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リサイクル・息子のための料理教室「濃厚抹茶のパウンドケーキ」 Posted on 2023/04/04 辻 仁成 作家 パリ

これは、少し前に、息子に抹茶のパウンドケーキの作り方を教えた時の父子の記録です。
どうぞ~。

君は覚えているかな? 
毎年、パパが手作りの誕生日ケーキを作っていたことを…。
君はあまり甘いおやつを欲しがらない珍しい子供だったけど、パパが作るあんまり甘くない大人味のケーキだけは、マジ、よく食べてくれたね。
だから、毎年、誕生日やクリスマスに、いろんなケーキを作ったものだ。
覚えているからな? 忘れた?
まぁ、いいだろう。
写真は撮ってあるから、いつか、君が結婚をして親になった時にでも、見せてあげるよ。
きっと参考になるはずだ。
「え? なんの参考?」
それはだね、つまり、子育てにおいて、お菓子作りがどんなに大事か、ということを学ぶ上でだ。普通、子供はお菓子が好きだからね。

リサイクル・息子のための料理教室「濃厚抹茶のパウンドケーキ」

じゃあ、実際に料理を作り始める前に、お菓子作りにおいて一番大切な心構えを一つだけ教えておく。
パパがお菓子作りで何度も失敗をしたのは、パパの独創性や、パパのいい加減さや、パパのアドリブが、邪魔をしたから。
いいかい、まず、大事なことを教えよう。
お菓子作りは料理と違い、分量、手順をしっかり守らないと膨らまなかったり粉っぽくなったり硬くなったりする。
ちょっと間違えるだけでも致命的になるんだ。
レシピは神だ、いいね?
とにかく、手順を間違えたら、もう取り返しがつかない状態になったりする。
料理だったら、醤油を入れるタイミングなんてちょっと間違えても、よっぽど酷いタイミングじゃなければ何とかなる場合があるし、面白い効果が出る時もある。
でも、お菓子は違う。もちろん、アレンジは大いに可能ではあるが、基礎だけはしっかり守らないと必ず失敗する。
これが料理とお菓子作りの決定的な違いになる。
「いいね? レシピは神だ!」
「おーけー」



今日、パパが君に教えるのはちょっと大人のケーキだけど、そう、君が大好きな抹茶のパウンドケーキだ。
フランス人は抹茶が大好きだからね。
これを覚えておくと、人気者になれるよ。
じゃあ、さっそく作ってみよう。
まず、ボウルの中に、室温に戻したバターと砂糖を入れ、ハンドミキサーで白っぽいペースト状になるまで混ぜる。
パパはよくこのハンドミキサーを使うけど、これは便利だよ、やってごらん。
そうだ、いいぞ、いい感じ。面白いだろ? 
実はお菓子作りって、男子にも楽しい作業なんだよ。
ハンドミキサーの振動って、電動ドリルで壁に穴をあけるような楽しさがあってね、この振動がたまらない。癖になる。ああ、快感!

リサイクル・息子のための料理教室「濃厚抹茶のパウンドケーキ」



じゃあ、次に、そのボウルに、溶いた卵を少しずつだな、5回くらいに分けて、ちょっとずつ、混ぜ合わせていくよ。
そう、続けて、ハンドミキサーで、分離しないように混ぜるんだ。
一気に流しこんじゃうと分離しちゃうから、5回に分ける。いいね、レシピは、
「レシピは神だね?」
「そう、その通り。ここまで、いいかな?」
生地がツヤツヤするまでよく混ぜること。いいね?

リサイクル・息子のための料理教室「濃厚抹茶のパウンドケーキ」

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よし、そしたら、抹茶を熱湯(適量)で溶かしてごらん。
その抹茶液と牛乳をだな、ボウルの中の生地に注ぎ込んで、よく混ぜ合わせる。
よし、それでいい。



これが出来たら、次、ふるっておいた小麦粉とベーキングパウダーを一気に加えてゴムベラでざっくり混ぜ合わせていく。ざっくりだ、こんな風に。
30回くらい、生地をヘラで切るように混ぜる。切る、混ぜる。切る、混ぜる、わかる? ザクっと切っては混ぜる、を繰り返す。いいね?
混ぜ足りなくても、混ぜ過ぎてもいけない。
この差だけは残念ながら、レシピには書かれていない。
これがお菓子作りのもう一つの厄介なところでね。
レシピ通りにやっていれば最高に美味しいものが出来るのか、と言うと実はそうじゃない。

リサイクル・息子のための料理教室「濃厚抹茶のパウンドケーキ」



「パパ、言ってること、分からない。どっちなの?」
「だから、お菓子のレシピって、守らないとダメっちゅうだけで、美味しくさせる決定的な感覚だけは経験でしかつかめない、ということなんだ」
「経験のないぼくはどうしたらいいのさ」
「最初は失敗をしながら、上達していくしかない。でも、レシピを守っていれば、最低限の到達点には辿り着くことが出来る。わかる? レシピを無視すると、膨らまないパウンドケーキが出来るだけ。だろ? 最低限のルールは守った上で、あとは何回も作って徐々に美味しいものへと上がっていく、というのがお菓子作りの基礎なんだ」
「なるほどね、分かったよ」



じゃあ、続けよう。作った生地をいよいよ、この、パウンド型に入れる。ここもどこか図工に似ているから、面白いぞ。
そして、170度に予熱しておいたオーブンで50分程度、焼くんだ。
で、焼き上がったら仕上げに粉砂糖に水を少量加えて作ったシロップを塗って完成となる。
パパはこのシロップにラム酒をこっそり入れておく。するともっと美味しくなるけど、君は未成年だからね、やめとこうか? 
焼きあがる間に作っておいた生クリームを横に添えてだな、完成。美味そうだろ、じゃあ、喰うか!

リサイクル・息子のための料理教室「濃厚抹茶のパウンドケーキ」

リサイクル・息子のための料理教室「濃厚抹茶のパウンドケーキ」



材料
バター100g
砂糖90g
卵2個
牛乳大さじ1
小麦粉90g
ベーキングパウダー 小さじ半
抹茶10g
生クリーム、適量

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