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祝日のごちそう Posted on 2016/11/12 荒川 はるか イタリア語通訳・日本語教師 イタリア・ボローニャ

”la Dotta, la Grassa, la Rossa(ラ・ドッタ、ラ・グラッサ、ラ・ロッサ)” 「学問の都、美食の都、赤の都」。
これは私が住む町、ボローニャが持つ愛称である。

温かい料理が恋しくなるこの頃、今日は「ラ・グラッサ」について話そうと思う。

「美食」というのは意訳で、「グラッサ」は実際には「太った」という意味。
たっぷり太りそうな美味しい町ということだ。中でもこのあだ名にふさわしいのがトルテッリーニ。ボロニェーゼにとってはトルテッリーニ=フェスタという存在。
かつては祝日に親戚と食卓を囲んで食べる料理だったし、普段から食卓に上がるようになった現代でもトルテッリーニは特別な一品だからだ。

卵入りの手打ちの生地に肉の詰め物が入った小さなおへそ型のパスタで、鶏と牛肉でとったブロードという出汁で茹でて、スープと一緒にいただく。湯気の立つ透き通ったブロードの優しい香り、その中で小さなトルテッリーニがひしめく姿は食欲をそそる。

母から子へ、祖母から孫へと伝えられてきた味である。

今でも家庭で受け継がれている伝統料理だが、幸いパスタ・フレスカ(生パスタ)専門店で手作りの味を手に入れることもできる。私はもっぱらこれらのお店のお世話になっている。
家庭で鍛えられた腕をパスタ工房で発揮する職人スフォリーネ達が伝統の味を支えているのだ。

祝日のごちそう

私がよく行くLa Salumeria(ラ・サルメリア)専属のパスタ・フレスカ工房にお邪魔すると、薄ピンク色の割烹着に白いエプロン姿のスフォリーネと黄色いパスタが迎えてくれた。和やかでほっとする空間だ。
見学の人が訪れるのには慣れているらしく、手を動かしながら気軽に色々教えてくれる。

パスタ生地は小麦粉と卵と塩のみ。生地をこね、長い麺棒を使って薄く均等に延ばす。
麺を打つ姿は軽快でリズミカル、黄色い生地がみるみる広がっていく様子は見ていて心地良い。

具の味を隠してしまわない薄さにするには、経験がものを言う。
生地を正方形にカットして味の要となる具を乗せていく。
中身は豚ロース、生ハム、ボローニャ産モルタデッラ(ボローニャ・ハム)、パルミッジャーノ・レッジャーノ、卵、ナツメグ。

エミリア地方を代表する高級食材が詰まっている。だからこそ贅沢な一品。

祝日のごちそう

具が乗ったパスタを三角形に折りたたんで、指先に巻き付けるようにしてトルテッリーノを形作る。
(ちなみに一つならトルテッリーノ、複数だとトルテッリーニになる)家庭ではこの辺りで子供達の出番だ。

母親やおばあちゃんが打ったパスタを、小さな手でいくつも仕上げていって少しずつコツをつかむ。
包むのに慣れたら、パスタカットに挑戦だ。
今度は少量のパスタ生地と短い麺棒を手にパスタを打ち始める。

家族揃って一つの作業をすることで、大人の手つきを見ながら伝統の「技」を身につけていくわけだ。

スフォリーネも家庭で幼い頃から生パスタ作りを覚えてきたそうだ。
中には結婚してから姑に教わったという人もいる。

祝日のごちそう

工房では見事な手つきで、卓上の小さな四角が次から次へとトルテッリーニに変えられていく。
熟練の腕で1分に20個以上という速さだ。
おしゃべりをしつつもその手は止まらない。働く手、何かを作る手はその存在が芸術的だ。

こうして仕上げられたトルテッリーニは、軽く乾燥させて店頭に並ぶ。

クリスマスのランチに欠かせないトルテッリーニ。
12月が近付くとスフォリーネの仕事は何倍にも増える。

家で手作りできないボロニェーゼ達は早いうちから贔屓のお店に予約しておくのが恒例だ。
ただしブロードだけは外では買うことができない。自家製のブロードでスフォリーネお手製のトルテッリーニを茹でれば、ボローニャ伝統の味の出来上がり。

家族の待つテーブルへ。

祝日のごちそう

Photography by Maurizio Fantini(1/2/3) and Haruka Arakawa (4)

posted by 荒川 はるか

荒川 はるか

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Haruka Arakawa
イタリア語通訳・日本語教師。東京生まれ。大学卒業後、イタリア、ボローニャに渡る。2000年よりイタリアで欧州車輸出会社、スポーツエージェンシー、二輪部品製造会社に通訳として勤める。その後、それまでの経験を生かしフリーランスで日伊企業間の会議通訳、自治体交流、文化事業など、幅広い分野の通訳に従事する。2015年には板橋区とボローニャの友好都市協定10周年の文化・産業交流の通訳を務める。2010年にはボローニャ大学外国語学部を卒業。同年より同学部にて日本語教師も務めている。