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息子のための料理教室「グーラッシュ、牛肉のパプリカ煮込み」 Posted on 2021/01/10 辻 仁成 作家 パリ

オーストリアのウイーンに最後に行ったのはいつのことだったっけ? 
小学生の頃? その時、メグリに教わったのが牛肉のパプリカ煮込み「グーラッシュ」だったね。
辻家で牛肉煮込み料理と言えば、フレンチのブフ・ブルギニヨンじゃなくて、このグーラッシュだ。
まぁ、同じような肉を使うし、だいたい同じ部類の料理ということになるんだろうけど、ブルギニヨンを作るより前から、辻家ではグーラッシュが牛煮込みの定番だった。
君がそんなにでっかくなったのはこのグーラッシュのおかげ。
そして、そのレシピを教えてくれたのが、メグリだ。
メグリがオーストリア人のゲラルドさんと結婚したのは君が生まれるよりもずっと前のこと。
君が生まれた頃、欧州には英国やドイツなんかに親戚がいたんだけど、みんな日本に帰っちゃった。で、今も残ってるのは、メグリとぼくだけ。

息子のための料理教室「グーラッシュ、牛肉のパプリカ煮込み」

息子のための料理教室「グーラッシュ、牛肉のパプリカ煮込み」



君は覚えているかな? ゲラルドおじさんが遊んでくれたことを。優しいウイーン人のおじさんだ。
もちろん、血は繋がってないけど、遊園地にも連れて行ってくれたし、本物のピストルも見せてくれた。
そうだ、彼はセキュリティの世界で生きるプロフェッショナルだからね。拳銃をつねにスーツの下に持っている。
あんなにやさしい顔なのに、ウイーンのセキュリティの責任者なんだよ。

あれ、パパとゲラルドの写真はあるけど、メグリの写真はないなぁ。笑。

息子のための料理教室「グーラッシュ、牛肉のパプリカ煮込み」



で、メグリから教わったグーラッシュ、冬になると辻家のテーブルに上る回数が圧倒的に増える。
君にとっては欧州にいる親戚ということで、ちょっと心強い存在でもあるわけだ。
メグリはウイーンで料理の先生をやっている。オーストリアの駐在員にはウイーン料理を、逆にオーストリア人には和食を教えているんだ。ある意味、血筋だね。
そのメグリ先生に習ったオーストリア料理と言えば、シュニッツエルとこのグーラッシュ!
どっちもオーストリアを代表する料理だけど、実は、このグーラッシュ、発祥の地はハンガリーなんだ。
ハンガリーではグーヤッシュと呼ばれている。日本にも渡って明治時代にハヤシライスになった。
君も大好きなあのちょっとカレーに似た牛肉の煮込み料理、実は東欧の料理が起源という説が有力なんだよ。
林さんがリクエストして生まれたという説もあるけど、パパは、ぜったいグーヤッシュがハヤシライスになったんだって、信じたい。その方がロマンがある。



しかし、寒い日に食べるグーラッシュは本当に温まる。心から温まる。
とくにメグリ直伝のレシピは最高なんだ。じゃあ、一族に伝わる東欧の牛肉煮込み料理の作り方を大きくなった君にも教えてあげることにしよう。
まずは、厚手の大きな鍋(ル・クルーゼとか)に、サラダ油を熱し、みじん切りにした玉ねぎをきつね色になるまで炒める。
ハンバーグなんかと一緒で、ここはちょっと時間がかかるけれど、根気よく炒めておくと仕上がりがぐっと美味しくなるからね。
丁寧に、丁寧に。本当に美味しいものには時短は存在しないんだ。覚えておきなさい。

息子のための料理教室「グーラッシュ、牛肉のパプリカ煮込み」

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地球カレッジ

息子のための料理教室「グーラッシュ、牛肉のパプリカ煮込み」

息子のための料理教室「グーラッシュ、牛肉のパプリカ煮込み」



ここにパプリカパウダーを入れ、手早く全体に絡める。
そこに水で薄めた酢を入れ少し加えて、蒸す。5分程置したらそこに、牛肉、塩、にんにく、マジョラム、クミンパウダー、レモンの皮、トマトピューレ(トマトペースト)、ビーフブイヨンスープを500cc程度入れて、そうだな、ヒタヒタになればオッケーだよ。煮込みの基本、ヒタヒタ!
よく混ぜ、それから、重たい蓋をちょっとずらして煮込むといい。
肉が柔らかくなって、表面全体に赤茶色い脂が浮いてきたら、ほぼ完成だ。肉の柔らかさにもよるのだけど、すじ肉などならば最低、3時間くらい煮込むと美味しくなるよ。
とろみがもっとほしい場合は、水溶きの小麦粉を適量入れると、さらにいい感じになるぞ。さぁ、出来た。喰うか! ボナペティ!

息子のための料理教室「グーラッシュ、牛肉のパプリカ煮込み」

材料
煮込み用牛肩肉  1kg(シチュー用でも可/5cm角くらいに大きめに切り分けておく)
玉ねぎ      1kg(スライスしておく)
サラダ油     大さじ6
パプリカパウダー 50g
酢        大さじ2
水        大さじ6

にんにく     2片(つぶしておく)
クミンパウダー  小さじ1
マジョラム    小さじ1(なくてもよい)
レモンの皮    ピーラーでひとむき程度(有機栽培のもので皮を薄く剥いてみじん切りにしたもの)
トマトピューレ  大さじ1
ビーフブイヨン  500cc~



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