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滞仏日記「クマ会議に参加をしたら、彼らが教えてくれた、人間らしい生き方」 Posted on 2021/12/01 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、眠れなくて、お気に入りのクマさんたちのぬいぐるみをツイートしてみた。
このクマたちの写真は、ニースのホテルの会議室を覗いたら、こうなっていたのだけど、ぼくはその時、コロナでこんなに苦しんでる世界だというのに、この会議室ではいったい何が起こってるんだ、とここにクマたちを並べた人のことを想像し、笑いだしたものであった。
それから、これはただ事じゃない、と思って、慌てて数枚写真を撮影した。
なぜなら、そこはホテルだから、今、経営的にも厳しい状況だろうに、誰かが気楽に覗くわけでもない会議室をどういう権限があって、しかも、このクマの巨大なぬいぐるみを、どこから持ち込んだのか、その上、こんな風に並べて、しかも、腕組みとかさせているし、この創作者の人間性に、微笑みが誘われ、いいホテルじゃんか、と思った次第であった。

滞仏日記「クマ会議に参加をしたら、彼らが教えてくれた、人間らしい生き方」



もちろん、クマが何らかの理由でそのホテルにあったのかもしれないし、会議室が殺伐としていたので、その人は上司に報告し、ちょっと楽しい会議室を作ってもいいか、と申し出て、その上司も、フランス風に、頬杖とかついて、あー、ウイー、いいんじゃないのー、となったと考えたら、コロナ禍の苦しみが一瞬和らいだ。
ぼくは写真を撮影しながら、そのクマたちがここで何について会議をしているのか、が次に気になりだし、コロナ禍だし、ホテル業界は大変だろうし、やってられないに違いないわけだけど、知恵出し合って、観光業をもりあげようぜ、という話しになったのじゃないか、と思ったら、もう一度、とっても嬉しくなったのである。
ちょうど、ぼくにとって大事なスタッフが急死した直後だったので、ぼくは悲しみと絶望の中にあったが、その人もクマが大好きだったので、もしかしたら、こんなところがそのホテルにありますよ、と教えてくれたのかな、とも思った。
ともかく、人間のこのユーモアのすばらしさ、大事にしたい・・・。

滞仏日記「クマ会議に参加をしたら、彼らが教えてくれた、人間らしい生き方」



で、さっき、ぼくはこれをツイッターにあげてみた。
すると、あっという間に反響があったので、同じく、インスタにもあげたら、インスタの方がビジュアルメッセージ受けがいいからだろう、「いいね」がいっぱいついてしまった。
クマさんたちはどんな会議をしているでしょう? 
と小さな質問も添えてみたのだけど、皆さんの想像力の幅広さにもまた微笑みを誘われてしまった。
一方で、南ア発のオミクロン株の感染者が日本でも発見され、シリアスな状況に世界は再び氷ついているのだけど、それも現実であるならば、このクマに和まさせられているこの状況もまた現実なのだと気づかされたのである。
そこでぼくが思ったのが、仮に今が第二次世界大戦の真っただ中だとしても、人間は笑いや、幸福や、美味しいや、楽しいや、かわいいは大切なのだ、ということ・・・。
むしろ、そういう時代だからこそ、ぼくらは人を励まし、笑わせ、楽しいことにも気持ちを傾け、歌い、語らい、それはたとえばオンラインだったとしても、大事なことなんじゃないかな、と思ったのである。
当たり前のことなんだけど、当たり前が難しい時代だからね・・・。

滞仏日記「クマ会議に参加をしたら、彼らが教えてくれた、人間らしい生き方」



そんなことを思っていたら、ぼくの目の前にいた議長のクマさんが、
「辻さん、その通りだよ。ぼくらはだから、今、コロナ禍の中でどうやってたのしく、クマらしく生きていけばいいのか、知恵を出し合って、議論しているんだ。よければ、参加しませんか? あなたの貴重な意見がほしいなァ」
と言った、ような気がしたのである。
「ええ、もちろん、オブザーバーとして参加させてください。なにせ、クマのぬいぐるみの世界のことはまだあまりよく知らないもので。ぷー」
とぼくが言った、気がすると、そこに参加していた各クマ国の大統領たちが大笑いをして、
「なかなか、人間のくせに、面白いことを言うやつだ」
と褒めてくれたのであった。あはは・・・。
ということで、皆さん、今日を楽しい一日にしましょう。
どんなに苦しい時であろうと、心の中は晴れがいいです。
寂しい時には、このクマさんたちのことを思い出してください。

つづく。

滞仏日記「クマ会議に参加をしたら、彼らが教えてくれた、人間らしい生き方」



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