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滞仏日記「華麗なる父ちゃんの加齢な美容?術、その1」 Posted on 2021/05/04 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、還暦を超えた途端、やはり、目に見えて自分が老けたことを実感せざるをえなくなった父ちゃん・・・。
息子は「あのさ、61歳なんだから、老けるの当たり前だし、どこまで貪欲なの」と笑うのだけど、人間というのは自分がどう見られているか気にしなくなると途端に腹は出るし、皮膚はたるむし、皺も目立つようになって老けまくるのも事実である。
ひと様の前に出ないでいい作家だけならば、どんな体系でもいいのだけど、やはりステージにあがる自分は老いても、しゃんとしていたい。
腹の出たロッカーにだけはなりたくない。
ともかく、自分が自分を許せる最低限の体形は死ぬまで維持させたいのだ。
かっこいい年の取り方をしたいじゃないか。
ということで、最近、とくに顔の弛みが気になるので、地道に、頑張っている。
ラッキーなことに毎日走っているから体脂肪は悪くないし、内臓とか肺機能も問題ない。基礎疾患もないし、コロナが流行してからは風邪さえひいてない。
ただ、目の下のクマとか、ほうれい線とか、顎とか、額とか、首とか、が弛んで気になってきた。・・・うわあ、全部じゃん!なんとかせにゃあ。



「老けた」と言われるとショックなので、言われないように、抗っている。
「だから、そういうのみっともないからやめなよ」
とぼくがタイツ履いて、リビングの窓際でローラー運動をやっていると、息子君が笑いながら言った。
かっちーーーーーん。
「なに、それ。その円筒形、どこの道化師?」
「これ使うと、腹がへっこむんだもーん」
「もーんじゃないよ。それに、いいじゃん、61歳らしく、してなよ。まだモテたいとか思ってるの? 図々しいね」
かっちーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。
悔しいけど、何を言われても、ぼくは負けないのである。

滞仏日記「華麗なる父ちゃんの加齢な美容?術、その1」

滞仏日記「華麗なる父ちゃんの加齢な美容?術、その1」

滞仏日記「華麗なる父ちゃんの加齢な美容?術、その1」



今日は、パーカッションのジョルジュ・ベゼラから「メンバーで練習に入る前に、二人で音をあわせたい」と連絡があった。
5月30日のセーヌ川クルーズライブに向けて、それはとってもいいことだ。
この人はサンタナのツアーなどにも同行したことがあるし、今フランスでも大人気のグループ、サンジェルマンなどでもサポートをやっている超売れっ子のパーカッショニスト。
それなのに、偉そうにしないし、とっても真面目なのである。
彼のいいところはいつも満面の笑みで演奏をすること、本当にこちらが楽しくなる最高のミュージシャンなのだ。
どうしてもライブまで時間がないから呼吸を合わせたいというのだけど、ロックダウン中はスタジオで練習出来ない、そこでうちでやることになったのだ。
ぼくらは予定している13曲を頭から順番に演奏していった。息子が顔を出して、ボンジュール、と挨拶をした。
「いくつ?」
「17です」
「へー、高校生か、いいね」
息子が学校に行った後、
「うちの子は25歳なんです。もう、孫がいるから、ぼくはおじいちゃん」
と言い出し、ぼくをびっくり仰天させた。
35歳くらいだと思っていたので、45歳と聞いてもう一度、びっくりしたし、孫がいるとは、いやはや、もっと驚いた。
やっぱり、ミュージシャンは若い。いろんな職業の人とぼくは会うけど、ミュージシャンは本当にみんな年齢が分からない。
ぼくが61歳だ、というと、オーマイガッ、あんたは若すぎるよ、ツジー・・・。
ゥ、嬉しい。えへへ。

滞仏日記「華麗なる父ちゃんの加齢な美容?術、その1」



「なんか、やってるんですか?」
とジョルジュに聞かれたので、いろいろ、頑張ってる、と言って、ぼくが最近やってる若返り美顔術を紹介した。
彼が一番、驚いたのが、顎のLineをシャープにする運動だった。
ぼくは舌先を伸ばし、自分の鼻の突端まで伸ばす運動を3セットやってみせた。これをやると、首の筋がピーンと伸びて首の弛みも解消される。
それから、舌先を前歯と上唇の下に入れて、左右に大きく動かす運動もやってみせた。ぼくがあまり変な顔でやるものだから、笑い転げていた。
「ジョルジュ、笑わないで、やってみろよ」
ジョルジュがぼくを真似てやりはじめた。
「30秒、ワンセット。それを三回」
「うわああ、きつい。なんすか、これ」
ジョルジュは途中でやめた。無理、と言い捨てて・・・。実は、これ、死ぬほどきついのである。でも、一週間もやっていると、顔の下半分がシュッとなる。
文章だとうまく説明できないけど、想像してやってみほしい、気になる人は、・・・。
「こんな努力してるんですか?」
「顔が引き締まるし、しゃきっとなるからね。耳たぶを掴んでぐりぐりと回すのも3セットやる。これをやりながら、発声練習も同時にやってるから、かなり効果が高いよ」
「61歳、すごいねー」
ぼくらは笑いあった。いや、ほんと、この三つの運動はおすすめである。これに加え、5キロ走るし、ローラー運動もやっているので、多分、その辺の40代よりは若い体躯を持っているとは思うのだけど、・・・。



ぼくらは3時間ほど、練習をした。
下のおじさんに怒鳴り込まれないか、はらはらしながらの練習だったけど、結局、誰からも文句は言われなかった。逆に周辺住民、喜んでいたりして、・・・えへへ。
「ツジー、ぼくはあんたの音楽やそういう夢中な生き方が好きだ。今回も一緒にできてうれしいよ。セーヌ川クルーズライブ、大成功させよう」
練習が終わると、ジョルジュは紅茶を飲みながら、そう言った。
「30日の本番まで頑張って、最高ライブにしよう。ワクチンの接種が全員終わったら、みんなでパーティをやろう」
ジョルジュが楽器を片付けながら、チンパンジーのような顔で(これは、誰がやってもチンパン顔になる)、舌先を前歯の上でスライドさせる運動をやっていた。
なかなか奇妙な光景でもあった。
でも、続けると、顔がシャキッとなるのだ。えへへ。やってみてね。

ということで、つづく。

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