JINSEI STORIES

滞仏日記「苦渋の決断。コロナ感染拡大を受け、ついにコンサートの中止が決まる」 Posted on 2021/04/11 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、変異株が英国で猛威を振るいだした1月頃から、ぼくは5月のライブが果たしてできるのか、ずっと悩んでいた。
そのことは先の日記でも書いた通り。
2019年10月のオーチャードホールライブは台風の直撃で延期、2020年の5月はコロナで延期、そして、今回は全世界的な感染拡大で中止ということになった。
日記で書いてきた通り、主催者側とはずっとこの問題を協議してきた。
主催者はぼくのコンサートだけの問題ではないだろうから、各方面で、本当に厳しい判断を突き付けられているに違いない。それは会場のオーチャードホールも同じであろう。
しかし、フランスの一日の感染者は5万人を超え、その半分が変異株という状況にある。
さらにここのところ日本でも感染拡大が続いている。
この状況下で、全国から人が集まる大規模なコンサートをやるべきか、でぼくは悩み続けた。以下は、春のはじまりに主催者の一人、中原さんに送ったぼくのメールの抜粋である。



『中原さん。日本の報道で感染拡大が続くフランスからの帰国者への隔離措置が厳しくなるということが大きくとりあげられました。フランスからの帰国者に神経質になっている様子が伝わってきます。前回の自主隔離も一週間目で精神的な問題が出ましたが、隔離二週間は相当に心と体をやられます。その状態で隔離明け、練習も出来ない、運動もできない身体的状況でベストのライブが出来るとはやはり思えないのです。なにより日本の皆さんが不安になるようなことを出来れば避けたい、という思いも強い。延期することはもうできないのでしょうか? フランスは夏の終わりまでに全国民がワクチンを打つことが決まっており、そこに向かっています。ぼくも6月には必ず打てるのです。そのタイミングで大きな転換点が来ると思いますが、この5月は正直、日本を含め、世界的な感染拡大の様相から先行きが全く見えません。ぼくが帰ることで不安になる方が出るのであれば心苦しいですし、とはえい二回も延期になった今、待ち続けるファンの皆さんのことを思えばもっと苦しい。中原さんやホットスタッフ、オーチャードホールの皆さんの負担も大きいでしょうから何とも言えませんが、解決策があるかどうかを含め、主催者の皆さんの判断を仰ぎたいです。いったん中止をして、払い戻し、感染が落ち着く年明けに、最高のコンディションでファンの皆さんの前に立ちたいというのが今現在のぼくの気持ちではあります。辻仁成』



3月中旬、この件を受けて、主催のホットスタッフさん、そして会場のオーチャードホールの方がこの問題を真剣に検討しはじめてくれた。
実はぼくの気持ちは、この一年、感染状況のデータを日々確認してきたので、ある程度、決まっていた。
日記に書いた時はすでに中原氏に詰め寄っている段階だった。
遠方から観に来てくださる人たちに一日も早く連絡をしたかったからである。
そんな中、オーチャードホールの担当の方から、「来年またやってくださるなら」という大変ありがたいお返事が戻ってきた。
会場も主催者も中原氏も、本当に一番つらい立場にあるというのに、この厳しい状況を理解してくださろうという気持ちがぼくの目頭を潤ませた。



実は皆さんからのツイッターへのコメントが今回の決断の大きな後押しになった。
「変異株が急拡大している日本の現状からも延期か中止しがよいのでは」という意見が圧倒的に多かったことを関係者は重く受け止めてくださった。
そうこうしているうちに、東京や大阪の感染者数が急拡大しはじめた。
見えないところで感染が広がっているのは間違いない。
今週前半、中原氏から連絡があった。珍しく電話だった。
「辻さん、でも、コロナで3回もライブが延期やら中止になるのは苦しいですわ。このままやられっぱなしで辻仁成のライブが出来ないままってのはなんともやるせない。パリから、5月30日に代替えのライブ、やれませんか?」



コンサートの中止と払い戻しに関しては、明日、4/12(月)AM10:00(日本時間)から、各PG、ホットスタッフホームページ等でUPされるとのことである。
ぼくのHPでも、詳細を掲載するのでチェック頂きたい。
公演を今までずっと楽しみに待ち続けてくれた皆さんには本当に申し訳ない。
必ず、感染が落ち着いたらオーチャードホールでライブをやるので、もう一度、もう暫く、お待ち頂きたい。
そして、5月30日は、完全にコロナに屈するのは悔しいので、今のぼくにしかできないオンラインのライブをパリから生配信で届けたい。
今、ぼくが考えているのは、まだ、計画の一つとしての段階だが、セーヌ川から日本に向けて歌う、ということだ。
エッフェル塔の袂からスタートし、ポンヌフ橋、ノートルダム寺院、サンルイ島、パリ全域を移動しながらのクルーズライブ&遊覧ツアーが出来ないか、・・・。
絶対に30日は歌う覚悟で身体も鍛えている。今日も走った。明日も走る。
中止という知らせに悲しい思いをされている皆さんに、ぼくは諦めない、とだけ今は申し上げたい。

滞仏日記「苦渋の決断。コロナ感染拡大を受け、ついにコンサートの中止が決まる」



自分流×帝京大学
地球カレッジ