JINSEI STORIES

滞仏日記「案の定、パリ首都圏がロックダウンになったが、ぼくは変わらず」 Posted on 2021/03/19   

某月某日、パリ首都圏が明日の深夜から4週間のロックダウンに突入することになり、ぼくはホッとしている。
恋人と会えなくなる息子はしゅんとしている。
なぜ、ぼくがホッとしているかというと、ここ最近、うちの近所の若者たちが毎週末になるとパーティを開催していたからだ。
特に、先週の土曜日は横の建物の最上階に数十人の若者が終結してダンスパーティをやっていた。
間違いなくプロのDJが入っていた。
早い時間はソウル系の静かめな音楽だったが、22時過ぎから音量があがり、いわゆるクラブ系の音楽ががんがん外に溢れた。
通り中に響き渡っているので、明らかな挑発だった。
これは誰かが警察に通報するだろうと思って安心していたのだけど、フランス人は通報をしなかった。
たぶん、若者の気持ちをみんな汲んで、耳を塞いでいるのであろう。
その家の下には高齢のおばあちゃんが暮らしているから、彼女が通報しないのは、若者を不憫に思っているからかもしれない。
その結果、パーティは深夜まで続いた。
最上階のテラスのある家がパーティ会場になっていて、女子の絶叫が途切れなかった。

滞仏日記「案の定、パリ首都圏がロックダウンになったが、ぼくは変わらず」



「なんで、誰も通報しないんだろう?」
ぼくが苛立って吐き捨てると、通りかかった息子が、
「だって、もう一年もこんな異常な日常が続いてるんだ。あの人たちの気持ちもわかるよ」
と同情的な発言をした。
「でも、禁止令が出てるのに、ああやってパーティをやるから感染者が増える」
「人間性をおさえ込まれて気がおかしくなるより、コロナに罹ってもいいと思う人が出てきているんだよ」
「それは若者の考え方で、そのせいで、毎日300人の大人が死んでる。病院のお医者さんたちは寝てない。一週間で2000人が死んでる、どう思うの?」
「パパ、でも、よく考えて、パパが20歳で家から出れなかったら、どうなるの? おかしくなるよね? もうずっとこんな日々が続いてるんだ。心が壊れちゃうよ。死んだように生きてる若者たちだって、たまにああやって息抜きさせないとだめじゃないかな」
「そうだけど、もしも、君がどこかで仲間たちと騒いで、コロナに罹って戻ってきたら、しかも無症状で、パパにうつったら、パパは重症化するかもしれない」
「わかってるよ。ぼくは誰よりも気を付けてるから安心して。でも、あの人たちだって、家族と向き合う時は気を付けてるはずだ」

滞仏日記「案の定、パリ首都圏がロックダウンになったが、ぼくは変わらず」



地球カレッジ

毎週のようにパーティをやっていた若者たちだが、ロックダウンになったら、さすがにパーティは出来なくなる。
毎週末のバカ騒ぎもこれで終わりだ。
そして、彼らの心の悶々が続くことになる。出口なし、である。
今日の夕食の時、息子がぽつりと言った。
「パパ、相談がある」
「なに?」
「ぼくはひと月も彼女と会えなくなる」
「そうだね。ロックダウンだから」
「ただ、今度のロックダウンは表向きのロックダウンで、外でのスポーツも出来るし、学校もやってる。散歩は時間制限なし。10キロ以内の散歩が出来る」
「何がいいたいの?」
「たとえば、ぼくはエッフェル塔に散歩に行く。彼女もエッフェル塔に向かう。時間を決めて、そこで一緒に散歩する。それはいいかな?」
ぼくはちょっと考えた。
「いいアイデアだと思うけど、警察に補導される可能性があるよ」
「そうかな? 二人で歩いているから? ならば、二人で走っってるカップルも逮捕されるんじゃないの?」
「確かに」
「ぼくらは社会的距離をとって歩けば、ぜんぜん問題ないんじゃないかな?」

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「ただ、ちょっと待て。明日からロックダウンがはじまるわけで、いきなりの待ち合わせはさすがによくない。二回目のロックダウンの時も次第に状況が分かってきた。だから、まずは感染を抑えるために、みんなで力を合わせるのがいい。スカイプとかで我慢しろ」
「そうだね。わかった」
みんなが力を合わせて感染を抑えていかないとならないのだから、ここは我慢をさせることにした。
とはいえ、理屈が通じる世代じゃない。パ―ティをやってる子たちだって、これから一月もおとなしく家の中でじっとしてられるとは思えない。
たぶん、警察や親の目をかい潜って、仲間の家に少人数で集まって小さなパーティをやるのだろう。闇営業のレストランの摘発も結構あるのだ。



実は、うちの前のホテルは真昼間、レストランでホテルの客に食事をふるまっていた。もちろん、こっそりと。
そしたら、たまたま通りかかった警察に見つかったのだ。
たまたま、ホテルの前で皿を抱えて立ったまま食事をしている見慣れない紳士がいたので、どうしたんですか? と訊いたら、警察が来て、中で揉めてると言った。
警察にたてついたことで2週間のレッドカードとなった。
一昨日くらい、ホテルの前を通ったら、
「ホテル、やってますよ」
と黒板に出ていた。笑。逞しく生きている!

しかし、みんな、もう限界なのである。
新型コロナは思った以上に手ごわい。
明日の深夜からはじまる4週間のロックダウン、慣れたとはいえ、心して挑むことになる。 

滞仏日記「案の定、パリ首都圏がロックダウンになったが、ぼくは変わらず」



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