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退屈日記「日曜日の午前中、教会の鐘の音を聞きながら散歩に出る」 Posted on 2021/08/01 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、少年は我が家にきて三日目の朝を迎えた。
ベッドから出ないでずっとゲームをやっている。
パジャマのままで、着替えないし、何か心を閉ざすような感じで、ゲームの世界に没頭している。
離婚直後の息子もこんな感じでずっとゲームの世界に入り浸っていた。ま、仕方ないのかな、と思ったけど、外は晴れているし、ちょっと連れ出した方がいいのかなぁ、とも思った。
「ゲームばかりしてちゃ、ダメだよ。おじさんとお昼ご飯の買い物に行こう」
「えーー、やだ。ゲームしてたい」
「晴れてるから、行こう。今日は日曜日だから、お昼でスーパーしまっちゃうんだ」
「えーーー、でも」
「二コラ君、アイスとか食べたくないの。めっちゃおいしいアイス売ってるんだけどな」
「食べたい」
ということで散歩に出ることになった。笑。行動がうちの子と一緒や!!!

退屈日記「日曜日の午前中、教会の鐘の音を聞きながら散歩に出る」



退屈日記「日曜日の午前中、教会の鐘の音を聞きながら散歩に出る」

とにかく、掃除をしなきゃならないので、歯を磨きに行かせ、布団を片付けた。
二コラ君が持ってきたドゥードゥー(子供たちのぬいぐるみのこと)が布団の上に並んでいる。息子のチャチャ君と同じメーカーの子もいる。
フランスの子供たちはぬいぐるみを結構大きくなるまで大事に持っている。大人になっても手放さず、大事に保管している人がいる。
親が離婚をして、環境が変わった子にとって、いつまでも変わらないぬいぐるみたちはいつもそばにいる味方なのである。
ぬいぐるみに自分を投影させ、ぬいぐるみと共に考え悩み、泣いて笑って成長していくのである。
「名前は?」
「これが、ルスティ」
茶色いぬいぐるみを指さしながら言った。
「白いのがプティヌヌス、緑のがルワワンダ」
覚えられない。
「やあ、みんな元気かな? 二コラ君は着替えて、散歩に行った方がいいと思い人? ふわーーーーい」
と昨日、教えた日本語の変な挨拶を腹話術でやったら、二コラが面白がった。
「みんなも行くかい? ふわーーーーーーーい」
「行こう! ふわーーーーーーーい」
子供は素直でいいね。
「じゃあ、掃除をしてから行くから、その小さな椅子に座って漫画でも読んでいてね」

退屈日記「日曜日の午前中、教会の鐘の音を聞きながら散歩に出る」



息子はまだ寝ている。17才にもなると、昼に起きてきて、明け方に寝るという生活だ。ま、自分も深夜放送を聞いて朝まで起きていたから、一緒なのであまり叱れない。
昼ごはんまでにはおこさないと。お父さんは大変である。昼はカレーライスかな・・・。
「二コラ君、ルスティたちはリュックに入れて、公園でサッカーでもやるか?」
「やだ。ぼく、サッカー嫌いなんだ」
「じゃあ、漫画を公園で読んでもいいよ。太陽の下の方が体にいいから」
「ふわーーーーーーーい」
いちおう、息子のサッカーボールがあるので、それを持っていくことにした。
ぼくが一人でやっていると、必ず、やりたくなるのも、子供なのである。えへへ。
公園のベンチで日向ぼっこをする。水筒に水をいれ、お菓子もちょっとリュックにいれておこう。
ということで、ぼくと二コラ君とルスティとルワワンダと、ええと、プティヌヌスの3匹は出かけることになった。
日曜日の午前中、公園では日向ぼっこ、そして、買い物に行ってきます。笑。

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