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退屈日記「コロナ禍世界について、ここ最近の雑感」 Posted on 2021/09/16 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、コロナはいつ終わるのだろうか。
大きな波が繰り返し、起きていている。
感染者数が減ったり、増えたり、第4波、5波というように、繰り返しているのだけど、流行当初に予測されていた通り、ペストの時代、スペイン風邪の時代、とほぼ同じような動きになっている。
これだけ科学が進歩していても、ウイルスを簡単には制圧できず、人類はもがき続けている。
ペストは結局、数十年も続いたのだ。(全体で70年続いたという説もある)
ぼくはその専門家ではないけど、やっぱりウイルスの動きはどの時代であろうと同じなのだと痛感させられる。
新たなウイルスが出てくる可能性をWHOは否定していない。
フランスは全国民のワクチン接種率(最低一回の接種を終えている人)が81,4%に達した。反ワクチン派の抗議行動も続いてはいるけど、接種率は確実に増えている。



うちの息子の親友のI君はご両親がワクチン接種に反対なので、彼はワクチンを受けていない。
そのことで彼だけみんなと同じ行動が出来難い状況のようだ。
最近、頭痛と熱が長く続いているらしく、検査をすると陰性なのだけど、もしかすると無症状で過去にかかっていて、ロングコビッド症状が出ているかもしれない、と本人は考えているようだ。
ロングコビッド症状で苦しんでいる人がフランスでも増えている。
たとえば、明日、ぼくはライブをやるのだけど、衛生パスがないと入れないので、ママ友のリサがライブに参加するためには、薬局やラボなどの機関の抗原検査もしくはPCR検査を受ける必要がある。
彼女は反対派ではなくアレルギー体質だから打つのを控えているのである。
そういう人も結構いる。



たとえば日本で出しているワクチンパスポートは欧州では通じない。
実は、まだこのシステムが追いついてないのである。
フランスの衛生パス取得が8月27日からネットで申請できるようになっているのだけど、処理がまだ間に合わず、この知人は結局、衛生パスを手にれることができなかった。
彼は、コロナ検査を受けて、結局、72時間有効の衛生パスを取得した。(30ユーロくらいかかったのだそうだ)
今後、はスムーズに欧州のワクチン並びに衛生パスが取得できるようになるのだろうが、今はまだ混乱期にあるようだ。
知人曰く、
「いくつもの書類をスキャンして添付するなど、ネットでの衛生パス申請がかなり面倒くさかった」
とのこと。
いずれにしても厄介な世界がまだまだ続くということだ。



日本の大手観光企業が本社ビルを次々売却しているというニュースを読むたび、一日も早くコロナ収束をと願うのだけど、ワクチンの有効期間も3か月程度という意見まで出ていて、そうなるとブースター接種が不可欠になるが、三か月に一度の接種が義務になったら、と思うとぞっとする。
ワクチン接種をいつまでも続けないと安全が手に入らない世界などというものは想像もできないし、そうなると、過去の日常を取り戻すという発想は遠のく。



その中で、ぼくら人類の生き方、考え方も過去の価値感の復旧を模索するだけじゃなく、新しい価値観の模索こそが大事になるのだろう。
人間性の復権というか、ぼくらは永遠に耐え忍んで生きていくことはできない。
罹ってもかまわないから、人間らしく生きたいという人も出てくる。
今は、コロナ感染症の初期段階だから、ルールを守れない人を批判出来るとしても、この先、数年後も、このような制限のある社会が続く場合、人間は果たしてどこまで我慢することが出来るだろう。
じゃあ、どうやって人間性を取り戻していけるのか、発想も、やり方もこれまでとは違うものを考え出していかないとならない。
それはいったいどういう世界?
ぼくは今、自分の仕事、家族、人生を通して、毎日のようにどのような行動、計画、発想、安全を獲得していくのか、を模索し続けている。
人間復興のためにやれることが何か、考えない日はない。

退屈日記「コロナ禍世界について、ここ最近の雑感」



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