JINSEI STORIES

滞仏日記「なぜ、放送終了後ぼくは落ち込み、すまん、と思ったのか」 Posted on 2021/05/03   

某月某日、どうでもいい話しかもしれないのだけど、今日、ミスターサンデーに出演をしながら、考えたことがある。
ぼくはおよそフランス在住20年だが、その間に、日本に対する考え方がちょっと変わった。
日本のことを祖国と思うようになった。(右とか左とか思想的なことではないので、誤解なさらぬよう、お願いしたい)
日本の読者の皆さんにはピンとこない響きだろう。
東北大震災の直後、あの津波の映像や原発事故の映像を見ながら、何もできない無力感にさいなまれた自分は、「故郷」という曲をかいた。
「故郷を思うと涙」というサビのリフレインがある。
これを歌う時、ぼくはいつも日本のことを想っている。

滞仏日記「なぜ、放送終了後ぼくは落ち込み、すまん、と思ったのか」



祖国という言葉を日本にいる方々はあまり使わないが、海外で長く暮らしていると、時々、自然と口をついて出る。非常に、ノスタルジックな意味あいがある。
で、今日テレビで、ロックダウンの話しになり、ぼくはいつになく熱くなった。
しかし、祖国を想って語るぼくとそのほかの皆さんとのあいだには僅かな乖離があった。
これ、説明しづらいのだ。



インド変異株や英国変異株が日本で検出されると、疑われるのは、在外日本人だ。
ぼくは絶対、自分の国にウイルスを持ち込みたくないから、死に物狂いで感染しないよう心掛け、このパンデミックになってから一度だけ日本に戻った時も、2週間の厳格な隔離を実践し、そのせいでちょっと心を病んだ。
その話しをすると大勢の在留邦人が、私もです、と言う。
海外で生活している者だからこそ、そこは本当に気を付けたい、と思っているのである。
でも、残念なことに、感染に気付かず持ち込んでしまう人も出てくる。
今日は18人の感染者が空港で見つかったというニュースがあった。
その中には、企業の方々やそのご家族や外務省など政府の人もいるのに違いない。
日本が完全に世界と縁を切って鎖国をすると、国がマヒする。
人の動きというのは最小限必要なのだ。
その最小限というのがどのくらいか、ぼくはぼくなりに悩みぬいて、コンサートを中止した。



日本政府は最近、入国制限を厳しくした。それはいいことだ。水際対策が甘かったことに気が付いてもらえて、よかったと思う。
そんな中、書類に不備があった30代と20代の男女を政府は出発国に強制送還をした、というニュースが飛び込んできた。
アメリカから成田についた20代の日本人女性は、72時間前の検査証明書の提示を求められた。しかし、病院側のミスで、ひと月、日付を間違われていたのである。事情を説明したはずだが、その子は、アメリカにそのまま送還されることになる。
そこでPCR検査はしなかったのだろうか?
送還の飛行機代はその子持ちだったのだろうか? 政府が出したのなら、そのお金でちょっと長めに隔離するとか、出来なかったのか?
厳しいコロナ状況下、やっと日本にたどり着いた日本国民を政府は元の国に戻した、というのだから、今まであんなにザルだったというのに、と思うと、非情で泣ける。



祖国を想って頑張ってる在留邦人にも「帰ってくるな」という声が飛ぶことがある。
だから、ぐっとこらえて、我慢している。
ぼくはコロナのパンデミックが始まってから、ミスターサンデーなどにリモート出演させてもらい、または、デザインストーリーズ紙上で数多くの最新情報を紹介してきた。
それは、メディアではなかなか伝えられない海外のコロナの現状を在留邦人として少しでも届けたいという思いからやってきたのだけど、誤解されたり、帰ってくるな、と言われると、やはり、悔しい。

地球カレッジ

滞仏日記「なぜ、放送終了後ぼくは落ち込み、すまん、と思ったのか」



今日、放送を通して、ぼくがちょっと興奮気味にしゃべる場面があったと思うがそれは、ロックダウンが本当に今、日本にどういう意味合いがあって必要か必要じゃないかを語りたかったからだ。
これはとっても大事なことだったので、生で、伝えたいことがたくさんあったが、生放送なので仕方のないことだが、楽しかった半面、ちょっとだけ消化しきれない、伝えきれないもどかしさが残った。
テレビを通して、日本の皆さんに、ロックダウンというシステムの、大丈夫なところもあるし、大丈夫じゃないこともあるので、その辺を海外で何度もロックダウンを経験してきた人間として、届けたかった。
ぼくが喋るのが下手だから、うまく伝えられなくて、終わった後、またしても、落ち込むんでしまった。すまん。今日、日記で伝えたいことは、それだけである。

自分流×帝京大学