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退屈日記「子供たちを料理好きにさせるための父ちゃんからのアドバイス」 Posted on 2021/07/19 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、子供に料理を教えたい。でも、どうやって教えたらいいの? 
辻さんはどうやって息子さんとキッチンに立つようになったの? とよく聞かれる。
もちろん、思春期の息子、一筋縄ではいかない。
しかし、料理は生きることだ、子供のうちから料理と向き合うことを経験させておくは、間違いなく、将来にいい影響を与える。
ぼくはとくに、この子が将来フランスで生きていく上で、自炊できることはとっても大事だと思ったので、そこは毎回、チャンスをみて、今だ、と思う時に手ほどきしてきた。
つまり日々の「父ちゃんの料理教室」はいつか彼の財産になると思っている。
彼は今、4,5皿のレパートリーがあるけど、基礎が出来て入ればそれが増えるのは目に見えている。
まずは、キッチンに好きな場所にさせること、これが第一歩である。



男子厨房に入るばからず、というのは時代遅れの言葉と言えよう。さようなら。
ということで、たまに、2人でキッチンに立ち、料理をする。
普通、17才の男の子は恥ずかしがって、というか嫌がって、キッチンに並んで立つことはない。
でも、うちは息子が小学生の時から父子家庭がはじまったので、その早い時期から、無理やり、キッチンを憩いの場に変えてきた。
キッチンで繋がるのが一番自然だった。美味しいものが2人をつなぐ。
ぼくはたまたま料理が好きだったから、教えることで、思春期の息子の心の中に入っていこうとした。
彼は思春期で、反抗期だったけれど、血なのか、彼も料理が好きな素地があった。これはラッキーなことだった。
「父ちゃんの料理教室」は頻繁に行われるようになった。それは、今もまだ続いている・・・。
好きな料理を自分で作ることが出来るようにさせる。
そこまでがファーストステップだ。



最初は冷凍餃子の焼き方とか、そういう冷凍ものの解凍の仕方を教えたが、いや、これはバカにならない。
こういうことが出来ると子供は社会の仕組みを覚えていく。
あえて、失敗させ、やり直し、ちゃんとしたものとちゃんとしてないものとの差を食べ比べさせることで、調理そのものに目覚めさせることも出来るのだ。
冷凍餃子とか、乾麺のうどんとか蕎麦のゆで方、ご飯の美味しい炊き方、を学んだら、次に教えるのは目玉焼き、卵焼き、ニラ玉、卵炒飯など、卵系の料理がいいだろう。
そうすることで、料理がだんだん好きになっていく。

「父ちゃんの料理教室」に書かれていることは、息子とぼくの食を通して繋がってきたこれまでの歴史というか、父子の在り方そのものである。
自立に向かう息子に、父親として、いくつかとっておきの辻家の定番家庭料理の作り方を教えておきたい、という最初の思いがこの一冊には凝固している。
読み返すと、その時々で、難しい時期の息子とキッチンで語り合った時のことが書かれていて、にやにや、思い出す。
料理をしながらだとタブー話にも切り込むことが出来た。
彼の精神状態を知ることもできる。
もちろん、恋人との関係とか、その親御さんらのこともぼくはキッチンで知った。
キッチンは、心を開く場所だ。そして、キッチンはぼくにとっては悲しみを癒す場所だったし、ツイートをする場所でもある。



息子は、ぼくを探す時、なぜか、まず、キッチンにやってくる。それだけ、ぼくはキッチンにいることが多いのだと思う。
正直、あと一まわり大きなキッチンだったらなぁ、と思ったこともあった。でも、いや、逆にこの狭さが二人を繋ぐいい距離になってきたのかもしれない。
「手伝おうか」
と機嫌がいい時、息子が言う。
「ありがとう。じゃあ、米研いでくれる?」
こんな会話が出来るようになったら、もう、心配することはない。

退屈日記「子供たちを料理好きにさせるための父ちゃんからのアドバイス」



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