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リサイクル日記「夕陽が人間に教えてくれること」 Posted on 2023/02/01 辻 仁成 作家 パリ

リサイクル日記「夕陽が人間に教えてくれること」

太陽が沈んで、水平線や地平線に近くなると、空が赤くなって、夕陽がうまれる。
元気よく光りを放っていた太陽が地球の向こう側に消える時、地球は赤っぽくなって、切ない感じをぼくらに伝えてくる。
夕陽を眺めるのがなぜこんなに好きなのか、美しいと思うのか、悲しいのに美しいと思うのはなぜか、ぼくは夕陽を見ながら、今日もまた、考えていた。

リサイクル日記「夕陽が人間に教えてくれること」

「さようなら」と思いながら夕陽を見ている。
そして、「またね」という言葉が最後に出てくる。
明日かまたいつか夕陽に会えることを、ぼくらは生きることとつなげて考えてしまう。

リサイクル日記「夕陽が人間に教えてくれること」

そして、夕陽をぼくたちは「見送る」のである。
たとえば海の向こうに沈んでいく夕陽はぼくらに心があることを思い出させてくれる。
そのあまりの切ない美しさが人間の心に与えるメッセージは生命としての根源を表すものでもある。
だから、ぼくらは夕陽にため息を漏らすのだ。
宇宙からのメッセージを受け取った生き物はみんな与えられた命の偉大さをその時、静かに、本能的に、悟っている。



リサイクル日記「夕陽が人間に教えてくれること」

太陽が最後の力を振り絞って、海の向こう側に消えるまでの最後の瞬間に、ぼくらは儚さと安らぎを同時に覚えていたりする。
またね、また明日、と思いながら、次に出てくる言葉は「ありがとう」しかない。

リサイクル日記「夕陽が人間に教えてくれること」

「ありがとう」本当にありがとう。
この「ありがとう」には損得がない。
心の底から出てくる美しい感謝の気持ちだ。浄化され、清められた「ありがとう」なのである。
それを素直な感謝と言い換えてもかまわない。
心の底から自然に現れてくる「ありがとう」に、ありがとう・・・



リサイクル日記「夕陽が人間に教えてくれること」

ぼくらは沈んだ夕陽を懐かしく思いながら、その偉大なる余韻に浸って、心を癒すのだろう。

そこに「月」が寄り添っている。
それは去っていった太陽の鏡のように、ぼくらを悲しくさせないための灯なのである。

リサイクル日記「夕陽が人間に教えてくれること」

心が癒されたら、人間も動物もありとあらゆる生き物は眠りにつく。
感謝というものがこの宇宙全体に広がっていく。
静かに空気を吸い、静かに吐き出す。
打ち寄せては返す波のように、ぼくらはこの星で生きている。
ぼくは最後に、目を閉じ、口元を緩め、夕陽の美しさを思い出しながら、もう一度、「ありがとう」とつぶやく。

明日のために。

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