JINSEI STORIES

滞仏日記「ママ友トーク、田舎で炸裂。コロナ差別の足音が聞こえる」 Posted on 2021/05/08 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、パリに帰る気になれず、息子に
「食料まだあるかなぁ」
とSMS送ったら、ある、と単語が戻ってきたので、もうちょっと田舎にいることにした。
日曜日の地球カレッジまでに戻ればいいので、気が楽だ。
たぶん、こんな感じで、今後、ずるずると田舎暮らしが長引きそうな気配である。
午前中、海辺を歩き、帰り道、可愛い食料品店を見つけた。
ガラス越しに覗いていたら、ニンハオ、と声をかけられたので、こんにちはですよ、と言ったら、あら、日本人、珍しい、と笑われた。何で、笑う?
「きゃー、日本人よ。日本好き。にんはお~」と中から出てきた別の女性が、・・・
「だから、ニンハオじゃない、違うって」
アジア人が好きな人たちなんだな、と思ったので、自然に笑みが浮かんだ。
そこで美味しそうなフォカッチャとアスパラガスを買って帰り、白ワインでランチにした。うまーーーい。こういう瞬間がたまらない。
息子の学校のZOOM会議があり、大学進学塾の説明会があった。
その会議が終わるころに、ワッツアップのグループ電話がかかってきた。
会議に参加していた、ママ友たちからであった。
「やっほー、ひとなり~、あんた田舎にアパルトマン買ったんだってね。どう?」
まず先陣を切ったのは、レテシアだった。

滞仏日記「ママ友トーク、田舎で炸裂。コロナ差別の足音が聞こえる」



滞仏日記「ママ友トーク、田舎で炸裂。コロナ差別の足音が聞こえる」

「めっちゃいいよ、パリに帰る気になれない。リズム感が全然違うから、安らぐ」
「寂しくないの?」とソフィー。
「友だち出来た?」とイザベル。
「ま、友だちっていうか、顔見知りなら、数名出来た」
「あなたはすぐに誰とでも仲良くなるからね、得な性格よね~」とレテシア。
「差別されてない? 田舎は保守的だから。とくにアジア人はいま・・・」
と言ったのはアナイスという、アジア系、たぶん、カンボジアの血が混ざっているお母さんだった。
「ないけど。パリで、差別、流行ってるの?」
「いいえ、でも、アメリカにいるママがね、差別されたって、昨日、泣きながら電話かかってきたのよ」
「マジ? どんな?」とソフィー。
「それがね、黒人の子たちがアジア系の年配の女性を不意に殴ったりするのが流行ってるみたいで。コロナの影響もあるんだけど、ママも付け狙われ、ちょっと怖い目にあったみたいよ。これは現実問題として結構あるらしい。しばらく家から出たくないって」
ニュースなどで読んだりしていたけど、身近な問題なんだ、と思った。



「アメリカで流行したことが数年後、フランスでも流行るというから気を付けないと」とソフィー。
「ぼくはないな、差別を受けたこと、ない」
「ひとなり、あなたは狭いカルチエで生きてるし、割と安全なところにいるから、差別とか暴力を受けないだけよ。むかつく」とアナイス。
「あるの?」とぼくがアナイスに聞いた。
「あるわよ。それを差別と言っていいかどうか、わからないけど、昨日もマレ地区のアルジェリア系のクスクス屋で差別受けた」とアナイスが告白した。
「どんな~」とイザベル。
「並んでたのよ。店員はどの客にも愛想よかったんだけど、私の番になり、でも、私には聞かないで、私の後ろの客に聞いたの? で、私が先なんだけどって軽く文句言ったら、ふてくされた顔で、で、あんたは何食べんの? って言われた」
「いやーねー」とソフィー。
「それは差別だわ」とレテシア。
「ひとなりは、中心部に住んでいるからわからないのよ。お上品だから」
「わ、アナイス、それ逆差別じゃねー?」とぼく。
みんなが笑った。

