JINSEI STORIES

滞仏日記「アンティークとガラクタのあいだ。そして、ぼくは天使と出会った」 Posted on 2021/09/13   

某月某日、ぼくは今日、ちょっと気になるものが目に留まったので、それはあまりに可愛い骨董品なのだったが、何せ、オンラインツアーの生配信中だったので、買いに戻るに戻れず、とにかく一旦諦め、配信後にアンティーク市に走って戻って探すことになる。
一瞬、目の前を過っただけのものだったが、「私をパリに連れて帰って」と訴えられたのである。
ぼくは間違いなくその子の訴えををキャッチしたのだ。
しかし、その時、カメラは回っていたし、電波が日本目掛けて飛んでいるさ中であった・・・。
それで、生配信終了後(正確には食事が終わった後)、ぼくはスタッフから離れ、小川の近くに連なるブロカント(ガラクタ市)周辺を走りまわることになった。

滞仏日記「アンティークとガラクタのあいだ。そして、ぼくは天使と出会った」



ちょっと話しが脇道に反れるが、アンティークとブロカントの違いは何か、というと・・・。
アンティークというのは仏語で「骨董品」を意味し、正式には、製造後100年以上の時間が経過している手工業品、工芸品、芸術品、衣類などのことを指す。
で、ブロカントとは「古道具、ガラクタ、セコハングッズ」という意味なのだ。
アンティークみたいに長い歳月を経てはいないけれど、それでもずいぶんと昔に作られ、長く大事に愛されてきた古道具のこと、それを売る市場のことをブロカントという・・・。
プロバンスのリルシュルラソルグ、今日、ぼくらが歩いたアンティーク市はどっちかというとブロカントの要素の強いもので、高級骨董品はヴィラと呼ばれるアンティークデパートのようなところに集中してあり、区別されているようであった。
しかし、この辺の線引きは非常に難しい。ブロカントの中にも100歳を超えるフォークやナイフ、お皿、人形もあった。
ともかく、ぼくが見たその子は、ガラクタと称されるようなものを集めたブロカントのスタンドにあったのだ。
でも、あれは歳月に関係ない、ぼくにはとっても意味のある、まるで生きているような、天使にしか見えなかった。

滞仏日記「アンティークとガラクタのあいだ。そして、ぼくは天使と出会った」



スタッフと食事をした後だったので、すでにアンティーク市、ブロカント市は片付けがはじまっていた。
しかし、ぼくは探し続けたのである。
何軒も見て回った。たしか、このあたりだった・・・。もう売れちゃったのだろうか・・・。
「早く、探し出して、私はあなたと一緒にパリに行きたいのよ」
その子の声が耳奥でこだまする。
でも、市は、時間とともに、どんどん片付けが進み、もはや、見回す限り、絶望的な状況であった。
トラックに荷物をまとめている人もいた。その大きなケースの中に、その子がすでに仕舞われているかもしれない、と思い、ぼくは嘆息をこぼした。
これは縁がなかった、諦めるしかないのだろうか、・・。
と、肩を落とし、宿に戻ろうとした、ちょうど、その時、片付けをしているとあるブロカントスタンドの端っこに、なんと、その子が、一人、まるでぼくが迎えに来るのを待つ、幼い園児のような感じで、残っていたのである。

「あああ」

と大きな声が出たので、その店のおじさんが驚き、ぼくを振り返った。

ぼくは、その天使を指さし、

「その子をください!」

と叫んでいた。

滞仏日記「アンティークとガラクタのあいだ。そして、ぼくは天使と出会った」



おじさんは、くすっと微笑み、その子を新聞紙にくるんで、ぼくの前にそっと、差し出した。

「この子がね、君が引き取りに来るから、もう少し待っていてくれって、・・・。よかったよ。間に合って」

ぼくはその天使を掴んで、もう一度、その子の顔を覗きこんでみた。やっぱり、この子だ。これは運命なのであろう。

「ありがとうございます。大事にさせてもらいます」

ぼくはそう言い残すと、その天使を抱きしめ、歩き出した。
パリの家に連れて帰ることになるのだった。

つづく。

滞仏日記「アンティークとガラクタのあいだ。そして、ぼくは天使と出会った」



自分流×帝京大学
地球カレッジ
新世代賞作品募集