渡し役のようなことをしたいですね。

 日仏を移動することにどんな意味があるのですか? なぜなのでしょう?

筒井 自分自身がフランスに来て感じたのですが、日本にいた時はフランス人たちとの交流は全くなかったですし、何も知らず、何か壁のようなものがありました。だけど、実際に交流してみれば、皆さんの良いところ、優しさや気さくさに触れて、日本のミュージシャン仲間と何も変わらなかったんです。境界もなく。だけど、日本に帰ってみると、やはり日本のミュージシャン達はなかなか海外の人との交流を難しく考えていたりする。本当は愛し合っているところもあるのにもったいないですよね。そこを、私がちょんと繋げられたら素晴らしいものが生まれそうだなと思っています。
 


<アストゥーリアスでのリコーダー演奏>

 
 フランスのミュージシャンたちって、どこか天使系というか、浮世離れしていて、しかも、音楽を心から楽しんでる人たちばっかりだよね。

筒井 たくさんいますね。皆さん本当に音楽に忠実な方達ばかりです。日仏音楽コラボレーションの橋渡しのために、まず、アコースティック・アストゥーリアスを2019年にフランスに呼ぼうと考えています。こちらで知り合った方々に協力してもらってコンサートをしたりしたい。

 筒井さんにとってフランス人ってどんな人たち?

筒井 けっこうダークな冗談を言ったりするフランス人が多いですけど、音楽の人たちは、宗教ではないけれど、音楽を信仰している感じがあります。音楽なしでは生きていけないという。私も全くそうで、それが原因で何度か恋人と別れた経験もあります(笑)。

 音楽というのは共通言語ですから、それだけでみんなと心を通わせることができる。音楽は素晴らしい言語だと思います。きっと受けるのじゃないかな! ありがとうございました。
 

音楽は国境を越える! あるクラリネット奏者の一大決心。

posted by 辻 仁成