WORLD FOOD STORIES

q.b.レシピのないレシピ帳 ~時間旅行に出かけよう~ Posted on 2018/11/02 八重樫 圭輔 シェフ イタリア・イスキア

厨房というのは一種の戦場だ、そう思う事が時々あります。

次々と降り注ぐ注文、それも大半が無理な注文、の砲弾をかわし、すぐに混乱に陥る味方陣営の指揮を執らねばなりません。オーブンにフライヤー、食器洗浄機やフードプロセッサーに冷凍庫。あちこちで機械のサイレンが響く中、様々な種類のパスタを時間差攻撃でゆで上げ、アルデンテのうちにソースで仕留めます。熱湯や油の飛沫に怯んでなどいられません。集中力と冷静さを失った途端、煙幕にまかれ、焦りの捕虜になってしまうのです。

荒れた厨房を片付け、帰宅するのは深夜ですが、どんなに疲れていてもすぐに眠りにつくという事はありません。オーバーヒートした頭を冷ますべく、貴重な自分の時間を悠揚と過ごしています。たいていはパソコンを開いてぼうっとしていますが、時には晩酌をしたり、電子ピアノを弾いたり、気が付くと明け方のこともしょっちゅうで、どうしてこういう時間はすぐに経ってしまうのだろうと、訝しげに思いながら枕に顔をうずめるのです。
 

q.b.レシピのないレシピ帳 ~時間旅行に出かけよう~

そんなある夜、どこからか流れてきた宇宙飛行士さんのツイートに、思わずハッとさせられた事がありました。それは宇宙船から撮った1枚の写真で、以前に住んだことのある街が写っていました。
月と雪明りに照らされて、夜景にもかかわらず驚くほどの鮮明さでした。街はずれの団地、毎日のように渡った川、港の形。その街には小学生から中学生にかけて6年余り住んだのですが、それ以来訪れていません。
 

q.b.レシピのないレシピ帳 ~時間旅行に出かけよう~

その写真を見た時、なんだか不思議な感覚になりました。
まるで何光年も離れた別の場所から、ずっと昔、僕が住んでいた頃に放たれた街の光を眺めているかのような気持ち。ぼんやりとタイムスリップしながら“ああそうか、星の光と思い出が似ているのは、どちらも遠い昔から届いて、今の僕らを照らしているからなのか”なんて考えたりして。まあ、こんな事を夜中にしながらリラックスしているわけです。

今までに函館、札幌、釧路、石狩、弘前、フィレンツェ、フォリーオ(イスキア島)と街を変え、十数回の引っ越しを繰り返してきました。どの街にも、そしてどの家にも沢山の思い出があります。去り際はやはり少し切なくなるもので、いつも小さくありがとうと呟いて後にしてきました。掃除がすっかり終わってがらんとした部屋に響く、最後の扉がパタンと閉まる音と共に。
 

q.b.レシピのないレシピ帳 ~時間旅行に出かけよう~

生まれたふるさと、思い出のふるさと、心のふるさと。ふるさとにも様々ありますが、一番長く住んでいるという点で、ここフォリーオは僕にとって第2のふるさとと言えるでしょう。イスキア島の西端に位置する人口約1万8千人の小さな町。夕陽の美しい、ワインの名産地。そして我が家の4人の子供たちにとっては文字通りのふるさと。彼らは大人になった時、どこでどんな風にこのふるさとを思うのでしょうか。そして僕も、いつか何処かでまた昔にタイムスリップした時、今が幸せな思い出となっているよう頑張らないとなあ、なんて今日も夜更かしをしながら思うのでした。
 

q.b.レシピのないレシピ帳 ~時間旅行に出かけよう~

さて今回ご紹介する料理はイタリア版イカ飯です!
かれこれ20年以上も行っていませんが、僕は生まれ育った函館が大好きで、そのガイドブックを愛読書にしているほどです。函館と言えばイカ漁が有名で、イカ飯も人気がありますよね。そんなイカ飯にそっくりな料理をイスキア島で見た時は驚きました。中身はお米ではないのですが、、、では早速レシピに参りましょう。
 

q.b.レシピのないレシピ帳 ~時間旅行に出かけよう~

イタリアンいか飯

~材料(4人分)~

★スルメいか 中2杯(またはヤリイカなど、手に入るいかで結構です)
★トマト缶(約400g)
★オリーブオイル、ニンニクq.b.(適量)

(詰め物用)
★硬くなったパン、なければパン粉 q.b.(適量)
★卵1個       
★ケイパーの塩漬け、干しブドウ  各10~15g程
★イタリアンパセリ、塩、パルミジャーノチーズ q.b.
 

q.b.レシピのないレシピ帳 ~時間旅行に出かけよう~

~作り方~

① いかをきれいにし、ゲソの部分を小さく切ります。硬くなったパンはまわりをそぎ落とし、中身を水でサッと濡らして軽く絞り、手で細かくします。
② 小鍋にオリーブオイルとニンニクを加えて熱します。ニンニクがきつね色になったら取り除いてゲソを炒めます。ケイパーを加えて火を止め、ボウルに移して粗熱を取ります。
③ ボウルに卵、干しブドウ、パルミジャーノ、パセリ、パン、塩少々を加えて混ぜ合わせます。硬めのハンバーグのタネのような感じになります。
④ 上記の具をいかの中に詰めます。詰め込みすぎると、煮ている途中で身が破れる事があるので注意してください。詰め終わったら爪楊枝で閉じ、フォークや爪楊枝で数か所穴をあけます。詰め物が少し余ったら後でソースと一緒に煮込んでもかまいません。
⑤ 鍋にオリーブオイルをひいて軽く熱し、詰め物をしたいかの表面をさっと炒めます。
⑥ 裏ごししたトマト缶と塩を加え、中火~強火でひと煮立ちさせます。煮立ったら弱火にして40分ほど蓋をして煮ます。必要であれば少し水を加えます。トマト缶は使い慣れたものを使ってください。好みで唐辛子を入れてもおいしいです。出来上がったら適当な大きさに切りパセリを散らしましょう。
 

q.b.レシピのないレシピ帳 ~時間旅行に出かけよう~

出来上がったソースをスパゲティに絡めてもとてもおいしいです。パスタとメインディッシュを同時に作れて便利でもありますね。
イタリアの家庭料理には、食べる回数を重ねるごとに味わいがわかるようになるものが多くあります。僕にとっては、この料理もそうしたものの一つでした。
イタリア料理はシンプルながら食べ飽きることのない、まさに“スルメ料理”と言えるのかもしれません。皆さんも機会がありましたら是非、イタリアの家庭の味を再現してみてくださいね。それではまた、普段着の食卓でお会いしましょう。
 

q.b.レシピのないレシピ帳 ~時間旅行に出かけよう~

※タイトルのq.b.とは適量を意味するイタリア語 quanto basta(クアント バスタ) の略です。細かいことは気にせず臨機応変に、あなた次第のレシピにして頂けたら、という思いを込めて。

 
 

posted by 八重樫 圭輔

八重樫 圭輔

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Keisuke Yaegashi
シェフ。函館市生まれ。大学在学中に料理人になることを決め、2000年に渡伊。現在は家族とともにイスキア島に在住。