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リサイクル日記「今日を最高の一日にさせるための、気分アップ作戦」 Posted on 2022/08/08 辻 仁成 作家 パリ

リサイクル日記「今日を最高の一日にさせるための、気分アップ作戦」

某月某日、パリを離れる前に、ちょっと考えたことがあるので、もう一度、おさらいを含めて、書かせてもらう。
つまり、今日を最高の一日にするために、いったいぼくらに何が出来るのか、ということである。
気分をアップさせるために、いったいぼくは何をすればいいのか、ということ。

代り映えしない毎日だけど、そういうどうでもいい日常であっても、気分が上がったり下がったりを繰り返している。
人生は予期できない波形のようなものだ。「今日はいい日だった」という日もあれば「今日は最悪だった」という日もある。
なんだろう、いいことって、おびき寄せることじゃないか、と思う。
小さないいことをどんどん引き寄せていくと、それがまとまって大きくなる。
何となく一日がいい感じになっていき、そういう時って、だいたいいいことが続いて、流れが出る。
気は持ちようと言うけど、まさにそれ。

朝、最初に飲むコーヒーがいつもよりちょっと美味しく淹れられた時とか、気分は上がる。
昨日のバゲットがまだ硬くなってなくてトースターにいれたらカリっとなれば、気分が上がる。
起きてきた息子の機嫌がいいと気分も上がる。
メールチェックして、楽しそうな仕事依頼が入っていたりするとめっちゃ気分が上がるんだ。
これだけですでに午前中は満点。
いいぞいいぞ、調子いいじゃないか、ヒトナリ、と自分に言うだけでさらに気分が上がる。
そもそも、気分を上げるのは最初は間違いなく自家発電に限る。
自分でエンジンをかける。
ゼンマイは自分で巻く。
自分で火を起こさなきゃ薪は燃えない。
それと一緒で、最初は盛り上げ役の自分が大事なのである。

リサイクル日記「今日を最高の一日にさせるための、気分アップ作戦」



リサイクル日記「今日を最高の一日にさせるための、気分アップ作戦」

なんとなくリズムが出るというか、ペースが出てくると、さらに気分を上げることをやってみる。
そういうのって人生の流れを変えることだから、たとえばベッドカバーを変えるとか、窓ふきをしてみるのだ。
部屋の空気を換えるだけでもかなり気分は上がる。
身体を動かすと気分は上がる。部屋が片付くのも気分をあげる。
ここまで気分が上がると、もうこっちのものだ、と思い込むことがとっても大事で、そういういい空気の流れが自分の体内をぐるぐると回っていると思うといい。
いいことはいいことを呼びよせるので、その勢いで外に買い物とかに出るとなおいい。
顔馴染みの仲良しの店に顔を出して、バゲット買ったり、ワイン買ったり、ケーキ買ったりする。
今日は好きな店員さんたちばっかりだったので気分が上がった。
そういう毎日の出会いはバカにならない。やあ、とか、元気かい、とか笑顔を向ければ笑顔が帰ってくるので、当然、気分が上がる。
今日、朝一で会った、アンティーク屋のデンマーク人のクラウスが、素晴らしい天気だね、気分いいね、と声をかけてくれた。アドリアンが道の反対側から、サリュ、神のご加護を、と言ってくれた。
ワイン屋のエルベが大きな笑顔で手を振ってくれたし、最近会ってなかったスーパーレジのマダム・シダリアとも久しぶりに会えたし、パン屋のベルメディさんも満面の笑みで手を振ってくれたし、シェフのメディは店から出てきて、やあ、ムッシュ、いい天気だね、と言ってくれた。
カフェのギャルソンのセドリックはウインクをしてくれたし、そこのカウンターの中にいた名前もまだ知らないオーナーの奥さんが初めて、また来てよね~、と大きな声で手を振ってくれて、こうやって思い返すと、みんな本当にいいやつらばっかりで、しかも笑顔なのだ。

リサイクル日記「今日を最高の一日にさせるための、気分アップ作戦」

リサイクル日記「今日を最高の一日にさせるための、気分アップ作戦」



リサイクル日記「今日を最高の一日にさせるための、気分アップ作戦」

これにはトリックがあってね、ぼくがいつも気分上げるためにみんなに笑顔で手を振っているから、彼らにもいい気分が届いているわけで、だから、手を振ってくれる。いい気というのはこういう風に繋がっていて、ぐるぐると町内を巡って回っている。そのいい気分の中に入っていた方が楽しいのは当然であろう。
ぼくは御覧の通り、彼らからすると言葉もろくに喋れない日本の作家だが、笑顔に何人とか関係ないし、そもそも笑顔の人たちから嫌な思いをさせられたことがない。
考えてもらいたい。
みんな笑顔だから、そこに揉める要素がないのだ。
好きな人たちに囲まれて生きるってすっごく気分を上げる基本だ。
ロックダウン最中、ぼくはずっと医療従事者に向けて拍手を送り続けていたので、いつしか、通りを挟んだ建物の住人たちとも顔見知りになった。
なので、すれ違う時に、あ、あなた、知ってる。どこから来たの? と声をかけられたこともある。「日本」というと「大好き」と言われた。
気分上がるよね。こういう日は無敵なんだ。
幸せになるために人間は生まれて来た。何も遠慮することはないだろう。自分の街を愛していれば、落ち込んだ時に助けてくれるし、ぼくも助けたい。
結局、気分というのは自分次第で上げ下げが出来るっていうものなのだ。
笑顔は無敵です。



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