滞仏日記「ママ友トーク、田舎で炸裂。コロナ差別の足音が聞こえる」



地球カレッジ

「でも、アメリカの差別もブラックライブズマターの抗議運動が起きている横で、黒人たちがアジア系の老女に憂さ晴らしのような暴力をふるっているのよ。それも一方で現実なんだから。パリでも、差別する人は差別をされてきた人たちがその憂さを晴らす目的で、敵対するアジア系のしかも弱い女性を狙ってる、これも現実なんだから。表沙汰にはあまりならないけど、現実問題として、そういう差別があるのよ」
確かに、ネットニュースなどで読んだことがある。
でも、社会問題化しているとまでは言えない。一部のギャングたちの勇気試しのような感じ、・・・で、アジア系が狙われているのだった。



先日の日記でも書いたけど、たとえば、日本でも、外国人慣れしてない地区に日本語をぜんぜん喋ることが出来ない外国人が来た場合、ホテルとか観光系の商店ならまだしも、外国人慣れしてないお店の人、とくに年配の方はどう対応していいのかわからなかったりする。
別に差別をするつもりでもないけど、外国人をその風貌や言葉から、近づきがたいと思う人もいるだろう。
相手によっては差別されたかな、と思う場合もある。
アナイスに、そのアルジェリアの店員さんは、外国人だから言葉が通じないと思ってそういう対応したんじゃないの、と聞いてみた。
「ぜんぜん、私はこっちで生まれているから、ネイティブなんだけど、その後も、対応が酷かった。最後に、あなたは差別主義者なのねって、言ってやったわよ」
「ナイス」とソフィー。
「そうよ、はっきり言うべきよ」とレテシア。
「でも、差別って、実は圧倒的に、弱者が受けるもので、差別を受けてきた子たちは自分よりも低い立場のものを見つけては、自分の存在理由を高めるために、差別をすることこともあるのよ。嫌な世界だけど、階級制度がまだ残るフランスには、残念だけど、あるのよ」



レテシアもソフィーもいいとこのお嬢さんで、フランス人でパリ育ち。アナイスは肌の色が違うから、ずっとそのことを抱えて生きてきた。イザベルはユダヤ人だから、これがまた、日本人には絶対理解しにくい問題を抱えていて、これまた違った形の差別を受けている。
「私はユダヤ人だから、けっこう差別を受けたことがあるわよ」
こういうことを隠さずに話しあえるママ友たちが好きだ。彼女らはぼくのフランスの教師でもある。
「セルジュ・ゲンスブールが生前、ユダヤ人でロシア系で最悪だろ、と自嘲気味に笑いをとったことがあったじゃない? 私、ユダヤ系でロシア系なのよ」と言って笑いだした。
「小さい頃、なんかね、目に見えないところでグループに入れてもらえなかったことがある。黒人とかアジア系とかアラブ系とか見た目の差別があるのもわかるけど、ユダヤ人に対する深い根っこのところでの差別はなかなか陰湿なものよ」
イザベルはこれをサラっと、ちょっと冗談っぽく言いきった。
でも、こういう重たい話しも彼女らは逃げずに向かい合って議論をし続ける、そして、なぜか、最後はエロな方へと向かう( ^ω^)・・・
まもなく、下品な話しへシフトし、黒人の男がどうだとか、アラブ人の男と付き合ったらこんなことがあったとか、ユダヤ人の彼しはケチだったとか、かなりの毒舌トークへなだれ込んでいった。いつ日本人の男に話しが及ぶのじゃないか、とはらはらし通しだった。
「で、ひとなり。あなたはフランス女のことをどう思うの?」とソフィー。
でたー、やっぱりぼくに回ってきたか、・・・。
「つきあったことがないから、わからないけど、ぼくには敷居が高いかな、と思います」
と言ったら、いきなり全員が声を大にして、
「それこそ、差別! 」
と叫んだのだった。もちろん、笑いながら・・・。高、敷居!!!

滞仏日記「ママ友トーク、田舎で炸裂。コロナ差別の足音が聞こえる」



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自分流×帝京大学