JINSEI STORIES

息子のための料理教室「アートを楽しむ、サーモンのパイ包み」 Posted on 2022/06/23 辻 仁成 作家 パリ

君が料理に目覚めた日のことをパパは忘れない。覚えているかなぁ、中一の時のこと。一緒に、サーモンのパイ包みを作ったじゃないか。
ほら、思い出したね!? あの日は、大笑いだった。
辻家では男が料理をする。でも、普通の家だとお父さんはなんにも作れなかったりする。少なくともパパが子供の時代は「男子厨房に入るべからず」という言葉があって、男は料理しちゃいけない空気があった。
でも、それもある意味の差別だな。少なくとも今の時代には通じないし、ここフランスだと男性が料理するのは当たり前…。

そういうわけで、君がパパの料理の手伝いを本格的にはじめたのは、中学一年の終わりくらいからだったね。
一番最初にパパが君に教えたのは、ベシャメルソース作りだった。
それから解凍したパイ生地を二枚、麺棒でつなぎ合わせる作業も君が担当した。
そのうち、ピザも作れるようになった。
ベシャメルソースを作ることが出来たことで、その後、君はグラタンコロッケを作ることもできるようになったし、クロックムッシュも得意になった。
ベシャメルソースは料理の基本だからね。
そして、サーモンのパイ包みはそうだな、図工だったね。
料理というよりもアートだった。

息子のための料理教室「アートを楽しむ、サーモンのパイ包み」



君は、生地に包丁で切れ目をいれ、魚をぐるぐると巻くわけだけど、「なんか、ミイラみたいだね~?」と言いながら、大興奮だった。
最初は、作ったものの最終形がイメージ出来ないものだから、言われるがままにやっていたけど、だんだん出来上がってくるうちに、顔色が変わって、最後は、え、これ、どうなっちゃうのって、めっちゃ騒ぎ始めた! 
そこがこの料理の面白いところでもある。
そもそも、尻尾と頭を作るところは料理というよりはほぼ、粘土細工になっちゃうからね。
子供には(大人にも)楽しい作業だったと思うよ。
自然にキッチンが笑いに包まれていった。



それから、ぼくらは時々、いっしょにキッチンに立つようになるわけだけど、キッチンというところは生きるを学ぶ場所であり、人生のいい逃げ場でもある。
パパなんか、寂しくなると真夜中に冷蔵庫をあけて、中にいる冷蔵庫の妖精、冷蔵子ちゃんと語り合ったりしていた。
冗談だよ、そんな目で見るな! 笑。
ま、料理なんてさ、生きるための手段だからね、特別な会話なんかなくても「喰うぞ」という目標に向かって突き進むことで、ほっといても、親子の絆は深まるし、生きる希望も宿ってくる。
料理は哲学だし、運動だし、創作だし、生きる喜びであり、意味なんだよ!
で、いい匂いがし始めて、オーブンからこんがりと焼きあがったサーモンのパイ包みが出てきた途端、二人でガッツポーズだったじゃん。
あんなにこんがり焼けた魚の形のパイ包みが出てくるんだもの、盛り上がらないわきゃないな。
一番驚いていたのが作った君だったわけだから、最高のアトラクションでもあるし、究極の料理でもある。
よし、久しぶりにサーモンのパイ包みを作ってみよう。君の誕生日だったし、17歳になった記念すべき共同作業というわけだ。



まず、味噌ベシャメルソースを作ろう。小ぶりのフライパンに中火でバターを溶かし、小麦粉を加え、木べらで捏ねるように、少しずつ少しずつ牛乳を加えながら…。
辛抱強く練って混ぜ合わせていく。
塩胡椒少々、お醤油小さじ1で味を調え、最後に味噌30gを投入し、しっかり混ぜ合わせたら、はい、まずは、ベシャメルソースの出来上がり。味噌の濃さはお好みでね。

息子のための料理教室「アートを楽しむ、サーモンのパイ包み」

息子のための料理教室「アートを楽しむ、サーモンのパイ包み」



次に、千切りの長ネギ三分の一、ほうれん草、同分量を炒めておく。(ちょっと冷ましておこう。パイ生地が溶けちゃうから)。
解凍したパイ生地2枚を中心部で繋ぎ合わせ、麵棒で魚が入るくらいのサイズに引き延ばす。
真ん中にネギ、ほうれん草を引き、その上にサーモンを置く。

息子のための料理教室「アートを楽しむ、サーモンのパイ包み」

息子のための料理教室「アートを楽しむ、サーモンのパイ包み」

地球カレッジ



味噌ベシャメルソースでサーモンが隠れるくらい覆い、最後にエメンタールチーズ(蕩けるチーズでいいよ)をかける。
下のパイ生地に魚の淵に向けて外側から斜めに包丁を入れ、切り取り線を作っていく。
切り取り線から順にパイ生地を剥がし、着物を羽織らせる感じで交互に重ねていくんだ。
(この辺、写真を参考に。包丁をいれるとき、定規替わりに菜箸などを置いて、上手に間隔をとりながらやるといいよ)そして、両端を閉じ、粘土細工するように、頭としっぽはお好きなように創作するんだ。

息子のための料理教室「アートを楽しむ、サーモンのパイ包み」

息子のための料理教室「アートを楽しむ、サーモンのパイ包み」

息子のための料理教室「アートを楽しむ、サーモンのパイ包み」

息子のための料理教室「アートを楽しむ、サーモンのパイ包み」



照りを出すために卵の黄身(少し水で伸ばしたもの)をはけで万遍なく表面に塗らなきゃいけない。
予め200度で温めていたオーブンに入れ、クッキングペーパーを敷き、魚型パイを置いたら、30分前後でサクサクジューシーなサーモンの和風パイ包みが出来上がりになるよ。
オーブンから取り出す時の、わお~、という顔が最高だよね!!!
さぁ、喰うか!!!

息子のための料理教室「アートを楽しむ、サーモンのパイ包み」

息子のための料理教室「アートを楽しむ、サーモンのパイ包み」

息子のための料理教室「アートを楽しむ、サーモンのパイ包み」



材料です。
鱒または生サーモン 400g
塩・こしょう    少々
冷凍パイシート   2枚(20cm×20cm)
長ネギ       1本(80g・千切り)
ほうれん草     2株(80g・長さ4cm)
とろけるチーズ   50g
卵黄        1個
サラダ油      適量
<味噌ベシャメルソース>
バター    25g
小麦粉    25g
牛乳     120cc
味噌     25g
塩・こしょう 少々
醤油     小さじ1/2

自分流×帝京大学