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退屈日記「「痛くも痒くもないもーーーん」 Posted on 2021/02/18 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、大事な話しをしたい。
生きていると、見えない場所から不意に矢をはなたれたり、鉄砲で撃たれるような思いもよらない攻撃を受けることはないですか?
普通に生活をしているのに、突然、背後から殴られるような不条理な仕打ちを受けた経験はないですか?
最低でも、生きていれば、一度や二度、こういう経験をされた人は多いと思う。
こういう不意打ち的な悪意の攻撃というのは長い人生にはつきものだとまず思っておくのがよい。
いちいち、こういう不条理な人間関係を真に受け取るとろくなことがない。
長く生きてきたぼくだからこそ、言わせてもらうけど、まず、気にしないことが一番だ。
とはいえ、人間だから、気になる。そういう時にどうしたらいいか、と言えば、言葉にして、その攻撃を全面的に無力化させるのがいい。
そして、この無力化作戦で一番役にたつ武器言葉が、「痛くも痒くもないもーーーん」なのである。
いや、ちょっと待って、本当なんです!



気にしないでおこうと思っても気になるように人間の脳というものは作られている。
そうとうに、いい加減な性格の人間でない限り、或いは驚くほどずぼらな人間じゃない限り、他人に攻撃されて、普通に生きていられる人間はいない。
会社や学校で、聞こえるような陰口や悪口を言われたら、だれだって、超気になる。
しかし、これをいちいち受け止めていると身が持たない。
そこで、「痛くも痒くもないもーーーん」と口にしてみてほしい。
言葉というのは、言葉にすることで力が発揮される。
言葉にしないと、力を発揮しない言葉もある。
言葉に対抗できるのは、実は、言葉だったりする。
自分を守る言葉というのは口に出してはじめて、自分に跳ね返ることがあるのだ。
「痛くも痒くもないもーーーん」
これは最強の護身術なのである。



この「痛くも痒くもないもーーーん」のいいところは、後半の「もーーーん」だ。
「ケッ、関係ないよ。こんなやつら、相手にしてるだけ時間の無駄だ、先に行こう」でいいのである。
所詮、言いがかりのような攻撃なのだから、相手にして心を痛めるのは時間の無駄だし、身体だって、もたないもーーーーーーーーーーーーーーーん。
無力化させてしまえばいいのである。
無力化だ、無力化!
あいつら全部、無力にする!
おお、なんか、光りが見えてきたのではないだろうか?
その通り、あなたの人生に一切、なんの影響も及ぼさない相手を見上げる必要なんかないでのある。
ことごとく、無視をして、自分の人生のことだけ、考えていてもらいたい。
「痛くも痒くもないもーーーん」
その通り、すいすい、行きましょう。
「痛くも痒くもないもーーーん」
その通り、もっと楽しい世界で成果をだして、手の届かないところで輝いてください!
「痛くも痒くもないもーーーん」
ほら、
他人の言葉に小さくなっている暇なんかないのだから!

退屈日記「「痛くも痒くもないもーーーん」



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