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退屈日記「田舎で蟹を買う。一杯、260円って、いいの? 安すぎるじゃん」 Posted on 2021/10/12 辻 仁成 作家 パリ

地球カレッジ

某月某日、カニを買いに、漁港をふらついた父ちゃん。
田舎の漁港はのどかで、安い。
岸壁をあるいていると、なんか、漁師さんが、蟹を売っていたので、覗いた。
いつものおじさんじゃない。はじめてみる顔だった。やはり、カイザー髭である。
美味そうな、トゥルトー(tourteau)が並んでいた。
いくらですか? と訊いたら、12ユーロと言われたので、ま、安いな、と思って、一杯買ったら、
「2ユーロだよ」
とおじさん。12ユーロと2ユーロってよく聞き間違えるけど、え???
「めっちゃ安くない?」
ぼくがそう言うと、並んでいた後ろの人たちが大笑い。

退屈日記「田舎で蟹を買う。一杯、260円って、いいの? 安すぎるじゃん」

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ネットで調べたら、楽天市場で、フランス産トゥルトー(tourteau)は3500円だった。
2ユーロって、260円の蟹!!!
「もう一杯ください」
で、二杯買い、家に帰って、さっそく茹でた。ローリエを一枚、いれといた。
茹でるのは15分くらいだけど、そこから身をほじくりだすのに、だいたいいつも1時間はかかる。でも、蟹を食べるのに根気と時間が必要だ。
あとはポン酢でも美味しいけど、ぼくはパスタにした。
味噌を生クリームであえて、カニみそクリームを作って、バゲットにぬって、食べてみたけど、香ばしい、独特の海の香りと、クリームが混ざり合って、美味しい。

退屈日記「田舎で蟹を買う。一杯、260円って、いいの? 安すぎるじゃん」

※ 蟹を解すのが本当に、大変で、専用蟹ばさみを地元のマルシェで購入。かなりの戦力になった。一杯ほぐすのに一時間かな・・。ほぐしたあと、指で、ちゃんと選別しないと、残った殻で口腔内、けがします。

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※ ほじくりだしたカニみそを、生クリームとオリーブオイルで。あと、塩胡椒だけだけど、香ばしいディップになるので、バケットに塗って食べるのだ! うまい!!!

退屈日記「田舎で蟹を買う。一杯、260円って、いいの? 安すぎるじゃん」



生の麺をちょっと茹で、蟹とカニみそクリームとオリーブオイルであえ、塩胡椒。
そこにマスの卵を載せて、完成である。
余計なものは何もいらない。
白ワイン、今日は田舎のカーヴ(ワイン屋さん)で買った小さなシャトーのシャルドネ。
蟹の風味とワインの香りが絶妙である。
沈みゆく夕陽を眺めながら、父ちゃんタイムが流れていく。
ギターを持ち出し、最近取り組んでいるジャズの名曲「テイクファイブ」の練習を。
月一で、パリのカフェなどでシークレット・ライブをやることにした。
少人数のサロンのような、・・・歌ってないと、腕が鈍るので、継続してやれる店に出張して、見知らぬ客を前に、演奏するスタイルで、投げ銭でやっていく。笑。
4ユーロの蟹で、めっちゃ堪能できた夕飯であった・・・。
投げ銭で稼いでユーロをどんどん蟹にかえていきたい。
いひひ。

つづく。

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