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リサイクル料理教室「じゃがいものオーブン焼き、タルティフレット」 Posted on 2023/01/19 辻 仁成 作家 パリ

結局、パパが思うに、人間には大きくわけて二種類いる。
それは料理をする人としない人だよ。するから偉いというわけじゃない。
たまたま、そういう風に分かれてしまうのだ。
でね、料理をする人の中には、自分のために料理をする人と、誰かのために料理をする人とにわかれる。
パパは、その通り、誰かのために料理をするのが大好きな人間ということになる。
パパは、昔から料理をして誰かを喜ばせるのが大好きだった。
その気持ちはだいたい家族に向けられた。
きっと、パパの母さんがそういう人だったから、あの人を見習って、料理が好きになったんじゃないかなって思う。



でね、君も料理が好きだから、いつか、誰かに料理を作ってふるまうようになると思うな。
その日のために、パパに出来ることは、作り方を教えること。
習いたいって君が最初に言ってくれたのは音楽とか日本語とかじゃなくて料理だった。
それはなんで? 
なんで君はパパに料理を習いたいと思った? 
きっと、自分が美味しい料理を作りたい、からはじまって、心のどこかに、いつか誰かにそれを食べさせたい、できれば、美味しいと思って笑顔になってもらいたい、という思いがあったからじゃないか? 
それでいいんだよ。
料理は万人のものだ。
これは仕事じゃない。喜びなんだよ。
美味しいものを作り出せるマジックなんだ。
いつか、君が自分の恋人や、或いは血を分けた人に料理する日が来るのは間違いないから、パパは君に、その魔法を伝授する。
笑顔を人間に与えるための料理という名の魔法だよ。



じゃあ、はじめよう。
まず、玉ねぎからだけど、いいかい、薄切りにする。
包丁を持って、さあ、持つんだ。玉ねぎはあらゆる料理の基本中の基本だからね。
料理をする人間は間違いなく玉ねぎを剥くことからスタートする。
ローマ時代よりもっと昔から玉ねぎは人間の胃袋の友だちだった。玉ねぎを料理に使わない国なんかないくらい、みんなこの野菜にぞっこんなんだ。
炒めると、香ばしくなり、甘みも出て、あらゆる食材と仲良しで、食材と食材を繋ぐ魔法の野菜ということができる。



じゃあ、やってみよう。
まず、玉ねぎの尻の部分を5ミリ程度カットしちゃう。同じように、今度は反対側の根元の部分を5ミリくらい、包丁で切り込み、でも、こっちは切り落としちゃだめ、薄皮一枚残す。
だいたい、このくらい、1センチ幅くらい残せ。
そしてヘタごと、手で引っ張って、まず、縦に皮を一センチ幅で剥いてみろ。
そうすると、ほら、真ん中だけが剥けるだろ? 
今度はそこからどっちでもいいから、ペロッと全部一周剥いてしまうんだ。
こうやって、ほら、こうやるんだよ。
すると、皮が、いっぺんに全部とれるだろ?
これ、昔、パパの父さんに習ったやり方なんだよ。
おじいちゃんから孫へ、伝授だ!
美味しいものの基本がそこにある。
ちょっと涙が出ちゃうけどね…。



で、次は、フライパンで細切りにしたベーコンを炒め、ちょっと油を足してもいいかな、そこにさっきの玉ねぎを入れて絡めながら、中火以下でじっくり火を入れる。
あのね、玉ねぎって、優しく火を入れるのがコツね。時間がかかるけど、しんなり、色づいて、少し茶色くなるくらいが美味いんだよ。
焦げ付かないように、ヘラでよく混ぜながら、炒めていくのさ。塩、胡椒も忘れるな。いいな。人生と一緒で基本だけは絶対守らないとならない。
それが美味しいものを作る一番のコツになる。
そしたら、あとは何をやってもたいがいのことは何とかなるよ。
つまり、美味しくなる。
ほら、いい香りだろ? 
いい色だろ? 

リサイクル料理教室「じゃがいものオーブン焼き、タルティフレット」



そしたらここに、白ワインをぶち込んで、ヘラで、焦げ付いた部分なんかを削いで混ぜていく。
このちょっと焦げ付いた、キャラメリゼされたところなんかに旨味が宿っているから、余さず、削いで混ぜろ。見ろ、美味そうだろ?

そしたら、次はじゃがいもだ。
じゃがいもの真ん中に包丁ですっと切れ目を入れて、全体を軽く濡らし、一個一個をサランラップで包んで電子レンジに入れて、600wで3分から3分半、チン。
で、切れ目のところから剥いて、一口大にカットする。
お湯で茹でてもいいけど、15分くらいかかるから、この方が早いかも。
玉ねぎを炒めてる間に出来ちゃうから、便利だね。
これとあれとそれをこのタイミングで交互にやれば時間の節約になるなって考えながらやるといいよ。
頭の体操にもなる。
茹であがったじゃがいもはオーブン皿に並べて、その上からさっきのベーコンと玉ねぎの炒めたやつをかけて、ヘラで和えてごらん。
絡める感じだよ。
その上に、今日はカマンベールチーズを一個、丸ごと使うけど、本家本元のタルティフレットは、本当はロブルション・チーズを使う。
今日はカマンベールでやる。
オーブン皿がオーバルだから、カマンベールも円形のまま、上下をカットして二つにわけて、ボンボンと上に載せる。
予め、オーブンは温めておかなきゃならない。
これはオーブン料理の鉄則だよ。
人間だって準備運動が必要なように、ね。



オーブンにぶちこんだら、あとは出来上がるのを待てばいい。
もう火は通っているから、上のチーズが融けて、表面が軽く色づいて、グツグツとなってきたら、完成でいんじゃない? 
チーズは、ピザ専用チーズでも、ラクレットでも、なければ、なんでもいい。
どうだい? 簡単でしょ? 
あとは食べるだけだ。

自分で作ったものがやっぱり一番美味しい。
そして、料理をすれば、必ず気づくことがある。次はああしようとか、こうしようってアイデアや考えが浮かんでくる。
それが人間を大きくさせる。
人生と一緒で、少しずつ上達していくのが料理の素晴らしいところかもしれないね。
多少の失敗は気にすんな。失敗も成功の元。
最初に言った通り、基本だけは忠実に、丁寧にやっておけば、大きな失敗には繋がらない。
料理は人間を育ててくれる。
反省と後悔と挑戦と成功の繰り返しなんだよ。
さぁ、じゃあ、食べようか。
これが、フランスの定番家庭料理、タルティフレットだよ。

材料:
じゃがいも、250グラム
玉ねぎ、大、ひとつ
ベーコン、100グラム
カマンベールチーズ、一つ丸ごと
塩と胡椒、少々
白ワイン、50ml

リサイクル料理教室「じゃがいものオーブン焼き、タルティフレット」

リサイクル料理教室「じゃがいものオーブン焼き、タルティフレット」

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