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リサイクル日記「そこで冷遇されているなら、誰の人生だよ、と自分に呟け」 Posted on 2022/07/31 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ものすごく頑張っているのに、なかなか認めて貰えないという若い友人がいて、相談を受けた。
あきらかに自分はそこで浮いていると感じて仕方ない、のだという。
何か、ちょっとした時に、自分がぞんざいに扱われている気もする、と。
はっきりとわかる態度をとられるわけじゃないけど、遠回しながら、どうでもいい存在みたいに扱われている気がしてならない。
ふとした時に、距離を置かれているのじゃないか、と不安になることがあるのだそうで、自分がどんなに努力をしても、力説をしても、居残って頑張って働いても、評価されたことがないのだという。
あとから来た人がその輪の中で笑顔で受け入れられているのを少し離れた場所から、違和感と共に見つめている自分がみじめだと、彼は言った。

リサイクル日記「そこで冷遇されているなら、誰の人生だよ、と自分に呟け」



それでぼくは、そんなに敬意を向けられない場所に頑張って居続けようとしちゃダメですよ、と言った。
これは、会社だけじゃなく、プライベートなグループやカップルのあいだにもあることだと思う。相手が存在する社会全てに当てはまること。
自分の尊厳を評価されない場所で生きることは地獄だ。
こちらがリスペクトを持って接しているのに、それに対して一切敬意のない対応しか戻ってこないなら、魂の尊厳を傷つけられているのと一緒だ。
よく考えてみてほしい。君に対して、敬意を持たない人は君がどんなに頑張ったとしてもそれを評価することはないだろう、もはや…。
心のどこかで見下しているようなもので、その人たちの踏み台になって生きるつもりか。
目を覚まし、自分の誇りを守るために、行動を起こす必要がある。
そこは結局、自分の居場所じゃないと分かったのだから、それはそれでいい。
その瞬間から、自分を必要としてくれるところ、必要とされないまでも、努力したことをちゃんと見て、評価してくれるところ、を探し始めるべきだ。



必ず、自分を評価してくれる場所はあるし、君は脱出の機会を探る側に転じればいい。
そこから離れてやる、自分は次の場所で見違えるように頑張ってみせる、と自分に言い聞かせてみたらどうだろう。
そうすれば、その苦痛の場所や人も切り離され、次第に過去のものとなる。

居心地のいい場所、自分を評価してくれる場所、やりがいのある世界は、簡単に見つからないかもしれないけど、必ず、どこかにある。
自分の生き方をリスペクトしてくれる場所であるならば、多少、規模が小さくなってもいいじゃないか。
そこを自分が大きくするんだ、と思えばいい。
違和感を覚え、冷たい評価の中で実力を発揮できず、何か避けられていると思いながら頑張る必要なんてあるか?
君のことを笑顔で迎え入れてくれる場所へ勇気を持ってどんどん移って挑んでほしい。

リサイクル日記「そこで冷遇されているなら、誰の人生だよ、と自分に呟け」



転職じゃなく、生き方を転じることだと思う。
転職の転は「転じる」ことで、攻勢に転じる、という風に使う。
じゃあ、見てろよ、とまず思うことから気分をあげていこう。
やる気が生まれたら、そこで受けたあらゆる仕打ちも君の人生を攻勢に転じさせるエネルギーに変わる。
そういう世界は探さないと出会えないよ。でも、必ずどこかにある。
いろんな形で着地できればいいんだよ。一生は君のものだ。

ぼくは自分を認めてくれない世界にしがみつくのが苦手なんだ。
認めてくれてないのは肌でわかる。態度や、顔つきでわかるので、そう感じたら、その態度に敬意を返すことはおろかなことだよ、次を探せ。
君も自分に「いったい誰の人生だよ」と言ってみたらいい。
我慢する力を、攻勢に転じる力にかえよう。

リサイクル日記「そこで冷遇されているなら、誰の人生だよ、と自分に呟け」



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