JINSEI STORIES

滞仏日記「かわいいカトラリーが似合うパリで、ぼくは小さな秋を買った」 Posted on 2021/11/02   

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某月某日、雨がやんで晴れ間が広がり、爽やかな一日であった。
息子に昼食を与えた後、ぼくは買い物に出かけた。
行く当てもなかったのだけど、気分を変えたくて、何か一つ、小さなものを買おうと決めて出かけた。
クリスマスはまだ少し先だけど、街角のあちこちで気が早いことに、クリスマス商戦がはじまっている。
とくに目に留まったのが、カトラリーグッズたち。
アンティーク屋もあれば、専門店もあった。
クリスマスに家族を迎えるにあたり、ちょっとテーブルの上をかわいらしくしたいと思うのは人情かもしれない。
行きつけのアンティーク屋のショーウインドーが素晴らしかった。

滞仏日記「かわいいカトラリーが似合うパリで、ぼくは小さな秋を買った」

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「わお、このお皿ほしいなぁ」
と主夫は思うのである。
でも、小さなものを一つ買うのが目標だから、ここに並ぶ銀食器などはちょっと高価過ぎるわけだ。
ぼくは微笑みながら、またいつかね、と言い残し、その店をあとにした。
「そうだ、足を延ばして、ル・ボンマルシェまで行ってみよう」
何かかわいいものが絶対にあるはずだ。
デパートに入るとホールがクリスマス風の飾りつけで煌びやかになっていた。
おお、パリっぽい。上階にあがると、一角に、ツリーが数本そびえていて、そこではクリスマスグッズ、たとえば、オーナメントなんかを販売していた。
例年の光景である。
もう、そんな季節なのだな、と思いながら、何か小さなものを買う気満々で闊歩した。
店員さんと目が合った。
なので、店員さんに、買う気満々の笑顔を手向けてやった。えへへ。
コロナでいまだ大変な世界だけど、こうやって、またクリスマスはやってくるのだな、と思うと不思議な気分になった。
そうだ、食品館の上にカトラリーのコーナーがあったっけ・・・。
空中回廊を抜けて、ぼくはグラン・エピセリー側へと渡ったのだ。

滞仏日記「かわいいカトラリーが似合うパリで、ぼくは小さな秋を買った」

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すると、やはり、クリスマスに向けて、カトラリーグッズスペースが新設されていた。
アンティークのお皿や、カップや、テーブルクロスとか、クッションとか、生活のこまごましたものがきれいに並べられている。
何かぼくが絶対好きになる小さなものがあるはずだ、と思った。
人生にはご褒美が必要だから、ぼくはちょっと頑張った時に、自分に小さなものを一つ買う習慣がある。
映画祭に招かれた時、ライブのあと、出版記念に、自分の誕生日に・・・。
これは実に大切な行動で、ぼくだって人間だから、ご褒美やプレゼントには弱いのだ。
自分が自分のために買うのだから、絶対ほしいものに決まっているので、これは気分をあげるのにとっても大切な行動ということができる。
「あれ?」
ぼくは思わず、相好がくずれた。
見たことのあるものが目に留まったからである。
ブリキの飾りとか、万年筆を置くプレートとか、小さなスタンドとか、今もぼくの仕事場にある小さなものたちが、今年もちょっとアレンジされて、そこでまた売られているではないか! 
つまりぼくは毎年、ここで何か一つ小さなものを買っていることになる・・・。
あはは。

滞仏日記「かわいいカトラリーが似合うパリで、ぼくは小さな秋を買った」

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じゃあ、ここは飛ばして、食器コーナーに行ってみよう。
この老舗デパート、モノを選ぶセンスがいい。見やすい陳列、そして、この界隈にふさわしい、物静かなお客さんたち・・・。
お皿は好きだけど、うちのキッチンは狭いので、もう、置く場所がない。田舎に買って持って行ってもいいけど、あまりこれから先はものを増やしたくない。
だから、お皿を買うのだけはもうやめないと・・・。ふと、あるものに目が留まった。
ああ、なんてかわいいの?
それはコーヒーカップであった。
見回すと、これ、一つしかない。
ほかにも違う色のがあるかもしれない、と思い、店員さんを呼び止めて、質問をしたら、「それが最後、今日の午前中に入荷し、それで完売です」というではないか? 
SERAX社製のカップ、11ユーロなり。えへへ。
この淡い色合い、もうぼく好みだし、何よりも、これで最後、というのが、うれしい。これがいい!
「買います!」
ということで、また、辻家を彩るかわいいコーヒーカップをゲットした父ちゃん。
この小さなプレゼントに気分があがった。
てのひらの上に載るかわいいサイズ感も素晴らしい。握ったときのしっくりとくる安らぎも素晴らしい。シンプルで申し分ない。

滞仏日記「かわいいカトラリーが似合うパリで、ぼくは小さな秋を買った」



帰り道、アンジェリーナの新作、モンブランのミルフィーユを買って帰り、このカップでネスプレッソのペルーを淹れて飲んだ父ちゃん。
小さな秋の買い物のおかげで、ほんの少し、気分をあげることができた。
息子の風邪もほぼ完治したし、今日は焼き肉と得意のタコせろりごはんにするのだ!

滞仏日記「かわいいカトラリーが似合うパリで、ぼくは小さな秋を買った」



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