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滞仏日記「育児放棄しそうなお母さんへ。父ちゃんからのメッセージ」 Posted on 2021/02/21 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、朝の九時に、子供部屋でゴソゴソ何やら動く気配があり、あらら、また出かけるのかな、と思っていたら、息子が、いってきます、と言い残してドアをバタンと閉めて外出したので、慌てて階段から階下を覗き、
「昼めしはいらんとか~」
と大声で言ったら、うん、いらない~、と軽快な返事が戻ってきた。
ここ最近のパターンである。ううう、…。
コロナ禍なのに、恋が出来るって、でも、すごいことだな、と感心する父ちゃんであった。
ということで夕方までご飯の心配とかしないで済むことになり、今日はフリー。
日清のジンジャーヌードルという新製品にお湯を注いでいたら、「ライーーーン」と携帯が可愛く教えてくれた。
ぼくの携帯に、日本の知り合いからプライベートのLINEが入ることは超少ない。たいがいは、ラインスタンプの宣伝ばかり、…。
LINEからしかメッセージがない日は、ぐーんと落ち込むんだよね。マジで。笑。

滞仏日記「育児放棄しそうなお母さんへ。父ちゃんからのメッセージ」



でも、今日は、若い日本のママ友から昼少し前に、メッセージが飛び込んだ。
「センセー、育児放棄スレスレなんで、カツ入れてくれださい」
シングルマザーで6歳と4歳のお母さんという編集者さんである。昔の連載の担当者だった。
普通より少し遅い結婚で30代の終わりに立て続けにお子さんが生まれ、40代になった途端に、ご主人が出奔(?)し、編集プロダクションで働きながらシングルというのだから、疲れて当然であろう。
「育児をあまり義務みたいに思わないで、肩の力抜いて、適当にやっときなさいよ。それは育児放棄じゃなく、育児疲労だから、大丈夫だぞー」
と、いつも、ぼくがツイッターでフォロワーの皆さんに励まされているような感じで、メッセージを送っておいた。



「ありがとうございます。何か、コツはありますか?」
「コツは1日、3度の短い育児放棄タイムを設けることだよ」
「え? センセー、どういうことでしょう?」
「あのね、ぼくもシングルになったばかりの頃、頑張りすぎちゃって、育児疲れが相当ひどくなり、更年期障害っぽくなったんだよね。育児鬱?」
携帯でメッセージ打つの結構、慣れてないので、ここで一度送信。えへへ。
「で、その時、午前中、午後、夕食後の3回、時間で言うと、9時半から11時まで、15時から17時まで、21時以降を育児放棄タイムと決めて、その時間だけ、一切育児をやらないように決めた。何があっても、しらんぷり、…。放棄だからね、笑。部屋に鍵をかけて、緊急事態じゃない限り、部屋から出ない、と決めたの。狭い家だから逃げきれないけど、でも、鍵をかけて、好きな音楽がんがんかけて、子供のことを頭から追い出してみたら、これ結構、有効だったよ。1日、3回も自由時間が出来るんだから、育児疲れも癒されます」
「ああ、ありがとうございます。気分、楽になりました」



たぶん、この若いママ友編集者さん、相談相手は誰でもよかったんだと思う。
でも、誰かに自分の愚痴を聞いてもらいたかったのだと思う。
そういう意味で、ぼくは適任者だったのかも。現役のシングルファザーだし、かなりの大人だし、逃避しやすい相手かもしれない。
どこかに、自分の気持ちを察してくれる知り合いがいるというのは大きい。まず、そういう人を確保するのも、育児ノイローゼを克服する一つの手段だと思う。
逃げ場があるかないかで、違ってくる。
ぼくにとっての逃げ場はツイッターだった。
ツイッターで愚痴っていたら、叱咤激励があり、離婚直後の一番苦しかった時期を乗り越えることが出来た。
もちろん、ツイッターは諸刃の刃にもなるので、そこは距離感が大事だけど、「子育て奮闘中」のような仲間が集まれば、励ましあえるので、有効であることは間違いない。



実は、ぼくも一時期、シングルファザー同好会なるものを結成したことがあった。しかし、これが一年もしないうちに、他のメンバーは脱落していなくなった。
たぶん、ぼくは自由業だから、ちょっとみんなより、余裕があったのかもね。
想像してみてほしい。会社勤めしながら、男手一つで子供を育てあげるのは相当大変なのである。「ツジさん、やめます」と脱退者が相次いだ。
女性蔑視とか性差別の話題が尽きない昨今だけど、男のシングルって、結構、逆差別というか、理解されにくい社会的空気の中で、生きなければならないのだ。
ここにも誰か光りをあててほしい。
ぼくみたいな人間はうまく世渡り出来るからいいけど、うちのメンバーはみんな真面目だったからなぁ。子育てと仕事の両立は厳しかった。



結局、じゃあ、お子さんはどうなったのか、というと、ほとんどが、親が面倒をみることになり、その後、彼らは再婚したり、逆にいっそう隔絶して引き籠ったり、となった。
シングルファザーをやり通した人は少ない。

ともかく、育児放棄はまずいけど、育児逃避はやったほうがいい、とぼくはそういうお父さん、お母さんにアドバイスをしてきた。
ぼくが日記で、育児の苦労を書いているのは、同じような育児疲れを抱えている人に、少しでも役立ってもらえたらなぁ、という思いからだ。
父ちゃんのレシピを発表するのも、家事や育児で疲れている主婦、主夫の皆さんに、たまには美味しい贅沢をしてもらいたいからである。
料理が得意になれば、美味しいものが、自宅でちゃちゃちゃっと出来ちゃうんだから、それはお得だよね?
ぼくがぎゃあぎゃあ騒いでるのを笑いながら読んでもらい、ああ、この人も大変なんだ、一緒なんだ、あたしもがんばろ、と思って貰えれば、それがぼくにとってもまた一番の励みにもなる。
さて、うちもそろそろ、夕飯の時間なので、今日はここまでかな。
GOTO キッチン!!!

※ということで、息子のリクエストで今夜は久々、たこ焼き、大阪スタイル!!!



滞仏日記「育児放棄しそうなお母さんへ。父ちゃんからのメッセージ」

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