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息子のための料理教室「有頭海老で作る本場イタリアの海老のパスタ」 Posted on 2020/12/07 辻 仁成 作家 パリ

「人間って、男も女もやっぱ中身なんだな。外見がどんなにかっこよくても、いいか、辻、中身のない人だと三日で飽きるよ」
こう言ったのはパパがはじめて仕事をしたレコード会社の人だった。
その時、パパは22歳だったから、そんなこと言ってくれる大人が周りにはいなかったので、とっても新鮮な意見だった。
それ以降、人間、中身が大事なんだって、思って生きてきた。
でも、実は料理の食材だって同じなんだ。やっぱり中身のある食材で作った料理はおいしい。



今日は海老のパスタの極意を教えてあげるけど、普通、みんな海老っていうと海老の身をイメージする。でも、いいか、海老の一番海老らしく美味くて広がりのある部位は、香りを持っている頭部、まさに海老味噌なんだ。
日本だと、有頭海老という言い方をする。頭がついた海老のことだよ。フランスだと、ほら、マルシェで茹でたものを「茹で海老」として売ってるじゃないか。
こっちではマヨネーズをつけて食べるのが一般的だけど、あれを使う。フランス人も、頭をみんな捨てちゃうんだけど、一番美味い中身を捨てているようなものだ。
パパは、それを捨てずに、めっちゃ美味しいパスタをつくる。
フランスでは昔、大トロも捨てていた。日本人がそれを漁りに来るので、フランス人はやっと大トロの良さに気がついたんだ。これ、本当の話し。



で、日本は茹で海老ってあんまり売ってないから、この間、日本で、友だちの家に呼ばれた時は、わざわざ魚屋で有頭の生エビを買って持って行き、作ってやった。
生の海老を使う場合、まず、頭をもぎ取り、身の部分だけ茹でる。
茹で方は、沸騰したお湯に塩をたっぷり目に入れ、エビを投入するだけ。
1分ほど茹でたら火を止めてそのまま冷ます。お湯が冷めたらエビを取り出し、背ワタをとって、縦半分に切っておく。とりあえず、これで準備オッケー。



さ、パスタ料理の始まりは、フライパンにオリーブオイルを引くことから始まるんだったよね、これも一緒だ。
にんにくは細かくみじん切りにしたものを、それから輪切りにした唐辛子を一緒に加え弱火でじっくり炒める。
ここまではペペロンチーノと同じ工程になる。
香りがほのかに立ってきたら、みじん切り玉ねぎを加えよう。
「まずは、第一段階はここまで。分かったか?」
「うん」



そしたら、ここにエビの頭をぶっこんで、木べらなどで崩しながら中の味噌を出す。
こんな風に、ぐいぐいと押しつぶしていく。すると中身がにじみ出てくる。
これがこのパスタのすべての旨味の元になる。
わかるか、これがダシなんだ!
「凄いね」

ここに、白ワインを加えてアルコール分を飛ばし、トマトペースト、プチトマト、水を加えたら蓋をして、少し煮込む。
どのくらいかな、30分くらいも煮込めばいい。
有頭部分からもだが、もちろん、殻からもダシが出る。
あますところなく中身を引き出すというわけだけど、海の味がそのままパスタの中に浸透していく。
美味しくないわけがない。みんな、海老の一番大事なところを捨てていたんだよ。

息子のための料理教室「有頭海老で作る本場イタリアの海老のパスタ」



30分ほど煮込んでエビから出汁がよく出たら、一度、エビの頭部を全部ザルなどに取り出し、もう一度、木べらでエビの頭をギュッとギュギュッと潰してだな、残っている最後の出汁まで絞り出せ。
だって、もったいないからね。
しゃぶって舐めたいくらいに、ここがうまいんだから、最後の最後まで全部絞り出して、ただの抜け殻にしてやるのさ。
そしたら、そのダシ汁を鍋に戻し、そこに生クリームを加え、さらに弱火で温め、最後にギュッとレモンを絞る。

息子のための料理教室「有頭海老で作る本場イタリアの海老のパスタ」

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息子のための料理教室「有頭海老で作る本場イタリアの海老のパスタ」



パスタを少し硬めに茹で、茹で上がったらソースの中にパスタを投入し、少し煮込むような感じでソースを絡ませていく。見ろ、美味そうだろ? 
「やばいね」
ここで、茹でた海老の身の登場になる。
でも、はっきり言うと、海老の身はスターじゃない。
スターは海老の味噌だ。この海老の身は絡まったソースをさらに美味しくさせる触感に過ぎない。
いや、ちょっと言い過ぎたけど、頭と体のコラボってわけだ。
中身もよくて外見もかっこいい、パパみたいなイメージだな。なに、笑ってんだ、てめー。

じゃあ、いいか、茹でたエビを加えたら、海老が温まるくらい火を入れ、塩胡椒で味を整え、仕上げにオリーブオイルを回しがけして、完成。
余計なものは一切入れず、海老の出汁だけで作るパスタなんだけど、これこそが本場イタリアの味だと思っとけ。
有頭海老はちょっと高価だから、クリスマスとかお祝の時に作るのがいい。
パパが日本で暮らしていた時には、正月に出た海老が必ず残るので、それで作っていた。ものには美味しい食べ方というものがある。
さぁ、喰うか!

息子のための料理教室「有頭海老で作る本場イタリアの海老のパスタ」

材料、2人分
お好きなパスタ、200g、にんにく1片、玉ねぎ半個、唐辛子1本、海老300g、トマトペースト大さじ1、あればプチトマト10個くらいで、白ワイン100ml、水100ml、生クリーム50ml、塩こしょう、オリーブオイル適宜、レモン4分の1個

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