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滞仏日記「どうやって、ストレス無しで生きるのか。地中海人に学んだ」 Posted on 2021/09/11 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ぼくがいま、プロバンスのリルシュルラソルグで宿泊しているシャンブルドット(民宿のこと)は、一組しかお客さんをとらない。
町田陽子さんとご主人のダビッドの2人で経営をしているのだけど、一階が客室、結構、広くて、リビングルーム、寝室、トイレ、大きなお風呂が付いている。
寝室だけでも普通のホテルのセミスイートくらいの広さがあり、お風呂には、シャワー室とバスタブが完備、こちらもかなり広い。
上の階がご夫妻との共有スペースで、朝食とか夕食を食べる食堂、サロン、そしてキッチンだ。
三階がご夫妻の仕事場と寝室、そして、なんと見晴らし抜群の屋外テラスが付いている。(ちなみに、宿泊費は二泊からで、一日一部屋、210ユーロ。これは安いと思う)

滞仏日記「どうやって、ストレス無しで生きるのか。地中海人に学んだ」

※ かなり、広いバスタブ!!! ラベンダー入りの岩塩で入るのだけど、しびれました。

滞仏日記「どうやって、ストレス無しで生きるのか。地中海人に学んだ」



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※ 寝室もかなり広い。ベッドはクイーンサイズ? 一人で寝ているのが寂しいくらい。笑。

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※ これ、日曜大工で、ダビッドが作った食器棚、す、すごい。何でもできる・・・。

ほとんどのお客さんは日本人なのだそうだ。
ダビッドは日本を離れ、プロバンスに戻ってから日本人向けの旅行ガイドをやっていた。
ところがリピーターのお客さんらに「シャンブルドットをやったら泊まるのに」と言われたのがきっかけで、風光明媚なリルシュルラソルグに古い民家を購入。
そして、旅行ガイドもやるし、元シェフなのでプロバンス料理も提供するという、かなり個性的な民宿がスタートすることになった。
町田さんはもともと東京で編集者をしていた。
ダビッドの店「バンドール」の常連さんだったのだ。
2人は出会い恋に落ち結婚。2人で彼の故郷、プロバンスに移り住んだ。そして、いろいろとあって、シャンブルドット「モンローズ」をはじめた。
モンローズの名前の由来を聞いたけど、なんか楽しそうに、二人にはぐらかされたので、つっこまないことにした。
ともかく、楽しんで生きることを大事にしたい民宿なのだそうだ。

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※ テラスが心地よい。なんとも言葉で表せない可愛くて、人間味のある、贅沢な空間・・・。



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※ こちらが宿のサロン。暖炉がある。

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※ こちらが食堂。朝食を食べる場所である。朝から美味しいものが出てくる。

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※ 二階にあがる、階段・・・。



プロバンス生まれのご主人は東京で12年も暮らしたことがあり、日本語がペラペラな上、タレント性も半端ない。
まるで、芸人の方と一緒にいるような愉快な気持ちになる。
その彼が案内をするプロバンスが面白くないわけがない。
ということでリピーターも多く、大繁盛なのであった。もっとも今はコロナ禍で日本のからのお客さんは少ないのだそうだけど、彼らは焦っていない。
いつかまた戻ってきてくれますよ、と微笑んでいる。
ダビッドはその暇な時間を利用して、初の料理本を計画しているのだそうだ。
そのくらいダビッドの料理は美味しい。
2000年の頭に、外苑前にフレンチレストラン「バンドール」をオープンさせた。
フランス人のたまり場になりすぎたのだそうで、やめた理由は聞かなかったけれど、どうやら、ダビッドはいろいろな世界を転々とするのが、好きな性格のようだ。
惣菜屋、ラジオ局のディレクター、バンジージャンプのインストラクター、料理人、ガイド、民宿経営者、などなど・・・。
根っからのノマドのようである。今の彼の夢は伊豆半島で奥さんと二人で民宿兼アンティーク屋をやることらしい。行きたい。

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※ テラスから見える路地。穏やかな風が流れている・・・。

それにしても、羨ましい人生だと思う。
ぼくなんか一年中四苦八苦して家事や子育てで苦しんでいるのに、ダビッドは楽観主義者でつねに自由に生きている印象がある。
今回の短い出会いの中だけでも、彼から学べたことがいくつものあった。
一番、素晴らしかったのは、奥さん曰く、彼は一度も人の失敗を批判したことがないのだとか・・・。耳が痛い。
「だって、そうでしょ? 失敗した人間が一番、その失敗のことを知ってるでしょ? それなのに、周りがとやかく言うと、うるさいだけでしょ? だから、ぼくから言うことはないんですよ」
それが本当なら、彼は神様みたいな存在ということになる。息子を叱ってばかりいるぼくなんか、逆立ちをしても敵わない人徳者ということになる。
「辻さん、ストレスを溜めないということは、つまり、人にもストレスを与えないこと。これしかないんですよ」
なるほど、まさに!!! 勉強になりました。

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